【魔法少女#56】影照らす光とそれを飲み込む虹
「あれから、もう3か月か」
春はとっくに過ぎ、季節は巡って夏。
日は伸びてじりじりと焼けつくような暑さが街を飲み込んでいた。
今日は鬼島さんの退院祝い、全助の室内はまるで誕生日パーティーのような豪華な飾りつけで彩られている。
「あんときは鬼島の退院祝い、やるつもりだったんだぜ」
そう陽気に話すのはアロハシャツに身を包むオーナーの玄さん。
それを聞いたミリアが困った笑みを浮かべながら俺の方に助けを求める。
「えっと…私達宗次郎が退院する日、知ってたっけ?」
「し、知らないよな」
なんたってあの日は…
「私とクレープ、食べに行きましたからね」
今日の主役、というタスキを掲げたピエロの帽子を被った紫崎さんがソファーから立ち上がる。
「フン、まぁいい」
ケーキを前にしても無骨、これこそ鬼島宗次郎。
そんな彼が珍しく笑みを浮かべながら横をじっくりと見る。
「まさか俺達を入院させた元凶まで呼ぶとは思わなかったよ」
鬼島が見つめるその先にいたのは、白い夏服のブレザーを身に着ける青紫のメッシュを揺らす悪魔。
「私も、こんな馴染むとは思わなかったよ」
青い二本の角に巻かれたのはリボン、とそれを自慢げに見て頷く紫崎さん。
「ウルちゃんはクール系の可愛さを持っていて、無限のメロさも持っておる…」
紫崎さん、今ままでそんな関わってこなかったから知らなかったが、こんな一面をもつ女子だとは。
「まぁ、私達は小さな幸せを見つけてそれを誰かに繋ぎ合う、それこそ…」
かわいらしい女児向けアニメの仮面をかぶったミリアがケーキを斬りながらつぶやいた。
「でもさ、意外とノクスレインの連中、攻めてこないね」
そう、あれから数か月、彼らの動きはまだない。
「強い戦闘者と魔女はごろごろいるからね…私達よりも強い奴も」
「ミリアとお前よりも強い奴がいんのかよ」
鬼島がケーキを頬張りながら体を乗り出す。
それを見た悪魔は、ニヤッとした笑みで語りだした。
「名前はセグレア・ノクスレイン。ミリアの血縁上の実の姉であり、ノクスレインの実験は全て彼女を超えるために始まった」
彼女を超えるため、その一言で場が静まり返った。
「ってことは…二人が生まれてもなお…」
玄さんがフォークを握りながら、ぽつりと、感覚で導き出した答えを声に乗せた。
「大丈夫、私がいるから」
このセリフ、もうすでに安心すら覚えるようになってきた。
「俺はミリアを信じるよ」
あの日、俺とミリアが出会ったあの日から、この魔法少女は救ってきた。
綺麗ごとと、それを邪魔するような現実も乗り越え、救える幸せを。
「ミリア、俺…」
「幸せ、だね」
俺のつまらない退屈な普通は、いつからか、幸せと特別が溢れる、”普通”に変わった。
いや。彼女が変えてくれたんだ。
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どこか、闇に沈む世界。
「そうか、故郷の兄の墓に埋葬したか」
「私は優しいですから、彼女も頑張りましたよ、多分」
部屋の奥、その椅子に腰かける闇を纏う魔女は、無。
「そうだな、国の宝である魔人の誇りを取り戻した祖国でゆっくりするといい」
蠢く闇は、どこか静かで澄んでいるようにも見えた。
それを前にしても一切怯まない、その一人の少女。
「ミリアもウルも、あれだけ組織の恩を受けて裏切るとは、生命の優しさをなんだと思っているのさ」
虹を纏うその女性、空気感が独特。
「奴らは各部門の中でも飛び抜けていた、お前にさえ匹敵するポテンシャルはあったはず」
嵐の前の静けさと例えるべきなのか。
「最初から貴様に任せればよかったのだ、ノクスレインの血を引き継ぐ魔女さえも死ぬほどなのだ」
黒よりも黒い空間、蠢く闇は急激に嵐のように吹き荒れる。
「セグレア、貴様に命ずる。我らの誇りを侮辱した裏切り者を地獄に送れ」
そんな闇を闇が飲み込む世界で、一人の魔女は輝いていた。
それらを上書きするほどの”虹色”で。
「私の優しさで全部塗りつぶします、多分」
ノクスレインの原点であり、魔女の頂。
このセグレア・ノクスレインがあれだけの人間を殺すなんて、この時は誰も知らなかったんだ。
第一部_完




