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君とオリンピックに行きたい  作者: 友清 井吹
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エピローグ

由佳の手紙を、母親が持って来てくれた。


『ジュンへ』と表書きのある封を開けた。


ジュン。あなたと別れて二年になる。

ジュンが私の選択を知った時、驚き、怒り、苦しんだと思う。


何度も連絡することを考えたがしなかった。

あなたのメールを読むのがつらくてアドレスまで変えた。

それがもっとあなたを傷つけることは分かっていたのに。


アメリカの生活を始めたころ、帰国したらジュンと結婚するものと疑いもしていなかった。

それなのにたった半年で、彼と関係を持ってしまった。

理由は私の油断と不注意。

彼の部屋でマッサージをするというミスを犯してしまった。

だれもがジュンのように我慢強くないことを忘れていた。


望んでもいない妊娠が分かり、あなたに知らせるか迷った。

もし知らせたら、必ず会いに来て、私を連れて帰ろうとするだろう。

あなたに過ちを責められず、帰国を促されたら私には拒むすべはない。

子供を堕ろし、何もなかったように、あなたに守られながら日本で暮らすことはできないと思った。

私は大学で勉強を続けたかった。


ジュンに会いたい。でも会えない。

体が引き裂かれるような思いだった。

彼は私を追いつめたことを謝り、責任を取ると言った。

考え抜いた末、私はここで彼と生きていく道を選んだ。


今、彼と同じ医学系のコースで学んでいる。

最難関の道を選んだのは、自分勝手な私が自分に課したジュンへの償い。

それがあなたには、何の慰めにもならないことは分かっているけれど。


医師になる道は日本より開かれているが、実際に仕事をするまで、今後、長い年月と努力が必要になる。しかし夫と息子、ジュンとの思い出が支えてくれると思う。


母からみどりさんのことを知らされ、ようやく手紙を書こうと思った。

彼女は、周りを明るくするひまわりのような人で、父もあなた方が訪ねてくるのを楽しみにしているそうだ。

ジュンが素晴らしい女性と巡り合えて本当によかった。


彼のマラソンの記録は2時間30分台で、去年のデフリンピックに出場した。

オリンピックよりボストンやシカゴマラソンで入賞し、生活のために賞金を得ることに熱意を燃やしている。

いつかジュンと一緒に走りたいと言っている。でも私は、まだあなたと冷静に会える自信がない。


もうすぐロスの夜が開ける。

今日も私にとってハードな一日が始まる。

でもそれはあなたを苦しめた当然の報い。私は甘んじてそれを受け入れる。


私の願いは一つだけ。

それはみどりさんと幸せになってくれること。

ジュンは、私の言うことは何でも聞くと約束したでしょう?


同じ夢を持ち、二人で過ごした二年間はあまりにも大きな思い出。

あなたが私に夢と自信を与えてくれた。

学ぶことの楽しさや人を愛する喜びも教えてくれた。

全部が私のタカラモノ。


あなたに心からの愛を込めて。

               ユカ・ロサリオ・マエストリ




手紙を読んで少し泣いた。

でも由佳のことで泣くのは、これで終わりにしようと思った。


由佳が淳一の次に、聞こえない彼を選んだのは、正しい選択だろう。

デフファミリーの彼らが、静寂の中で手話を交わしている姿が想像できる。


温かな言葉が満ち溢れている風景。

何と豊かで安心感に満ちた世界だろう。

俺が由佳に与えられる何倍もの幸せが、そこにはあるはずだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


由佳

君からの手紙がどれだけうれしかったか、想像できないだろう。


君は何も悪くない。

僕は君と出会うことができた。

それこそが、僕のかけがえのないタカラモノだ。


君の判断にはいつも間違いがなかった。

君の選択を僕は受け入れなければならない。

君の成長についていけなかった未熟さが、僕の悲しみの全てだ。


君が幸せならそれでいい。

やっとそう思えるようになった。僕の小さな成長だ。


由佳

僕は前も今も十分幸せだよ。

君の方が心配だ。無理をせず、君の夢を追いかけてほしい。心からそう願っている。


今、僕は君の部屋に一人でいる。

君の姉さん夫婦も来ていて、2才になったまひろちゃんとみどりの笑い声が聞こえてくる。

何で集まったと思う?

全員で写真を撮ってメッセージを君に送ることになっている。


でも僕の思いを届けるには、一言では足りない。

だから今、君の部屋でメールを綴っている。


由佳

いつになるか分からないが、君に会いに行くつもりだ。

君の家族にも会ってみたい。

みどりにも会ってほしい。

だって君と僕はいとこ同士なんだから。 


                                    the end             

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