十三話 残念。外れです
荒唐無稽な俺の回答に、しばし沈黙が続く。正解か不正解かも分からないまま三人とも一言も話さなかった。
アルカが沈黙の緊迫感に耐え切れず紅茶を飲み、ソーサーにカチャンと音を立てて置いた。
「あ」
「火傷してないか?」
「うん、大丈夫。ぬるかったから」
こぼれた紅茶はアルカの手にかかったが、時間が経ってすっかり冷めた紅茶のおかげで、火傷はしないで済んだようだ。
これがきっかけになったかは分からないが、ずっと沈黙を貫いていたワンスが、やっと口を開いた。
「どうして、私がセバンの子孫だと分かったのですか?」
それはもう俺の回答が正解と認めたようなものだった。
「こんな意味分かんない推測をして分かった気にはならないが、それでもよかったらこの結論に至った経緯を聞いてくれ」
舌で唇を湿らせ、まずはセバン検査の紙を見せた。
「まず、ワンスが言ったヒントがあるにはある、というのはセバン検査の紙だな? 作成者のフォージェルという名前は知り合いか?」
「フォージェルは私の旦那です。クライア・フォージェル。そして、私の本名はクライア・ワンスです」
「偽のセバン検査を作るのは可能だが、名前までは偽れなかったのか?」
「今も未来も、誰が誰の検査結果を書いたのか公表されますから。これでも相当リスクを負ってくれました」
「次にこれだ。ワンスの部屋に勝手に入ったのは謝罪する。あからさまに怪しかったから調べさせて貰った」
俺はワンスの部屋から拝借した服を広げる。
「やっぱり入ったんですね。クローゼットが少し乱れていました。マスターキーの存在を失念していましたよ」
「真犯人に繋がる証拠探しにちょっと荒らしてしまったが、俺が目に付けたのは、この服に使用されている刺繡だ」
「刺繍、ですか?」
「ああ、初めて会った時のワンピースドレスも刺繍が凝っているなとは思ったが、これを王都の有名な裁縫屋に見せに行ったら驚かれたよ。こんな刺繍見た事もないって。再現可能か聞いたら首を横に振られた。時間を掛ければ作れるとは言っていたが、まずは王族に献上するべき品だとね」
「……まさか、お気に入りの一着が未来の技術だとは思いませんでした。衣類は機械でササッと作りますから、そこまで差があるとは想定外です」
「アッシスタ、後はあの銃についてかな?」
アルカが日記帳を開き、模写してもらった銃の絵を見せてくる。
俺は頷いて日記帳を借り、銃の絵をワンスに見せた。
「クローゼットを探している最中に見つけたんだが、この銃についても未来の代物だな?」
俺が指摘すると、ワンスはテーブルの下で手を動かし、おそらくスカートの内側から銃を取り出した。
ゴトリと重い音を立ててテーブルに置かれた銃は、俺がクローゼットで見つけたもので間違いない。
「ええ、これもチョイスを誤りましたね。この時代にはもうあると思っていました。調査不足ですね、これも王都で聞いたのでしょう?」
「ああ、そもそもコンパクトな銃なんて聞いたことが無いからな。その銃はかなり小さいが、片手で扱えるのか?」
「訓練すれば可能です。私は使い方を知っているだけで、詳しい事は銃オタクの旦那に聞かなければ分かりません。一応これはリボルバー銃と呼ぶそうです」
「りぼるばー? なんか格好いい名前ね、そう思わない? アッシスタ」
「確かに。ちょっとそそられる名前をしているな」
「私には分かりませんが、そう言って貰えると旦那が喜びます」
旦那さんは生粋の銃オタクなんだろうな。どこかワンスも嬉しそうだった。
「セバンの人形についてはどの程度似せて作れるのか判断がつかなかったが、この時代にないものが少なくとも三つ。周りの住民がワンスのことを知らなかった事。貴族の中に名前が無かったこと。……これは俺の完全な推測ではあるが、セバンを殺していないのは、守るためだったんじゃないかと思っている」
「アッシスタ、守るって、何から?」
「そんなの未来人しか分からないが、セバンは有名人だが敵も多い。脅威が迫っているから、守るために死を偽装したんじゃないのか? 俺たち探偵に死を宣告してほしくて、依頼してきた」
「そっか、すでに死んだと宣告されれば襲ってくる人も諦めるから」
ワンスにどうだと視線で訪ねると、瞳をスッと細め、テーブルに置いていた銃を手に取った。
「残念。外れです」
――カチンッ
ロックが外れる音。慣れた手つきで銃口が俺の隣、アルカに向けられた。
「私がこの時代に来た目的、それは……、サスパート・セバン及び、名探偵ソンナワケ・アルカの殺害です」




