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太平洋核戦争  作者: 藻草
13/16

悪の嚢

朝のサンディー・フック湾は、いつもと変わらぬ穏やかな色をしていた。

夜の冷気がまだわずかに残る空気の中で波は静かに砂浜へと寄せては返し、遠くではカモメが低く鳴きながら湾の上を滑るように飛び、水平線の向こうには朝日に照らされた都市の輪郭が薄い霞の中にぼんやりと浮かんでいる。


ここはニュージャージー州、ミドルタウンの海岸であり、ローワー湾を挟んだ対岸には、朝の光を受けてゆっくりと目覚めつつあるニューヨークの摩天楼がシルエットとなって連なっていた。


砂浜にはまだ人影も少なく、釣り竿を抱えた男が波打ち際で静かに糸を垂らし、犬を連れた初老の男が湿った砂の上に長い足跡を残しながらゆっくりと歩き、桟橋のそばでは早朝の空気を吸い込むように深呼吸をする女が海を眺めていたが、誰もがそれぞれの静かな朝を過ごしているだけで、その数分後に自分たちの目の前の世界が変わるなどとは想像もしていなかった。


最初の異変は、光だった。

太陽が一気に破裂したような凄まじい光が視界を埋め尽くし、彼ら彼女らを立ち止まらせる。


やがて光が収まると、釣り人は竿を持ったまま、湾の向こうに視線を向けて眉をひそめ、やがて低い声で呟いた。


「……なんだ、あれ」


対岸の都市の上空に、黒い柱のような煙がゆっくりと立ち上がっていた。

しかしそれは、港の火災や工場の煙突から立ち上る煙とはまるで違っており、異様なほど太く、異様なほどまっすぐに空へと伸び、その先端が次第に膨らみながら巨大な雲の塊へと変形していく。


そしてその柱がひとつだけではないことに、人々はすぐに気付いた。

すぐ横に、もう一つ……さらに少し離れた場所にも、また一つ。

煙の柱は次々に空へ伸び、その数は、五本。

五つの巨大な雲が、ゆっくりと、しかし確実に空へと膨れ上がっていく。

下部は濃い灰色の煙の塊であり、その上に炎が混じりどす黒く膨らんだ雲が傘のように広がり、朝日を遮り空を穢している。


人々はただ、口を開けたまま海の向こうを見つめている。


そのとき、湾の上の空気が急に震えた。

最初はただの風のようだったが、それは瞬く間に形を持ち、海面を押しつぶすように走ってくる。

そして────遅れて届いた低い爆音とともに、衝撃波が湾を越えて海岸へと叩きつけられた。

砂浜の砂が一斉に舞い上がり、白い波が風に引き裂かれ、ビーチに立てられていたパラソルが横倒しになり、木製の看板が軋みながら大きく揺れ、釣り人の帽子は空中へ吹き飛び、犬は驚いて吠えながら主人の足元へ伏せた。

人々は思わずその場にしゃがみ込み、顔を腕で庇いながら、何が起きているのか理解できないまま必死に体を支える。


強風は数秒続き、やがて通り過ぎる。

砂が再び地面に落ち、波の音が戻り、空気が静かに流れ始める。

しかし湾の向こうでは、五つの雲がまだゆっくりと膨らみ続けていた。

巨大なきのこ雲が、朝の空を覆い隠すように広がっている。


誰かが、震える声で言った。


「……事故か?……それとも攻撃…?」


誰も答えない。

答えを知る者など、この海岸には居ない。

ただ人々は、都市が煙の下に消えていくのを、呆然と立ち尽くしたまま見つめ続けていた。








同日 ワシントンD.C.

