高崎LOVERS 27 桜並木
和田橋を渡り
烏川沿いに広がる桜並木
満開の桜を眺めながら
田中は土手に腰を下ろした
仕込んできた
銘酒赤城山のカップ酒を開ける
紫色の榛名山の向こうには
雪解けを待つ谷川岳が輝いている
鶯の声
川のせせらぎ
良い季節になったもんだ
田中はちびちびと酒を口にした
思えばコロナ禍の真っ最中
明日から緊急事態宣言とか言っていた当時も
田中はここで桜を眺めていた
どんなに世間が騒いでも
毎年変わらずにいてくれる
花鳥風月に心を癒されたものだ
今ではまた
川沿いの野球場に子供達の声が聞こえるようになって来た
田中はポケットからコンビニで買って来たイカソーメンを取り出し
のんびりと酒を飲む
お?田中さんやってますな
と声をかけて来たのは
祭り好きの町内会長
久保田じいさんだ
久保田さんこんにちは
久保田さんもお花見ですか?
孫の野球練習を見がてらってやつでね
ご一緒してもいいですかな?
どうぞどうぞ
久保田じいさんは田中の横に腰を下ろすと
持って来たグリーンラベルの缶を開けた
この歳になっても、花より団子ですな
おっしゃる通りで
田中と久保田じいさんは軽く乾杯をした
前橋の千本桜も見事だけど、私はこの桜並木が昔から好きでねぇ
久保田じいさんが語りかける
いや〜良いですよね、ここ
ちょっと前までは川向こうにゴルフ場もあったんですよ
今では公園になってますがね
久保田さんはゴルフされるんですか?
現役の頃は一生懸命やったもんですがね
今じゃ体がついて行きませんよ
田中さんは?
わたしは無趣味なもんで
コレばっかりで
と日本酒の缶を軽く上げた
私もコレだけはやめられなくてね
孫にも怒られてますよ
まぁ健康になるために生きてる訳じゃないですもんね
間違いねぇ
それにしても、またこうやって落ち着いてお花見が出来るようになって良かったですなぁ
私も人生の終盤であんなに大変な時期が来るとは思いませんでしたわ
子供が可哀想でしたね、コロナの頃は
どうしても大人中心で回っていくからねぇ世間は
おじいちゃ〜ん‼︎
という孫の呼びかけに手を振りつつ久保田じいさんは遠くを眺めた
私もあと何回この桜を見れることやら
いやいや久保田さんはお元気だから
若くはなれないからねぇ
田中さんはお孫さんはいるの?
いや〜ウチの子供たちはまだ全然ですよ
孫が出来たら可愛いもんですよ
今の生きがいはそれだけでね
久保田さん、お祭りも頑張ってくださいよ
そっちもそろそろ若いもんに譲っていかないとねぇ
他愛のない話をしながら飲む酒は美味いものだ
田中はもう一本の日本酒を開けようか
もしくは行きつけの寿司屋で飲み直そうかと思案している
それとももう少し久保田じいさんにつき合おうか
高崎の心地よい春の風が田中を包んだ




