ゆず
「ごめんね。あたを攫うよう頼んだのは私なの。」
少女は、笑顔を崩さず私の方へ歩いてくる。
「や、やめて… 来ないで。」
今すぐ此処から逃げ去りたい。恐怖で身体は震えていた。
「そんなに怖がらないで。あなたは私を知っているはずよ……由佳。」
何故私の名前を? 黒髪ロングで、目尻がたれてて可愛い系。スタイルは結構いい方。こんな人、今日初めて見た。
「知らないわ!」
少女に背を向け走り去ろうとした私は、二人の少年に両腕をおさえられた。
「大人しくしろ。」
「頼むから。」
力はそんなに弱くなかった。少し抵抗すれば、振りほどけそう。だが、私はその手段を取らなかった。何故ならその2人は、小刻みに震えていたから。
少女は私の顔すれすれまできて言った。
「ゆず。そう言えば分かるかな?」
その名前には心当たりがある。
「ゆずって……あのグループの?」
私は数週間前に、携帯を買い替えた。当然のようにLINEをアプリに追加した。すると、見知らぬ人からメッセージが届いたのだ。
『携帯番号から追加しました。ゆずです! 』
最初はためらったが、顔も知らぬ相手と話すのも悪くない。そう思ったのだ。
『宜しくお願いします。 』
その日から私達は、毎日のようにお話した。同じ県に住んでいる事が分かり、とても嬉しかったのを覚えている。
ある日、ゆずからグループに招待された。同じ県に住む人を集めているのだそうだ。もっと知らない人と話してみたい。友達が欲しい。私は迷わず参加したのだ。
「嘘じゃないのよね?」
恐る恐る聞く。
「勿論よ。ずっと会いたかった。」
「でも、何故こんな事をしたの? 会う方法なら他にもあったはずよ。」
「ねぇ、あのニュース知っているかしら? 少年が一人、鉄パイプで頭を殴られ重症だというニュースよ。」
すぐにピンときた。それなりに有名だったから。
「知ってるわ。」
「被害者、ちひろなの。」
その名は、グループのメンバーの一人だった。
「え……」
「ちひろ以外にも、犯人は狙いを定めたわ。麻那と雄輔。二人は、携帯で脅されたそうよ。殺すって。」
この二人もグループにいた気がする。
「まさか犯人は……」
「あのグループの人、つまり私達を狙っているの。」
そんな事って……
「此処には私、麻那、雄輔、巧と奏、かすみ、、そしてあなたがいるの。」
あれ?だとしたらおかしい。あのグループは、九人いたはずだ。ちひろは病院だから居なくて当然だけど、もう一人は?
「ヤクちゃんは? これから集める予定なの?」
私が言った時、六人の顔が青ざめていった。
「やめて! その名前出さないで!」
「もう聞きたくない。おかしくなりそう……」
「大丈夫。ここなら安心だから。」
ゆずは皆を宥め、私にこう言った。
「犯人は、ヤクちゃんなの。かすみと雄輔がそう言ってる。ちひろも目覚めたら、そう言うはずよ。」
「そんな……」
「由佳、私はあなたを守るために攫ったの。」
今更、ゆずの手が震えている事に気づいた。