シミ
本日2度目の投稿です。こっちが本当に今日投稿する予定だった分です。
少女は、自らをマリアと名乗った。
話を聞けばマリアはここから見えるあの集落の薬師の一人娘らしく、
薬草を摘みに山へと出てきたところを俺たちに遭遇したそうだ。
何者なのか、と聞かれたときにはどう答えるべきか迷ったが、文化の違いなどでぼろが出るといけないので、
記憶喪失であるため自分でもわからない、と答えておいた。
些か納得のいかないといった顔をしていたので少し疑われてしまったのかもしれないが、
これ以上の追究は無駄と考えたのか一応この話は終わった。
今は、マリアを先頭に、マリア、俺、グルの3人(?)で歩いている。
マリアの案内で集落――マリアの話では、ラスエイルという名前らしい、へと連れて行ってもらえるそうなので、
ご厚意に甘えて、お邪魔しようというわけだ。
マリアはその長く美しい黒髪を揺らしながら俺の方を振り返り言った。
「そのフリグォンに危険性が無いのは納得したけど、そのままだと集落のみんなを驚かせてしまうと思うわ。
その……何とかならないかしら?」
すこし言いよどみながら、尋ねるマリア。
まあ、内心魔物を集落に入れることに抵抗があるのだろう。
それでも直接言ってこないのは、彼女の優しさか
……はたまた魔物を従える不審者への畏れからか。
「本当に申し訳ないんだけど、マリア…さんが村のみんなに話を通してから村に入ることって、できないかなあ……?」
かなり下手に出ながら打診してみる。
「はあ……良いわよ。本当かどうかは知らないけど、本当なら記憶喪失の不憫な人間を放っておくわけにはいかないものね。」
調子乗ってすみません。
やっぱり、彼女はかなり優しい女性みたいです。
山道をしばらく下ると、見下ろしていた時とはまた違った趣を見せるラスイエルが見えてきた。
背の低い藁に囲まれた集落は思っていたよりも閑散としていて、寂しげな空気を漂わせていた。
「このあたりで、少し待っていてもらえる?村長たちに話を通してくるから。」
「ああ、ありがとう。悪いな。」
グルを撫でながら、マリアが村の奥へと行くのを見送る。
グルは尻尾を激しく振りながら嬉しそうにしていたが、正直それどころじゃない。
さっきから視界に映るナニカが気になって仕方がない。
集落にはいくつもの茅葺屋根の住居があるのだが、そのうちいくつかの建物から黒い染みがにじみ出ているように見えるのだ。
建物の穴や、隙間から煙が出ている、といった感じではなく、見えている景色を一枚の風景画だと考えたときに、
そこにかなり水を大目に加えた水彩絵の具を垂らしたかのような、そんな染みが見えるのだ。
「なあ、グル、あの染みみたいなやつ、なんだと思う?」
とグルに問いかけるが、質問の意味が分からなかったのか首をかしげるだけだった。
「まいったな、頭でも打ったのかなあ……」
自分で呟いておきながら、そうではない、という確信があった。
確信がどこから生まれたのは分からない。
しかし、確かにあれはあそこに存在している。
それも限りなく現実から乖離した形であそこに存在しているのだ。
正体はわからない。
しかし、ソレは酷く不快だった。
マリアが戻ってくるまで待っているつもりだったが、耐えられない。
グルをここに待たせておき、単身原因を突き止めに行くことにした。
「グル、少しここで待っていてくれ。」
普段滅多なことでは見られない俺の神妙な表情をみて首をかしげながらも、
グルはお座りの姿勢をとった。
「よし、良い子だ。」
グルの頭を人撫ですると俺は、一際濃い色の染みができている住居へと足を向けた。
ホラージャンルだったらきっと主人公死にますね。