ホワイトハウス


オーバルオフィスの朝は、いつも規則正しく始まる。

書斎の窓から差し込む光の中で、ハリー・S・トルーマンは机に広げられた書類へ目を落とし、夜の間に届いた軍報や外交電報を順に確認しながら、秘書が用意したコーヒーに手を伸ばしていた。


戦争は混沌へと突き進んでいたが、首都の朝はまだ静かだった。


「……成功、か」


低く呟く。

東京と大阪への原爆投下は成功した。


目標は壊滅。爆風と熱線による破壊は想定通り、あるいはそれ以上。

報告書は簡潔で、軍事的成果のみを列挙している。

だがその裏にあるものを、彼は理解していた。

勝利に近づいたという実感と、取り返しのつかない一線を越えたという感覚が、胸の内で拮抗している。


その時だった。

扉が乱暴に開かれる。


「大統領!」


側近が息を切らして飛び込んでくる。

普段の抑制された態度は影も形もない。


「直ちに退避を開始してください!」


トルーマンは顔を上げる。


「何が起きた」

「ニューヨークが攻撃を受けました。原爆とみられます」


一瞬、言葉の意味が空転する。


「……ニューヨーク?」


椅子が軋む音を立てて引かれる。

オフィスの外では、すでに周囲のスタッフが動き始めていた。

護衛が扉の外に集まり、廊下の空気が一気に張り詰める。


「時間がありません、移動しながら説明します!」


トルーマンは頷き、立ち上がった。

廊下へ出ると、足音が一斉に重なり、早足の行列が地下へと向かって動き出す。


「………どういうことだ、大西洋は封鎖されているはずだ」


護衛に囲まれながらも、大統領のその声には怒りと困惑が混じっている。

現時点でのアメリカの認識として、原爆攻撃は四発クラスの重爆撃機によってのみ可能なものだとされており、現状でニューヨークを攻撃可能な範囲に日本軍の基地は存在しないし、本土の防空網を突破できるとも考え難い。

日本軍ならば潜水艦による自爆攻撃もあり得るかもしれないが、それにしても大西洋艦隊と哨戒機による鉄壁の防御が敷かれている本土沿岸に接近するのは、不可能だと行っても過言ではない。

それに対し、側近が息を整えながら答える。


「現時点では詳細不明ですが、いくつか可能性があります」


階段を降りる足音が反響する。


「一つは、ドイツから日本へ最新鋭の潜水艦が渡っていた可能性です。長距離航行能力を持つUボートが改良され、核弾頭を搭載して接近したとすれば……」


トルーマンは首を振る。


「Uボートは既に見えない脅威ではないと聞いていたが……いや、しかし、最新鋭の実験艦が日本に脱出していたということなのか……?」

「もう一つは……ロケット兵器です」


側近の声がわずかに低くなる。


「ペーパークリップ作戦で、ドイツ人から確保した資料にありました。V-1飛行爆弾、もしくはV-2ロケット……長射程兵器を潜水艦に搭載し、沿岸部より十分離れた海域から攻撃を行う計画が」


一瞬、彼らの歩みが止まりかけるが、すぐに再び動き出す。


「ドイツ人は実用化できなかった……のだろう?」

「はい。しかし……」


側近は言葉を選ぶように続けた。


「もし日本も独自に同様の研究を進めていた場合、あるいはドイツの技術を引き継いでいた場合、実用化が想定より早まっていても不思議ではありません」


地下へ続く重い扉が開かれる。

分厚いコンクリートの向こうへと、彼らは足を踏み入れる。


「東京と大阪に投下した直後に、こちらがやられたというのか」


トルーマンの声は、もはや独白に近い。

その背後で重い扉が閉じると、外界の気配は一切遮断された。

地下通路には抑えられた照明が続き、靴音だけが規則的に反響する。

そのまま幾つかの区画を抜け、やがて彼らは外へと出た。

すでに用意されていた車列がエンジンを低く唸らせ、合図とともに静かに動き出す。



トルーマンは後部座席に身を沈めたまま、窓の外に流れていく朝のワシントンD.C.の街並みを見つめていた。

人々はまだ日常の中にいる。通勤の足を急がせる者、新聞を抱えて歩く者、何も知らずに交差点を渡る群れ。


そのすぐ外側で、世界はすでに壊れ始めている。


車列は主要道路を避け、事前に設定された経路を縫うように進む。

交差点は封鎖され、要所には軍や警察が配置されているが、それもすべてが目立たぬよう抑えられていた。

騒ぎを広げることなく、大統領を移動させる………そのための動きだった。


目的地は、メリーランド州フレデリック郡、大統領保養地シャングリ・ラ。

ブルーリッジ山脈、キャトクティン山岳公園内部に設けられた避難所兼臨時指揮所。

やがて舗装路は細くなり、車列は森の中へと入っていく。木々の影が車体を流れ、外界との距離が一気に開く。


その車内でも、議論は止まらなかった。


「即時の報復攻撃が必要です」


前席から、軍関係者の声が鋭く飛ぶ。


「ニューヨークへの攻撃は、明確な無差別攻撃です。日本人はまだ折れていません、もし放置したら、次はロスやサンフランシスコが攻撃を受けるかもしれません。そうなる前に徹底的に……」


