第十九話 聖剣の力
「聖剣オートクレール・・・・その力を解放せよ!!聖光氷葬陣!!」
アグスティナが腰から剣を抜き、何事か叫びながら剣を振りぬいた。
次の瞬間には、剣から光が迸ったかと思うと、剣から天へ光が舞い、敵の頭上に光が昇ると凍てつく氷の柱が現れて、敵を氷漬けにした。
突如として襲われた敵が、何事かと声をあげて混乱している。
その隙を逃すほどアグスティナはお人好しでも、未熟でもなかった。
「周囲の魔力をその身に宿し、敵を穿て!地穿乱命剣!!」
再びアグスティナが叫ぶと、今度は大地より赤く巨大な剣のようなものが出現。
その大きさは人間一人、たやすく貫くほどの大きさでその狙いは違わず、穿たれた敵は鎧を身に着けていたにもかかわらず、鎧ごとその身を貫かれてそのまま絶命している。
流石にそこまできて、敵もアグスティナを認識したのか、アグスティナに体を向けて武器を取り出して構えている。
「な、なんだこいつ!こいつが侵入者か!どういうことだ!?こっちに来たなんて報告入っていないぞ!!」
「知るか!どっかから抜けられたんじゃねぇのか!?上の連中は一体何やってんだ!!」
「そんなことよりどうすんだよ!さっさとこいつやっちまわねぇと!!」
そんなやり取りをしつつ、アグスティナへと注意を向けてはいるがまだ混乱の最中のようだ。
そして混乱している敵と違いアグスティナの目的は決まっている。
ただ敵を排除する、それだけを考えている者と、何をすればいいのかすら定まっていない者では、その動きが圧倒的に違っていた。所謂初動の差というやつだ。
既にアグスティナの剣は、敵に向けて肩より少し上の辺りで構えている。
「魔力の奔流の流れに沿い、差し貫け!轟殺雷光突き!!!」
構えたアグスティナの剣がそのまま前方へと放たれる。
傍から見れば明らかに届くはずのないその剣は、確かにただ前方へと突き出されただけだった、実際に剣本体は空を切っただけであったが、その周囲にあった魔力の奔流が、剣の切っ先、いや剣の周囲から轟音とともに巨大な稲妻を放つ。
稲妻は寸分違わず、集まり始めていた敵へと襲いかかる。
慌てていた敵は突如現れる稲妻に対して対処など出来るはずもなくその命を散らしていく。
運が良かったのは、アグスティナの突然の出現と奇襲による不意打ちにより、近くにいた十二名、その内の二人は最初に奇襲により死んでいたため、十名が全てアグスティナの前へと現れたことだ。
そのお陰でアグスティナは多くの技と時間を使うことなく、敵を一掃することに成功した。
「はぁはぁはぁ・・・何とかなったか。(とはいえ、少々魔力を使いすぎた。それに派手に動き過ぎたか、おそらく時期にここにも新手が来よう、急いでこの場を離れないと)」
「アグスティナ!」
そう考えていると自分の元へオフィーリアが駆け込んできた。
「姫様、お怪我はありませんでしたか?」
「ええ、平気よ!貴女こそ怪我はない?」
「はい、問題ありません。それよりも少々派手にやりすぎました。ここは先を急がないといけませ・・・っっ!?」
その時アグスティナの体がふらつき倒れそうになる、それを支えるオフィーリア。
「アグスティナ!?」
「だ、大丈夫です。ここ数日の間で少々魔力を使いすぎたようです。ですが今は、そうもいっていられません。急ぎましょう」
「でも、少しだけでも休まないと、このままじゃ貴女がマナロスト(魔力枯渇)になってしまうわ」
そんな会話を二人がしている中、ただ一人ジュナスは茫然とその姿を見ていた。
「な、なんだ・・・あれ・・・あれが人の出来ることなのかよ・・・あんな・・・人があんな簡単に・・・死ぬ・・なんて・・・・」
これまでの数カ月、ジュナスは人の死というものをそれほど多くは見ていない。
いや、死んだ者は数多く見てきた。
最初に召喚された時には、多くの死体が自分の周囲にあったし、ウルベの実験の先でも、死体そのものを見たことは何度かあった。
だが実際に寸前まで「生きていた者」が「死んだ者」に変わる瞬間を見ることはなかった。
正確にいえば彼自身がドラゴンに変身した際には自身で「生きていた者」を「死んだ者」に変えていたのではあるが、そこには彼の意思は存在していなかった。
ゴブリンに対しても気がつけば「死んだ者」になっていたため、また、人でなかったという意識からか、あまり深く考えてはいなかったが今回は違う。
明らかに自分と同じような姿、形をしたものが一瞬で凍りつき、貫かれ、そして焼け焦げて死んでいく。
そういった生々しい光景を実際に目の前で目の当たりにしたことで、彼自身の心はひどくショックを受けていた。
ましてそれを行ったのが、共に行動していた者ともなれば、その衝撃は計り知れなかった。
「ジュナス?どうかしたの?」
オフィーリアが近づきながら何か話しかけている。
自分の名前を呼ばれているのはわかるがそれ以外はわからない、いやもし仮に言語がわかったとしても、今の彼にはその言葉はやはりわからなかっただろう。
それほどに彼の心は別の場所へと行ってしまっていたのだ。
「・・・ジュナス?」
オフィーリアが自分の目の前まで来てそう問う。
それに対してジュナスは壁の方まで走っていき・・・
「う・・・・うぷっ・・・・・うぇぇぇぇぇぇぇぇ」
もはやまともな物は何一つとして食べてはいないため、口からは胃液以外にほとんど何も出ない、それでも彼は迫りくる嘔吐感に堪えることが出来ずにいた。
アグスティナもジュナスをみて、少し怪訝そうな顔をしていたが、ジュナスが嘔吐したことでその意味を知る。
「(やはりそうか。あの男のあの目はおそらくは、人の生き死にを殆ど経験していない者の目だったからな。本当に実験体として連れてこられただけで、実戦経験など皆無だったのだろう、そして初めて人の死を目の当たりにしたのなら、仕方あるまい)」
そんな三人の様子を窺うかのように暗闇の中から静かな光が現れていた。
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