はじめに
私は今からできるだけ濃い文字で、できるだけ長持ちするであろう紙にこれを記す。書き残しておく必要があるからだ。これは私のエゴではない。起きたこと見たことを書き残しておくことは、誰かにとって重要になると考えたからだ。私には事態に対処するだけの時間も力もなかった。だから私は、これを読んだ誰かが世界のために動いてくれること、あるいは世界に何が起きたのかを知ることを願ってこれを記す。
全てが始まったのは、他とそう変わらない夏の日だった。
通学路の太った野良猫はいつものように道端でゴロゴロと喉を鳴らして丸まっていたし、退屈な教師の授業はいつものように私に眠気を誘ってきたし、やはりその日も私はじりじりと照り付ける太陽のもとでいつも通りの一日を過ごしていたと思う。明日も同じような一日が待っていると、意識的には考えずとも無意識下で信じていた。
誰もが信じていたと思う。
だってそうだろう?空からいきなり核爆弾が降ってきて辺り一帯が吹き飛んだりだとか、某国が扱いに苦心していたバイオ兵器が流失して世界中に散布されてしまったりだとか、そんなふざけた妄言は普段妄想力を逞しくさせ鼻の下を伸ばしている男子高校生ですら本気で信じたりはしない。もちろん今記した内容も全てそんな男子高校生の妄想に過ぎない。
でもそれは恐らく全て現実に起こったことだった。