トルーマンは目を閉じたまま、静かに聞いている。


「現状、我々が利用可能なのはオーストラリアの基地のみです。昨日と同じく新型爆撃機を用いて、日本本土への直接攻撃を」


別の将官が続ける。


「オーストラリアのダーウィン基地に原爆と新型機を追加輸送し、そこから日本本土の主要都市複数を攻撃します。すでに一部は展開済みですが、現有数では不十分です」


車が揺れる。

沈黙が数秒続く。


「大統領………作戦の許可を……!」


その言葉は、決定を迫るものだった。

窓の外では、木々の間から朝の光が断続的に差し込む。

トルーマンはゆっくりと目を開ける。

東京と大阪、そしてニューヨーク。

単なる地図の上の点ではない。そこにあったはずの無数の生活、無数の時間が、すでに消えている。だが、しかし………


「……許可する」


声は低く、しかしはっきりしていた。

車内の空気がわずかに動く。


「オーストラリアへ、追加の原爆を輸送しろ。可能な限り迅速に」


誰かが短く「イエス、サー」と応じる。

命令は即座に伝達され、無線が小さく唸り始める。

トルーマンは再び視線を窓の外へ戻した。

森は静かで、何も変わっていないように見える。

だがその静けさの裏で、さらに大きな破滅が準備されている。

彼はそれを理解していた………理解したうえで、命じた。

車列は速度を保ったまま、山奥へと消えていく。

世界はすでに引き返せない場所にあり、その中心で下された決断は、さらにその流れを加速させていた。




数時間後 イギリス


その日のロンドンは、静まり返っていた。

それは単なる平穏ではない。嵐の只中にあって、風だけが止んだような、不気味な空白だった。

首相官邸の一室。重厚な机の上に置かれた電報は、まだ温もりを残しているかのようだった。

だが、それを手にした男──ウィンストン・チャーチルは、しばらくの間、文字を追うことを拒んでいた。


「……もう一度、確認したまえ」


低く、押し殺した声だった。

側近の一人が、硬い表情のまま頷く。


「はい、首相。既に複数の情報筋で確認していますが……いずれも同様の内容です」


沈黙。

時計の秒針だけが、やけに大きく響く。

チャーチルはようやく視線を落とした。紙面に並ぶ文字は簡潔だった。

だが、その簡潔さが、かえって現実味を奪っている。


『ニューヨーク、壊滅』


その一行が、妙に浮き上がって見えた。


「壊滅……だと?」


誰に向けたわけでもない言葉が、部屋の空気に沈む。

例の新型爆弾か、あるいは誤報か。


思考は瞬時にいくつもの可能性を巡るが、誤報の可能性は限り無く低かった。

被害報告、通信断絶の様相、残存する無線通信の断片的な証言……どれもが「都市」という単位の消失を示している。


「大西洋だ、日本からすれば地球の反対側と言っても良いのだぞ……あり得ん」


呟きながらも、彼の脳裏には、すでに別の地図が広がっていた。

大西洋航路、補給線、そしてニューヨークという大規模港湾都市。


「……あそこは、ただの都市ではない」


ゆっくりと、言葉が形を取る。


「アメリカの金融の中枢……そして、欧州への生命線だ」


側近たちは黙って聞いている。

否、聞くことしかできない。


「我々が受け取っている物資の多くは、あの港から出ている。兵器、燃料、食糧……その流れが、もし断たれたとすれば……」


言葉はそこで途切れた。

だが、結論は誰の胸中にも明白だった。

イギリス本土は耐えた。空襲にも、潜水艦にも、飢餓の瀬戸際にも。

しかし、それは常に大西洋の向こう側が存在していたからだ。

チャーチルは葉巻を手に取る。火はつけない。

ただ、指の間でわずかに回す。


「……アメリカ政府は?」


短い問い。


「現時点では、アメリカ政府の仔細は不明です。ただし、ワシントンからの発信は継続しています。大統領の安否も……未確認ですが、完全な沈黙ではありません」

「そうか……」


わずかに、息を吐く。


だが安堵ではない。むしろ、状況はより不気味さを増していた。

首都は生きている。だが最大の都市が消えた。

