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第一章 小学生編

「人生に無駄なことはない。」


今の私は、そう思っています。


しかし、子どもの頃の私は違いました。


勉強が苦手で、自分に自信がありませんでした。


家庭では苦しい出来事もあり、野球では悔しい思いもたくさん経験しました。


「なんで自分だけなんだろう。」


そう思いながら過ごした日々もあります。


それでも人生は、不思議なものです。


あの頃は意味がないと思っていた出来事が、大人になった今では、私を支える大切な経験になっています。


この作品は、私の人生をもとにした物語です。


すべてが事実そのままではありません。


登場人物や出来事には、小説として表現するための脚色や再構成を加えています。


それでも、この物語に込めた想いや、私が経験してきた葛藤、喜び、失敗、そして成長は、本物です。


この本は、自慢話を書きたいわけでも、誰かを責めたいわけでもありません。


もし今、苦しんでいる人がいるなら。


自分には何もないと思っている人がいるなら。


努力が報われないと感じている人がいるなら。


この物語を通して、「人生はいつからでも変えられる」ということを伝えたい。


私自身、まだ人生の途中です。


だから、この本は成功者の物語ではありません。


迷い、失敗し、それでも前を向いて歩き続ける、一人の人間の物語です。


読み終えたとき、あなたが自分自身の人生を少しだけ前向きに見つめ直すきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。


――haku

人は、生まれ育つ環境を選ぶことはできない。


 もし選べるのなら、今とは違う人生を歩んでいたのだろうか。


 そんなことを考えるようになったのは、大人になってからだった。


 子どもの頃の私は、毎日を生きることに必死だった。


 私の名前は愛人あいと


 ごく普通の家庭に生まれた……そう思っていた。


 しかし、私の記憶の中にある家は、決して安心できる場所ではなかった。


 幼い頃から、親に叩かれることがあった。


 何か悪いことをしたからなのか。


 私が言うことを聞かなかったからなのか。


 理由は今でもよく分からない。


 ただ、小さな私はいつも思っていた。


 ――なんで僕なんだろう。


 兄弟や周りの子どもたちは笑っている。


 友達は「早く家に帰りたい」と話している。


 でも、私にはその気持ちが分からなかった。


 学校が終わり、家へ帰る時間が近づくと胸が苦しくなる。


 玄関の扉を開ける瞬間が、一日の中で一番嫌だった。


 怒られないように。


 迷惑を掛けないように。


 泣かないように。


 そんなことばかり考える子どもだった。


 小学一年生になり、学校生活が始まった。


 「学校なら変われる。」


 そんな期待があったわけではない。


 ただ、家にいる時間が少しでも減ることが嬉しかった。


 しかし、学校にも私の居場所はなかった。


 勉強ができなかったからだ。


 先生が黒板に問題を書く。


 「この問題が分かる人?」


 教室中の手が一斉に上がる。


 私はノートを見つめたまま動けなかった。


 数字は読める。


 問題も読める。


 でも、どう考えれば答えが出るのか分からない。


 先生が私の机まで来る。


 「愛人、大丈夫?」


 私は小さくうなずくだけだった。


 本当は全然大丈夫じゃない。


 何が分からないのか、それすら分からなかった。


 テストの日は嫌いだった。


 返ってくる答案用紙には赤い丸より赤い×の方が多い。


 三十点。


 四十点。


 運が良ければ五十点。


 友達は九十点や百点を取って喜んでいる。


 私は答案用紙を急いでランドセルへしまい込んだ。


 誰にも見られたくなかった。


 家へ帰れば、褒められることはない。


 「なんでこんな点数なんだ。」


 その一言が胸に刺さる。


 頑張っていないわけじゃない。


 分からないなりに勉強している。


 でも、できない。


 何度読んでも覚えられない。


 何度教えてもらっても分からない。


 気が付けば、「どうせ自分は勉強ができない」と思うようになっていた。


 そんな私の人生を変えたのが、野球だった。


 小学一年生のある日、父に連れられて野球場へ行った。


 青い空。


 土の匂い。


 白いユニフォーム。


 バットがボールを打つ音。


 そのすべてが、私には眩しく見えた。


 「やってみるか?」


 父にそう言われ、私は借りたグローブをはめた。


 初めて捕ったボールは痛かった。


 でも、その痛みが嬉しかった。


 「ナイス!」


 たった一言。


 その一言が、私の心を温かくした。


 誰かに褒められた。


 認められた。


 それだけで胸がいっぱいになった。


 野球をしている時間だけは、自分にも価値があると思えた。


 勉強はできない。


 家でも怒られる。


 でも、野球だけは違った。


 ボールを捕れば褒められる。


 バットを振れば「いいぞ!」と言ってもらえる。


 私は野球が好きになった。


 いや、好きという言葉だけでは足りなかった。


 野球は、私の居場所だった。


 小学二年生。


 家族は引っ越しをすることになった。


 慣れ親しんだ町を離れ、新しい学校へ通うことになった。


 知らない教室。


 知らない先生。


 知らない友達。


 私は人見知りだった。


 自分から話しかけることができない。


 「一緒に遊ぼう。」


 その一言が言えない。


 休み時間は、一人で窓の外を眺めていることも多かった。


 そんな中、新しい野球チームへ入団した。


 緊張で声が出なかった。


 「よろしくお願いします。」


 小さな声でそう言うのが精一杯だった。


 周りの子どもたちは楽しそうに笑っている。


 私はその輪に入れなかった。


 けれど、練習が始まると不思議と体が動いた。


 飛んできた打球を捕る。


 素早く一塁へ送球する。


 バッティングでも芯に当たる。


 監督が驚いたように言った。


 「この子、うまいな。」


 その言葉は嬉しかった。


 学校では勉強ができない子。


 家では怒られてばかりの子。


 そんな私が、初めて認められた瞬間だった。


 しかし、その言葉には思わぬ代償もあった。


 監督もコーチも、私にはほとんど何も教えなかった。


 「お前はできるから大丈夫。」


 そう言われるだけだった。


 できない子には何度も声を掛ける。


 一緒にフォームを直す。


 できるようになるまで教える。


 私は一人で繰り返し練習するだけだった。


 もっと教えてほしい。


 もっと上手くなりたい。


 もっと見ていてほしい。


 その言葉を口にすることはできなかった。


 「できる子」と思われていた私は、誰にも弱音を吐けなかったからだ。


 野球は好きだった。


 でも、少しだけ寂しかった。


 認められることと、向き合ってもらえることは違う。


 そのことを、小学生の私はまだ言葉にはできなかった。


 それでも、野球だけは続けようと思った。


 グラウンドには、勉強ができない私でも、家で笑えない私でも、自分らしくいられる時間があった。


 そして、この場所で出会う仲間たちが、これからの私の人生を大きく変えていくことになる。

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