5話 勇者会議・その1 キュロスの災難
鈴とマフが、神殿に戻ると
そこには、第4の塔、神官長の【オーデン】と
第7の塔、神官長の【パップリッカ】の姿があった
いや、2人以外にも、各塔の副塔神官長や、塔神官が何人もいたが
20人近い神官の先頭に立って
怒りを表していたのが
オーデンと、パップリッカの2人であった。
マフ達、勇者には、まだ説明はされていないが
塔神官長より、召喚された勇者の方が
立場は上となる、正確に言えば
7人存在する、神天使の加護を直接授かった7人の勇者は
皇帝の次に、権威を持つ立ち位置である
これは、13人いる、総大神官より上に当たるのだが・・・
オーデンは、まるで家出していた孫娘を叱るように
鈴の無断外出を、涙ながらに怒るのだった
ただ、感情に任せて怒っていた為
マフの通訳を通さず、この世界の言葉であり
その事に気が付くのは、30分以上怒った後であった。
また、鈴はこの世界の言葉は理解しているが
30分ほど叱られる事など、意にも介さず
今ある食材で、どうやって美味しいご飯を作るか考え
まったくもって、オーデンの言葉など
右から左に抜けていくのだった。
また、パップリッカや
第7の塔の神官達は、マフの体調を一番心配し
マフを怒るよりも先に、マフの体の心配をする
その姿に、マフは自分の体を気遣う父親と母親の姿が重なり
怒られるより、よっぽど堪えたのか
ずっと申し訳なさそうに、謝ってばかりだった。
そして、怒り疲れたオーデンは
副神官長達に支えられ、第4の塔に帰っていった。
パップリッカは
最後までマフに、むちゃをしないように忠告し
何かあればすぐ言うようにと、第7の塔に帰っていった。
そして、鈴とマフは
塔神官長2に強制的に付けられた数人の神官達の監視付きで
2人の塔神官長から解放された。
そろそろ時間も昼に近づき
神殿騎士宿舎の食堂は、時間的に人が多くなる時間帯の為
調理場の端で
朝焼いた食パンモドキに、朝作り置きしていた肉の燻製を挟んだ
簡易ハムサンドと
美味しそうな果物を挟んだ
出来損ないフルーツサンドを手早く作り
第4の塔の鈴の部屋へと行き
マフや、監視の神官達と美味しく昼食をとった。
そして、監視の前で堂々と
明後日にヨドーランコーウの家に遊びに行く予定を立てるのだった。
そこに
「もし、おでんのおじーちゃん達にいったら
もう、ごはんあげない!」と
監視の神官達を脅迫した鈴の姿が有った事は言うまでもない。
監視の神官達が顔を見合わせ、あたふたする中
キュロス達との話し合いの時間となる
話し合いの場所は
巨人族のクラリスがストレス無しに入れる広い場所と
クラリスが召喚され、寝泊りをしている
第3の塔、召喚の間となった。
集まったのは
第6の塔の勇者を抜く
第1の塔の勇者、エルフの女性【D】
第2の党の勇者、人族と同じ姿の【ドラゴニーズ】
第3の党の勇者、巨人族の女性【クラリス】
第4の党の勇者、人族少女【鈴】
第5の党の勇者、人族青年【キュロス】
第7の党の勇者、人族少年【マフ】
この会議が開かれる
第3の塔責任者、塔神官長【ブトジョーロキア】
第1の塔神官長【カスティーラ】
第5の塔神官長【シュルストーレミング】
そして、鈴とマフの監視の神官や
塔神官長の取り巻きや
他の勇者達の付き添いの神官が同席した。
すでに、プトジョーロキアの指示で
勇者達の為に、机と椅子が用意され
おやつに、この世界のクッキーらしきものが並び
巨人族のクラリスの為、座布団替わりの敷布団が敷かれていた。
そして、勇者達から少し離れた所に
