第18話 不穏な空気
(やっとか、なんて言ってた?)
(「繋がってることは明かしていいが、それ以上は詮索させるな。全力で脅しとけ」だって)
(おっけ、ありがとね)
(はーい)
誤魔化しは効かないから繋がってる事だけ伝えて関係までは言うなって所か。
「さ、知りたい事も知ったようだしナズナは先に教室行ってきな、俺はまだ先生と話が残ってるから」
「わかったわ」
悩みの種が解決したからか軽い足取りで校長室から出ていく。
それにしても脅すって言ったってなぁ、手は出せないから脅すにも脅せないんだよな……
「……先生」
「なんだ?」
「先生の思ってる通り俺とジオウさんは繋がっていますよ」
「やはり! それなら先生は今どちらに……」
「ただ」
ジオウがやってたのってこんな感じか。
「っ!?」
「これ以上詮索しないことをおすすめします。これはジオウさんからの指示なので自分の身とよく相談して行動してください」
ナギは、ジオウほどではないが校長室が深海のように重くなるほどの覇気を纏ってそう発言した。
「わっ……わかった……先生が生きてると……知っただけで十分だ……もう詮索はしない」
その言葉を聞くと覇気を消しニコっと爽やかな笑顔で続けた。
「良かったです、俺もここではただの生徒なのでそんな怖がらないで大丈夫ですよ」
笑顔でそう告げ、校長室から出ていった。
「……ただの生徒は校長脅したりしないよなぁ」
校長の呟きは誰にも届かなかった。
§ 第19話 不穏な空気 §
ヴァーミリの近くの人気のない路地裏にて全身を黒いローブで包んだ2人の男。
「ふぅ、これで今日のノルマは達成っと、さっさと帰るかぁ」
「待てゲル、お前はヴァーミリで仕事がある」
足元にあるまだ暖かい死体を気にせずそんな会話をする。
「ヴァーミリってあれか、ホルダーが集まってるっていう……でも、良いのか? 今まで近づくのも禁止されてたろ」
「さぁな、あいつの考えてる事はわからん、ヴァーミリのガキ共を消せとの事だ」
「へぇ、フェンでも分からない事があるんだな」
血まみれの手で肩をポンポンとしようとするがすぐに払われる。
「やめろ血が付く。……ただの気まぐれか、とんでもない化け物が入学したか、分からない以上気をつけろよ」
「あいあいさー」
ゲルと呼ばれる男はそう言って影の中に姿を消した。
「化け物か……俺が言うかね」
フェンという愛称で呼ばれるフェンリルも仮面を被り闇の中へ溶けていった。
◇
「──さてと、どうしますか」
まったく、いくらなんでもセキュリティ無しとか舐めすぎでしょ。
「いきなり沢山殺しちゃうと警戒されるよなぁ、1人ずつバレないように消してくか」
「誰を消すって?」
「あ?」
裏から人気のない所を選んで侵入したつもりだが……
「誰だお前?」
「スリィ、よろしく。おじさん悪い人でしょ?」
握手しようと手を差し出すが男は目も向けずに続ける。
「悪い人だとしたら?」
「別に、何しに来たのかなーって」
「ガキに話すようなもんじゃねえよ」
「ふーん、じゃいいや」
帰ろうとスリィが背を向けた瞬間──
「タダで帰すと思ってんのかよ」
異能で自身の影を刀のように伸ばし攻撃する、が──
「かーわいー、興味津々じゃん」
スリィも既に異能を発動させていて、キューブのような物体がいくつか周りに浮いていて、そのうちの一つを壁の様に変形させて防御する。少し驚いたのか眼を見開くゲル。
「へぇ、いい異能持ってんなぁ」
「どうも、てか顔すごいことになってるよ? 鏡見てきたら?」
この状況が楽しいのか邪悪な笑みを浮かべてる。
「くくっ気が変わった、ちょっと面白いこと教えてやる、来い」
「そうこなくちゃ」
ゲルに近づくと影が2人を取り込み消える、そこには元々何もなかったかのような静寂に包まれた。
◇
とある廃墟にて。
「戻ったかゲル」
「早かったですね、意外と簡単でしたか」
「ん? 待て、おい、ガキ共の反応がひとつも減ってないがどういう事だゲル?」
「裏切りか! 今すぐ殺そう、俺が殺ろうか!」
ロウソクが1本乗った円卓を囲むように座ってる赤い模様の入った黒いローブに包まれた数名の男女がそう言った。
「ノクターン、お前はいつも急ぎすぎだ。カシュ、ちゃんと探知してみろ、少し面白いやつがいるだろ?」
言われるがままカシュと呼ばれる女は目を閉じ集中する。
「……これは、なるほどね」
「どうだった、やっぱり裏切りか! 殺そう!」
「もしや、向こうの生徒が裏切ったのですか?」
「さすがファウスト、その通り」
「ほう、それはお手柄ですね。しかしその子はいろいろと大丈夫なのですか?」
「実力なら充分あると思うぜ?」
「なら少し様子を見ましょう」
「そんじゃ今日はここら辺で……」
「ゲル、お前は別件で叱らきゃいけないから待て」
「あ、私もあったわ」
「おや面白そうですね、それなら私も」
「なら俺もあるな! きっとある!」
「ちょっと待て! フェンとカシュはわかるがファウストとノクターンは違ぇだろどっか行けっ! 待て! う、うあああああ!!」
男の悲鳴は誰の耳にも届かなかった。
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