国家としての死ではないが……動脈を断たれた状態に近い。


「日本は……何を使った?」


その問いには、誰も即答できなかった。

太平洋地域での原爆攻撃、硫黄島での自爆、それらは、ただ爆弾の威力が高い事以外は、既存の理屈で説明がついていた。


だが───


「規模が、違いすぎる……」


チャーチルは、今度ははっきりと呟いた。

完全封鎖された米大陸と大西洋を全く知られずに通過し、都市一つを“壊滅”させるなど……ドイツのV-2ですら、北フランスからロンドンを狙うのが精一杯だ。

既知の概念では説明がつかない。

もしそんなことが可能だとすれば、それは兵器ではなく、もはや現象に近い。


「もし同じ攻撃が、ロンドンに行われたら……」


誰かが息を呑んだ。

チャーチルはゆっくりと顔を上げる。その目には、恐怖ではなく、計算が宿っていた。


「……いや」


首を振る。


「今はそのような事ばかり考えても仕方がない」


静かに、しかしはっきりとした声で言い切る。

彼は電報を机に置いた。

紙一枚の重さが、まるで世界そのもののように感じられる。


「アメリカとの連絡を維持しろ。可能な限り情報を引き出しつつ、我々自身の防衛体制を、全面的に見直す。そして────」


報告は、間を置かずに重なった。

まるで、何かが意図的に順序立てて世界という名のブロックを崩しているかのように。


「……追加の電文です」


先ほどとは別の将校が差し出した紙片は、わずかに震えていた。

室内の空気は、すでに張り詰めきっている。

誰もが、次に書かれている内容を直感していた。

チャーチルは受け取り、今度は躊躇なく目を通す。


中身は数行と短い。だが……


「今度は……モスクワ、だと」


その言葉は、先ほどのそれとは違っていた。

驚きはある。

だが、それ以上に一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、彼の胸中に別の感情がよぎる。


モスクワ。


あの都市の名は、彼にとって単なる同盟国の首都ではなかった。

先の大戦と革命の直後から、長年にわたり警戒し、対峙し続けてきた体制の象徴。その中心。


……早まって参戦し、潰されたか


声には出さない。

だが、思考の奥底で、冷たい皮肉の笑みが浮かぶ。

忌々しいボルシェヴィズムの心臓。今やアメリカと並ぶかもしれない、あの巨大な統制国家の頭脳。

その中枢が、もし本当に失われたのだとすれば……


……歴史は、皮肉な形で均衡を取るものだな……

一瞬だけ、唇の端が動きかける。


「裏取りは?」


即座に、現実へ引き戻すように問いを発した。


「未確認です。今は断片的な通信傍受のみで……ただし、内容はニューヨークと酷似しています。強烈な閃光、その後の通信断絶、広範囲の壊滅的被害を示唆する証言……」

「……そうか」


チャーチルは紙を机に置いた。

それと共に、先ほどまでとは違う思考が、急速に形を取り始めていた。

彼はゆっくりと椅子に深く腰掛け、指先で机を叩く。

一定のリズム、思考を整えるための癖だった。


「……仮に、事実だとしよう」


誰に向けるでもなく、言葉を紡ぐ。


「ソビエト連邦の首都が機能を失ったとする。その意味は何か」


誰も答えない。

答えを求めているわけではないのだ。


「単なる都市の消失ではない」


彼の視線は、すでに地図の上を走っていた。

モスクワ。そこから放射状に伸びる鉄道網と指揮系統。


「……あそこは頭であり、心臓だ」


低く、断言する。


「政治、軍事、そして物流。その全てが集中している。特に鉄道網……あれはソ連の血管そのものだ」


東へ、西へ、南へ。


広大な領土を繋ぎ止めているのは、クモの巣のように張り巡らされている鉄路に他ならない。


「それが断たれた場合……」


言葉がわずかに遅れる。

初めて、計算が追いつかない領域に踏み込んだ。


「前線は、どうなる。東欧に踏み込んだ、奴等の大兵力への統制は」


東欧に展開する膨大な兵力。

ドイツを押し潰した赤軍、その維持は、莫大な補給と厳格な統制の上に成り立っている。


それが………