神官長達3人が座る椅子が設けられ
その後ろに、数人の神官達が立っていた。
全員が席に着くと
キュロスが進行役となり
「まず
これから、チームと成るだろう
私達、勇者だが
ドラゴニーズと、クラリスは
因縁のある相手だと思う
だが今は一旦、忘れて欲しい。
そして、この話し合いは
いくつもの世界からの出身者である私達の
意識や常識のすり合わせや
各世界の情報交換だと思って欲しい。
また誰が誰に対して質問してもいいが
これは全員に言える事だが
言いたくない事もあるだろう
言いたくなければ、言わなくていい。
最後に第6の塔の勇者は、まだ心を開かないのか
話し合いの、この場に来なかった。」
クラリスは、ドラゴニーズに向けて敵意を向けるが
暴れた所で意味の無い事は理解していた
その反面、ドラゴニーズは、クラリスの事など眼中に無く
ドラゴニーズの興味は
鈴と、この場に居ない鈴の使い魔であろう琥珀に向けられていた。
また、Dの興味も鈴と琥珀であり
そして、マフに向けられていた。
とうぜん、キュロスも
その意識は、鈴に向けられていたのだった。
キュロスは勇者である全員の顔を見渡した後
その視線を鈴に向け
「私達全員が気になっている事だろうけど
リーン、君は強いのか?
戦えないとは言ってはいたが
ドラゴニーズの動きすら止められるなら
それなりの【力】や【スキル】を持っていると思っていいのだろうか?」
それは、第4の塔で
鈴の抱える琥珀を
ドラゴニーズが奪い取ろうとした時
鈴がドラゴニーズの小指を掴み
その動きを完全に止めた事を
キュロスは鈴に問うたのだ。
ドラゴニースの目が厳しくなり
鈴を威圧するが
気にすることなく鈴は口を開き
その日本語の通訳をする、マフから出た言葉は
マ「あんなの誰でもできるでしょ?って言っます。」
それは誰しもが納得の行かない言葉だった
その言葉に
ドラゴニーズの圧が更なる重みを増すのだった。
鈴が、発した日本語だが
キュロス達の視線が、通訳したマフに向く・・・。
マ「り・・・りんちゃーーーん
なんか、皆から僕に対して敵意を感じるんだけど・・・。」
鈴「マフ君、みんなを怒らしたらダメだよ~~
私、知らな~~いぃぃ。」
マ「いや、皆、分ってると思うけど
言ったの鈴ちゃんだからね!
僕を怒らないでよ
鈴ちゃんも、鈴ちゃんで
私知らなーーーいって
まったく関係ないって顔しない!」
「ブーブー」と
一人楽しそうな、鈴だったが
「もーしかたないな~~
えっと、まぁ、キュロスさんでいっか」
鈴は、キュロスに近づき
「ちょっと手出して。」と
マフの通訳ありきで、キュロスは無造作に右手を鈴に差し出した。
この時キュロスは
これから降りかかるだろう災難など頭の片隅にもなかった・・・。
そして、鈴は小さな手で
キュロスの右手の小指と薬指を握り。ひねり上げると
キュロスは腕を伸ばし
その身体すら仰け反り
「痛 (い)!!!」っと
そのプライドか、一瞬出てしまった叫びを
無理やり押し殺した。
鈴にとって、ちっちゃなイタズラではあったが
キュロスは初めて体験す関節技に苦痛の表情を浮かべる
それを見た鈴は、クスクスと
鈴「これくらいなら、力もスキルも無くても
骨格の構造や、筋肉の仕組みを知ってれば
誰にでもできるよ~~。」
一度、マフが通訳し
「日本、僕達の世界にある武術の1つなんだけど・・・
それより鈴ちゃん、そろそろ、キュロスさん離してあげて
かなり痛そう・・・。」
鈴は、ニコっと笑うと・・・・
キュロスの指を掴んだまま走り出した
そうぜん、指から腕の関節をキメられたキュロス
