序章2話 思わぬ察知
「ハア、ハア、ハァ....」
薄暗い森の中を全力で駆け抜ける。脳が、体が酸素を欲する。
「ハア、ハアッ...ツ....ツ...ツク...」
呼吸をする度に肺が引き裂かれた感覚に陥り、心臓の脈拍もドクンッ、ドクンッと体全体に響かせ限界を知らせる。そんな状況の中、視界も最悪だ。四方八方を木に囲まれ陽の光が殆ど届かない。そのうえ、まともに整備されていない道と夕立の雨。一瞬でも気を抜けば躓いてしまう。それでも逃げる為に僅かに差し込む光を頼りに、剥き出しの根や泥濘んでいる土に注意しながらもいま出せる最高速度を保つ。
横から伸びた枝が頬を打ち、鋭い痛みが走る。足のリズムが崩れ、激しくよろめく。それでも、なりふり構わず追いかける。しかし、距離は縮むどころか開いていく一方だ。体力が無尽蔵にあるかのようにスピードが全く落ちない。このままでは、こちらの体力が先に尽きてしまう。
(くそっ!なんて速さだ。そろそろ足の限界が近いぞ。)
だが、もう着いて行けないから休憩を取りたいと悠長な事を言ってられるほど、この状況は芳しくない。ここは、まだ敵の領地だ。おそらく、まだ出会っていないだけでこの森には多くの敵が配置されている。そんな状況の中、休憩をしているところを見られたら、逃げることはできない。そう頭の中で端的に整理していると、ここで一つの疑問が脳裏を過る。それは、
「何故助けてくれたのか」
確かに、先の戦いで助けてくれたことは事実だ。しかし、何の目的があって助けたのかは分からない。自分は、格別に強いわけではない。かと言って、特別な技を使うこともできない。ただの平凡な剣士だ。そんな人を助ける価値があるのだろうか。もしないなら、他の優秀な剣士を一人でも多く救った方が良いはずだ。
(それに、突然助けてくれた得体の知れない鳥を簡単に信じていいのだろうか。これは敵が仕掛けた罠かも知れない・・・。いや、だったら敵を倒したのは何だったんだ。)
色々な事を考えると次々と出てくる。こんなに多くの疑問があるなら、わざわざ残り少ない体力を使ってまで追う必要があるのか。だが、あの一直線に見据える瞳。騙しているようには見えなかった。信用と不安の意見が均衡して、本当か嘘なのか見分けがつかない。ここまで来ると、疑心暗鬼になってくる。
すると、突然鳥が飛ぶのをやめ地面に足をつけた。そして、目の前を凝視している。
「何か見つけたのか」
荒い息を立て直しながら茂みの中から覗く。そして、その光景を目にし驚愕した。そこには敵軍の基地があった。
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「まさか、敵ではなく基地に遭遇しちまうとはなぁ」
そう言って、前を向く。作りは簡易的だが、木の柵で囲まれており、少し高い物見櫓も設置してある。敵の数は見える範囲で、入り口に二人と物見櫓に一人の合計三人だ。奇襲をかければ下の二人には勝てるだろう。しかし、上の敵に見つかったら笛を鳴らされて終わりだ。それに、柵の内側に何人の敵がいるか分からない。そんな状況で飛び込むのは、あまりにも愚策だ。ここは、少し回り道をして避けていくのが妥当だろう。鳥もそう感じたのか、歩いて移動を始めた。それに自分も着いて行こうとした瞬間、後ろから足音と話し声が近づいてきた。
「そろそろ、この戦争も終わりだな」
「ようやくだぜ。これで早起きしなくて済むようになるわ」
「いや、そこかよ」
『ハァハァハァハァ!!』
二人の笑い声が重なる。それより戦争が終わるとはどういうことだ。
「それにしても、何でいきなり終わるんだ?」
「さぁな。上の判断なんざ、俺たちには分からねぇよ」
「まぁそうだけどさ・・・。でも、こんだけやってきて説明もなしに終わるって言われても実感が湧かないよな」
頭の中が戦慄する。
(この戦争が終わる?いや、そんなはずはない。両国とも力は拮抗して勝敗が見えていなかった。そんな状況で、一歩も進展してないから終わろうなんて馬鹿みたいじゃないか。それで終わるなら、今までの戦死者は何だったのか)
「おーーい」
後ろから青年と中年ぐらいの敵が走ってくる。
「おう。どうしたそんなに慌てて」
「それが、急報だ。さっきこの森で五人の仲間がやらているところを見つけた」
中年の敵が荒い息を立てながら話す。
「何!?」
「本人ら曰く、一人の子供の剣士が戦場から逃げ、この森に入ったらしい。それを追っていたら突然現れた青い鳥にやられたと。だから、まだその子供はこの森を逃げているとのことだ」
「そんなことがあんのか?そもそも、子供が戦場に出るなんて聞いた事ねぇぞ」
首を傾げ、にわかに信じがたい顔で聞いている。
まずい状況になった。このまま、自分が逃げていることを広められるとこの森の警備が厳重になるだろう。そうなると、完全に逃げ切ることは難しくなる。
「早くこの森をーーー」
動こうとした瞬間だった。青年がこちらの茂みを見た直後、剣を抜き一気に加速して迫ってきた。
キィィィーン!
咄嗟に剣を鞘から出し受け止める。当たった衝撃で周りに突風が吹く。
「やっぱりか。なんか変な気配をずっと感じていたんだよな」
綺麗な黒の瞳で見据えながら呟いた。




