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香武庁  作者: かんから
新庁府の時代
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東京遷都

 大坂は不穏な空気で包まれていた。香武庁は幕を下ろし、日本国連邦政府へ切り替わったのは周知のとおり。多くの民衆はこの交代劇を歓迎した。だが一方で香武庁という絶対権力に頼って暮らしてきた者も大坂に多い。特にこれまで庁府に身を置いてきた役人たちの多くが大坂城を追い出された。岡山藩を中心とする諸藩連合の武士たちが代わりに大坂へ入ったため、彼らは不要となったためだ。これまでの悪習を断ち切る狙いもある。


 ……6月に入ってからは特に不審火が多く、南側に広がる堺のスラム街などには職にあぶれた者らが集結。夜になると恨みをもった庁府の元役人らは、諸藩連合の武士らを襲う。……このままでは二度目の大塩一揆を引き起こしかねない。



 ここで総裁の池田いけだ信経のぶつねら上層部はある決定を下す。


 ”東京遷都”である。


 江戸は、江戸藩松平家のおひざ元。初めから庁府に刃向って独立できるだけあって、民衆のすべてが連邦政府を支持している。どこに敵が潜んでいるかわからない大坂よりも、腰を据えて新しい政治のできる江戸の方が新首都にもってこいだ。”江戸”を”東京”と改称したうえで、同年8月には早くも実行に移された。


 大坂の庁府に対して、東京の新しい庁府へ移る。このあたりより世間では新しい国家のことを”新庁府しんちょうふ”と呼んだ。本来は”日本国連邦政府”なのだが、そんな長い名前よりも言いやすいし、前政権と対比できるわかりやすさから、その呼称は一般的なものになった。


 香武かんむ義静よししずに代表される旧皇族は東京千代田城内で軟禁。香武かおる義輝よしてるら香武庁の残党は東北へ逃げ込み抵抗を繰り返したが、戦況を覆すことはできず、義輝親王は身をくらました。東京では治安維持のために警察庁が発足し、初代長官に関東の地理に明るい松平まつだいら慶喜よしのぶが就任する。これは軍隊とは違う組織で、民のそばに寄り添うということを旨とした新しい発想によった。


 

 基本的に新庁府の政治は、こちら側の明治新政府の行ったことと似ている。ただし先の時代に行われた政策によってさらに進歩的になった箇所もあれば、函館をロシアが租借しているなど著しく不利な状況にも置かれている。原因は日露通商という50年以上も早まった出来事……もとはこちら側より商人の力が強かったためにもたらされたことであった。初めはそれほどの違いがなくても、後々になって大きな差が生じる。私には一つ一つの判断の重さが、非常につらく感じた。



 さらにいうとあちら側の世界では、廃藩置県が中途半端なものになってしまった。連邦制という仕組みからスタートしたからであるが、あくまで藩という組織が小さな国のようなもので、それらがそり集まって話し合うというのが連邦制の意味だ。国を強くするためには一ヶ所に財政を集める必要があり、中央集権を目指さなければいけないのだが、そのために明治政府では版籍奉還と廃藩置県を行った。だがあちら側では大名当人の意志が思ったより強い。特に博多藩隠居の上西じょうせい宗家そうやは権益を手放そうとはしなかった。(そう考えると、こちら側の大名たちはよくまあ英断を下したものだ。赤字藩が多かった側面もあるが。)


 駄々をこねているうちに彼は寿命で亡くなったが、このタイムラグによって各藩に自前で軍隊を強化する時間を与えてしまった。列強に対峙するためにはもちろん軍隊を強くする必要はあるのだが、中央集権国家でない以上、国軍というものは各藩の混成軍でしかない。つまり各藩の軍隊をそれぞれ強くしなければ、とてもじゃないが国自体も守れない。

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