顔を歪めながら、鈴の後を追うように走り出した。
キュロスが、その拘束から逃れようと力を入れようにも
絶妙なタイミングで鈴が指をひねり
その関節を、その腕を自由にはさせない
そして、鈴はキュロスを
右に左にと、大きく動かす様にキュロスを操作しながら
召喚の間を好き勝手に走り回り
最後に、クルっと腕を回し
キュロスをひっくり返したのだった。
何もできず、なすがままのキュロス
最後には床に転がされ
自身に何が起こったか理解できない表情で
ポカーーンと天井を見上げたのだった。
これには、誰しもが度肝をぬかれた
ドラゴニーズまでは無いが
キュロスも、勇者として強い事は事実であり
そのうえ神天使の加護も受けているはずであったが
神天使の加護も無く、力もないだろう子供の少女に
お人形のように、いいように扱われた姿は
ドラゴニーズすら、目を点にした。
この世界もだが
異世界出身者である
キュロス達の知る世界では
戦いとは剣や武器、魔法で行うものであり
魔法無しで素手で戦う事は無い
手、足で戦う格闘を主とする冒険者も居るが
それは格闘専用武器も装備し、敵を殺すためであって
相手を無傷で、無力化する戦い方など
その概念すら、この世界には存在しない
だからこそ、キュロスにとって
関節をキメられた事も初めてで
その関節がキシミ神経を潰される痛みを感じたのは初めてである
その痛みは、腕を切断された痛みや
腹部を敵の武器が貫通した痛みとは別ものである
痛みに耐性のあるキュロスですら
神経を伝わる痛みに逆らうことができず
鈴の成すがままに動かされたと言ってもいい
キュロスは鈴の拘束から逃れるため
指に力を入れようとしたり
強化魔法を使おうとした事も確かだが
鈴はその絶妙なタイミングで
キュロスの態勢を崩したり
腕を締め上げ痛みで集中を解いたりと
その体だけではなく、その思考や行動すら完全にキュロスを操作したのだった。
鈴は、キュロスが床で放心状態にも関わらず
その姿をキャッキャと笑いながら
鈴「合気道って言うか
お母さんに教えてもらった護身術だよ~~
まあ、遊びの1つかな~~?
でも、近所に住む幼馴染の兄妹の方が上手だよ
一番下手なのは、お兄ちゃんだけど
唾かけてきたり、足で蹴ってきたり
一番卑怯なのも、お兄ちゃん!」
ただ、マフは全部は訳さなかったが
それなりに伝え
キュロスが、落ち着きを取り戻した所で
合気道や柔術と言う
無手であり打撃のない格闘術を、説明していくが
マフ本人が、そこまで詳しくない為
キュロス達にも、今一つ理解できはしない
ただ、戦う上で
腕の可動域や、関節というは物は、感覚的に理解はできるのだった。
そして、とうとうドラゴニーズが動いた
ド「ちっさいの
もう一度だ!
もう一度、我と力比べをしろ!」
鈴は嫌そうな顔で
鈴「え~~~無理だよ~~」
ド「あの、ヤサ男の様には行かんぞ!」
鈴の日本語など通じないドラゴニーズは
自信満々で、右の拳を鈴に差し出し
まるで、どこぞの貴婦人かの様に、小指を立てるのだった。
何を言っても無駄かな・・・と
鈴は、ピョンと小さく跳ねて
両手でドラゴニーズの小指に捕まり
両膝を曲げて、完全にぶら下がったのだった。
2メートル程の身長のドラゴニーズの指にぶら下がった
身長120センチちょっとの鈴は
体を左右に揺らしながら
鈴「まぁ、こんなもんだね
初めから指に力を入れられたら
私じゃ、ぶら下がる事くらいしかできないよ~~~
よし、移動型ブランコ・ドラちゃん!
そこを、一周して~~~~~」と
鈴は体を左右に揺らし
ドラゴニーズに動けと!
