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高崎LOVERS  作者: リリィ
9/24

高崎LOVERS⑨ とんかつ

田中が家に帰ると




玄関の鍵が開いていた




玄関には女性ものの靴がそろえて置いてある




あらお父さんお帰りなさい




娘の奏が久しぶりに訪ねてきた




お~、久しぶりじゃないか




なにかあったのか?




ん?ちょっと探し物があってね




奏は県外に就職し、滅多に帰ってくることもない




平日なのに大丈夫なのか?




今は有給ってものがあるのよ




年頃の娘とは仲が悪くないまでも




気が置けない仲とは言い難いものだ




お父さん、私お腹すいちゃったんだけど




ん?何か食べに行くか?




私、とんかつ食べたい




とんかつかぁ




懐かしいなぁ




娘は小さい時から、とんかつが好物だった




食事管理の厳しかった妻の目を盗んでは




子供たちを連れてとんかつ屋に行ったものだ




目を輝かせてとんかつを頬張る子供たちの笑顔は




妻は目にしていない自分だけの大切な記憶だと思っている




よし、久しぶりに網代でも行くか




高崎でも郊外にあるとんかつ網代は




知る人ぞ知るとんかつの名店だ




高齢の夫婦が作る心温まるとんかつのファンは多い




田中と奏がカウンターに座ると




何も聞かずに女将が冷酒を運んできた




田中さんずいぶんとご無沙汰だったじゃないの




今日は奏ちゃんまで連れてごきげんね




いや~、ごきげんってほどでもないけどね




暑くてなかなかとんかつの気分にならなくてさ




と返す田中に




こちとら毎日とんかつ三昧だよ




と大将が入ってくる




私ヒレカツ定食




じゃオレも




ご飯少な目でね




小さい時から通ってきた網代のカウンターに




今は一人前の女性になった娘と座って一杯やる




なかなか悪くないじゃないかオレの人生も




なんて田中がにやけていると




ピンク色に揚がったヒレカツが運ばれてきた




これこれ、この色がなかなか出ないのよね。他の店では




言うようになったなぁ奏も




そりゃ社会人ですからね




奏は飲まないのか?




ん~、運転があるからやめとく




とんかつに集中したいし




田中は最初のヒレカツにちょっとだけソースをかけ




和からしをたっぷりとつけて口に放り込んだ




鼻の奥がツーンとしたのは




からしの辛さがしみただけでは無かったようだ





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