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香武庁  作者: かんから
新庁府の時代
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碓氷峠の戦い

 5月20日、あちら側の世界での建国記念日にあたる。占領した大坂庁府へ岡山藩主の池田(いけだ)信経(のぶつね)がその日に入った。改めて香武庁の後継国家として"日本国連邦政府"の成立を宣言し、自ら初代総裁を名乗ったことより由来する。


 これを江戸藩の合意を得ずに執り行ったため、関東の反発がすさまじかった。だが江戸藩主の松平慶喜は追認し、周りをなだめまわった。”……決して江戸藩一つだけでは失敗していただろう。岡山藩に代表される諸藩の協力なくして、成功はなかった。これに比べれば、総裁職をくれてやるくらいは小さなことだ。”


 松平慶喜から総裁職を奪った”池田信経”は、どういう人物だったのだろうか。当時はまだ30そこそこで慶喜と同じくらいの歳だ。慶喜は子供のころから才気あふれる優秀な子だという定評があったが、信経はその真逆。”信長をさらに悪くしたような男”と民からも陰口をたたかれ、父の池田(いけだ)秀経(ひでつね)からも勘当されかけたらしい。その男がいざ岡山藩主となっても素行は変わらず、地位の低い者らとつるんではほっつき歩いていた。


 逆に言えば”誰でも差別せず愛せる男”ともいえる。下級武士の今江(いまえ)小次郎(こじろう)らいわゆる志士とも個人的なつながりがあったおかげで、古くからの家老らにはない視野が作られていった。庁府が開明派攘夷派と揺れ動いた中、何が日本にとって必要かを見極める……すると今江が”国家を作り直す”という意見を挙げた。土佐藩の坂本竜馬は江戸と岡山を結びつけた。……こうして庁府を倒す方向へ進んでいったのである。


 ついでに言うなら、信経の目から見れば慶喜は”頭でっかちの坊ちゃん”というイメージだったらしい。

(権謀術数から生き残ったことを考えれば、決してそうではないのだが。)自分のような馬鹿者が総裁になった方が、下の者にとってゆとりがあっていいだろうと考えていたと伝わる。



 池田信経が総裁に就任した翌日、5月21日。諸藩混成軍は大坂より京都藩条良家の本拠二条城と支城の大和郡山城を目指した。……藩主の条良(じょうら)宗朝(むねとも)は戦わずして降伏。人民と版土を無条件で引き渡した。同じくして博多藩上西家の使者が入城し、連邦政府へ参加する意向を示した。箱根にいる香武(かんむ)義菊(よしきく)軍と松本にいる香武(かんむ)義輝(よしてる)軍にも、武器弾薬差出の上での解散命令が伝えられる。


 両軍は帰るべき城がなくなってしまった。このままでは食糧を賄うことはできず、東(江戸)と西(大坂)から挟み撃ちにされてしまう。特に義菊親王は妻の実家である浅野家が連邦方に参加していたため、勧告を受け入れた。



 ……義輝親王は違う判断を下す。従来から皇族親政を訴えていた彼は、庁府が汚い手で倒されたことに憤慨(ふんがい)。軍勢を率いて大坂へ戻ろうとした。……すると偵察の知らせによれば、武器弾薬差出のため江戸藩から一兵団がこちらへやってくるという。ならば向かってくる敵を倒し、江戸を占領し、その勢いをもって大坂を取り戻そうという実現不可能な作戦を命じてしまった。


 かくして義輝軍はそのまま東へ兵をすすめ、江戸の一兵団を信州の小諸(こもろ)で打ち破った。士気が上がるかと思いきや、もともと敵は差出のためが目的なので兵ごく少数で、公称一万が数百に勝てるのは当たり前。次第に逃亡兵が多くなる始末。


 それでも義輝親王の考えは変わらなかった。江戸藩でもこの事態にあわて、大鳥(おおとり)圭介(けいすけ)率いる五千の、それも最新式で屈強な軍勢が中山道を西へ進む。いよいよ両軍は碓氷峠(うすいとうげ)で激突した。……義輝軍は一方的に打ち負かされ、軍勢はばらばらになって霧散(むさん)したという。

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