走りまわれ!と要求するのだが
本来、それを通訳するはずのマフは
マ「うん、訳さないよ。
伝えたら、絶対に僕が怒られるからね!」
鈴「やだ~~
動け~~ブランコ~~~」と
鈴は足をバタつかせ、ドラゴニーズを煽るが
その間に、マフが軽く説明する。
マ「力の入っていない指なら
ひねって、力を掛けて関節を動かす事もできるけど
ドラゴニーズさんみたいに
最初から力を入れられると
鈴ちゃんの力では、どうしようもないみたい
実際、鈴ちゃんが、小指にぶら下がっても
ドラゴニーズさんは、痛くも無いみたいだしね
ただ、屈強なプロレスラーでも
あ、プロレスラーって言うのは、僕らの世界では
とても強い格闘選手なんだけど
その戦いなれた、痛みに耐性があるプロレスラーでも
関節技っていう、神経に直接ダメージを与える痛みには耐えれないんだ
だからこそ、降参って言うギプアップは
関節技でしか取れないんだ・・・けど・・・。」
ただ、今ひとつ理解できないドラゴニーズ達に
マフは、言い方を変え
「僕の言いたいことはね
この間、鈴ちゃんがドラゴニーズさんの動きを止められたのは
未知の痛みに体が無意識に反応して
アレ以上動くと、指が折れると脳が危険と察知し
脳がそれ以上動くことを拒否したんだと思う。
さっきのキュロスさんも同じで
指が折れると脳が危険をさっちして
指が折れない方向に体が動いたんだよ。
体を動かすことに長けた人ほど
体幹が出来ていて転ばないようになるからね
だから、転ぶか転ばないかの瀬戸際で
あっちこっちに走らされた訳だけど
最後に転ばされたのは
一度動いてしまえば
重心は移動するからね
鈴ちゃんにしてみれば
いつでも転ばせれたんだろうね。
あ、キュロスさんは、鈴ちゃん相手に手加減してたんだろうけど
指2本で簡単に転ばせれたけど
ドラゴニーズさんは、前情報なしなのに
キュロスさんより不利な小指一本で
鈴ちゃんの関節技に動かされる事も無く
その場で耐えた事は
とってもすごいと思う!」
マフは、説明と同時に
ドラゴニーズを持ち上げていく・・・
それは、ドラゴニーズの視線が
「走れ、ドラちゃん!」と
その指にぶら下がった鈴が
その足でドラゴニーズの足を蹴っていたからだ!
痛くも痒くも無いドラゴニーズではあったが
意味不明に何度も蹴られれば
多少苛立つと言うものだが
マフは、ドラゴニーズを持ち上げることで
その意識を外させるのだった。
マフは鈴を、ドラゴニーズから無理やり剥がしながら
「まぁ、この世界では意味の無い技術だけどね
VRMMOでもそうだったけど
合気道や柔術は
無手で相手に触らないと戦えないから
魔法や剣で戦う、この世界では
戦う前に負けちゃうよ。」
それは当たり前の事であった
その言葉に、ドラゴニーズも、キュロスも納得はしたが
クラリスからすれば
小人族のリーンが、何をしようと自分には意味はないだろうと他人事であった。
ただ、キュロスは
その重大性に気が付く
そもそも何も知らなければ
小さな幼女とも言える鈴が
武器も持たず、笑顔で近づいてきたなら
自分は無防備で対応するだろう
そして、もしそれが、刺客でえあったなら
そこに、自分の命は存在するのか・・・と。
もし知っていても
笑顔で近づいてくる少女に武器を向けれるのかと
その思考は深く深く沈んでいくが
勇者として生まれ
勇者として、いくつもの世界を渡ってきたキュロスにとって
その選択は、1つしかない
キュロスは、ドラゴニーズや、マフとじゃれあうリーンに
真剣な眼差しを送り
自身の相棒とも言える腰に下げた
【聖剣クレイヴ・ソリッシュ】の柄に左手を乗せ
【もしも】の時は・・・と
覚悟を決めるのだった。
(´・ω・`)次なる災難が降りかかるのは・・・あの人です。