「止まる、いや……消える」


ぽつりと落ちた言葉に、誰かが息を呑む。

補給が滞れば、部隊は自壊する。統制が失われれば、指揮系統は分裂する。

そして、それが数百万規模で発生した場合───


「東欧全域に、武装した集団の群れが溢れることになる」


もはや軍ではない。統制を失った、膨大な兵力の残骸。

飢え、混乱し、命令系統を失った兵士たち。


「……もはや共産主義だの革命だの言っている場合ではなくなる」


誰に聞かせるでもない呟きだった。

部屋の空気が、さらに冷える。

つい先ほどまで、彼の胸中にあったわずかな“喜び”は、跡形もなく消えていた。

代わりに浮かび上がるのは……予測不能の混乱という、最も厄介な現実。


「ドイツは既に降伏している……」


だからこそ、なおさらだ。

抑え込むべき敵は消えた。だが、その上にあった赤い津波に対する防波堤もまた、消えた。

そして、赤はモスクワを喪い、赤ではいられなくなる。


「空白が生まれる」


ゆっくりと、言葉を区切る。


「そして空白は、必ず何かで埋まる」


それが何かは、まだ分からない。

だが、決して穏やかなものではない。


人は予測不能なことを酷く恐れるが、彼らは皆、その恐ろしい怪物の発する空気に呑まれていた。




…………その空気を破ったのは、新たな足音だった。

廊下を駆ける音、ためらいも遠慮もない、明確な“異常”の足取り。

扉が叩かれる。


「入れ」


短く応じると同時に、扉はほとんど弾かれるように開いた。

飛び込んできた将校は、明らかに取り乱していた。

呼吸は荒く、敬礼すら不完全なまま、手にした報告書を差し出す。


「首相、至急です。極めて重要な報告が」


チャーチルは無言で続きを促す。


「日本海軍の戦艦と空母を含む艦隊がオーストラリアに向けて南下中……!」

「……何だと?」


その瞬間、彼らの思考は止まった。

対して窓の外のロンドンは、依然として変わらぬ灰色を保っている。

だがその灰色の下で、世界の構造は、音もなく崩れ始めていた。







オーストラリア北方 バンダ海


青は深く、雲は低く垂れ込め、ところどころに光が差し込んでいる。

だがその穏やかな光景の中で、一機の哨戒機が、慌てたように旋回していた。


機内は、緊張に満ちている。


「……見えた!」


観測員の声は、かすれていた。

操縦士がわずかに機体を傾ける。高度を維持しながら、視界を確保する。


そして……雲の切れ間。

その下に、奴等は在った。


「……艦隊だ」


誰かが呟く。

海面に、はっきりとした形で並ぶ影。


中央に、長大な甲板を持つ空母。

その近くに、重厚なシルエットを持つ戦艦………その周囲を固める複数の護衛艦。


規模はそこそこ、決して米英に匹敵するような大艦隊ではない。

それでも整然と、目的を持って進んでいる。


「日本艦隊の方位、速度、変わらず……」


観測員は必死に記録を取る。

手が震えているのが、自分でも分かる。


「戦艦一、空母一を中核とする艦隊………」


一瞬、言葉が詰まる。


「………未だ南下中。目標はオーストラリア、ダーウィン方面と推定……」

「────迎撃機が来る、逃げるぞ!」


南洋の静かな海の上、世界の均衡がさらに一段、音を立てて崩れようとしていた。



映画館でスーパー竹取物語を見て人類に希望が持てたので続き書きました

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― 新着の感想 ―
超竹取物語!は人間讃歌でいい物語ですよね! 私は現実の人類に希望は持てませんが⋯ この作品は現実より希望に満ちているやも⋯?
政府存続計画が存在していない時期でも大統領の退避しっかりやれてるな、さす米帝 もうちょっと政府が混乱するかと思った
航空偵察で戦艦1空母1,これが大和型なら他の大型艦でも小さく見えるな。 実際問題日本からオーストラリアまでだと拠点がない現状、小型艦だと厳しそう。
感想一覧
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