「ウェズレイ・サーチャーの独白」
「囚人番号0984面会だ出ろ」3人の看守に連れられ老人が廊下を歩く、歩く度に手錠の鎖がジャラジャラと音を立てる。
「それでは今から1時間は面会時間とする、くれぐれも粗相の無いようにな」看守達はそう言うと部屋を出て行く、一人残された老人は目の前にある椅子に座る。椅子の正面は鏡になっており自分の顔が映っていた。
「随分と老け込んだな」老人は自らの禿げ上がった頭を見て顎に蓄えた髭を触りながら笑う。
「初めまして、貴方がウェズレイ・サーチャーであっていますか?」突然鏡の向こうから女性の声が聞こえた。
「驚いたな、最近の鏡は言葉を話すのか?」老人が鏡を興味津々に覗き込む。
「ああ、そちらからは鏡張りに見えるんでしたね、これはマジックミラーと言って貴方からは鏡の様に反射してみえるんですが、私からは貴方の姿が見える様になっているんですよ」再び女性の声が聞こえ老人が感心した様に座り込む。
「そうか、つまり私に話し掛けている君は1っカ月前に手紙をくれた記者さんだね?」老人が淡々と聞く。
「はい申し遅れました、私フリージャーナリストのエマ・クラフトと申します。本日は取材を受けて頂きありがとうございます。」女性が老人に対して丁寧な挨拶をする。
「私の話しをきいても何も面白くは無いと思うがね」老人が虚ろな顔で鏡越しに問い掛ける。
「ウィンダーツの食人鬼、この国に生きている者ならこの名前を知らない者は居ません」女性から出た懐かしい通り名を聞き老人の顔が輝く。
「その名を知っているとは、私もまだこの世界に忘れられては居ないようだね」
「当然でしょうアメリカ史上最悪の猟奇事件、記憶から消したくても忘れられる筈はありません」女性が恐怖と畏敬の籠もった声で話す。
「それで?私の様な老いぼれに何を聞きたいんだい?」
「全てです、貴方が何故あの様な凶行に及んだのか。そして長らく沈黙を貫いて来た貴方が今回私のインタビューを受ける事を承諾したのか、包み隠さず話してください。」老人は女性の要求を静かに聞き頷く。
「良いだろう、ならば君も1つ約束してくれ」老人が再び顔を上げて鏡の向こうのエマに言う。
「全てを聞いても後悔だけはするなよ?」
老人の暗い瞳に気圧されながらもエマが了承する。そして老人が自分のこれまでの人生を語り始めた。
1955年8月14日私は血溜まりの中で息絶えた父を見ていた。父は退役軍人で何時も悪夢にうなされていた毎晩寝言の様に「ジャップだジャップ共が突っ込んでくる!」とうわ言の様に叫び声を上げていた。そんな父に恐怖を覚え母は私と父を置いて新しい人生を歩んで行った。
父はそれから酒に溺れ私の世話など二の次になっていた、私は生きる為に家にあった腐りかけの食料から生きたネズミまで口に入れては嘔吐を繰り返し何とか飢えをしのいでいた。ドガン!と乾いた音が聞こえ私は目が覚めた、何があったのか音の出所を探しリビングへと向かった。そしてショットガンを手にした頭部の無い死体が転がっていた。その死体が父だと気付くのにそう時間は掛からなかった。私は泣きながら冷たくなっていく父の身体を揺らした、だが父が起き上がる筈もなく私は血溜まりに顔を沈めて泣いた。
そしてそれと同時に強烈な空腹に突き動かされていた。
頭では駄目だと理解していたが、今まで口にしてきた腐った食料と違い目の前に横たわる新鮮な肉はとても魅力的に見えてしまった。私は即座に頭部のあった場所に喰らいついた、強烈な獣臭に包まれながらも必死に頬張っていた。私の初めての食人は銃声を聞きつけた近所の人間に見つかるまで堪能した。その後私は孤児院に預けられ人食いの化け物と蔑まれながら少年時代を過ごした。
1968年4月23日私はベトナムに居た。
「このガキ!大人しくしやがれ!」若い兵士がまだ幼い少女に馬乗りになりながら乱暴する。少女は泣き叫びながら抵抗するが兵士に殴打され大人しくされるがままになって行った。
「おい、ウェズレイお前は参加しないのか?」周囲で見物していた兵士の1人が話し掛ける。
「あんなガキ相手に興奮できねえよ、それよりベトコンは居たのか?」弾倉を確認しながらウェズレイが立ち上がる。
「何言ってんだよここじゃあ目に映る奴等全員がベトコンだろ?だからザックがああやって尋問してるんじゃねえか」二人の視線の先には虚ろな目をした少女に乗っかり腰を振る若い兵士と、順番待ちをしながらドラッグを吸う兵士達が居た。
「彼奴等も飽きねえな、それより今夜はどうする?」
「何時も通りキャンプに戻った後にやろうぜ」
キャンプに戻り兵士達がそれぞれの溜まり場へと移動する、ある者は簡易酒場へある者は売春窟へと向かった。
「ウェズレイ、行くぞ」
「ああ、今日も楽しもうぜカイル!」
二人はキャンプを抜け出しジャングルへと入って行った。30分程歩いた先に小さな小屋が見えてきた、二人は小屋に入ると灯りを灯した。
「誰だ!俺をどうするつもりだ!」小屋の柱に鎖で繋がれた男が居た。男の顔には黒い布が被されていた。
「今回は男かしかも活きがいいな」
ウェズレイが男の布を剥ぎ取るとそこには同じ部隊のザック・シュミットが現れた。
「お前ウェズレイか?それにそっちはカイルだろう?何だよドッキリか何かかよ早くこの鎖を解いてくれよ」
ザックは安心した様子で二人に解放する様に促すが、二人は無言で顔を見合わせるだけで反応が無い。ザックは恐る恐る周囲を確認し自分が置かれている状況を理解しようとする。小屋の中は全体的に薄暗かったがよく目を凝らすと部屋の隅に山積みになった人間の頭部が目に入った。
「おい、何だよあれは何かの冗談だろ?何か言ってくれよ!仲間だろ?」ザックが必死に抜け出そうともがくが鎖はガッチリしまっており外す事などできない。
「そろそろ始めようぜ」
「そうだな相棒」
「お前等止せ!止めろ!止めてくれ!」
ザックの叫び声が夜のジャングルに響いていた。
「男は筋だらけで不味いな、この前食った女は柔らかくて食いやすかったよ」ウェズレイが骨付き肉を頬張りながら話す。
「お前の食ってる部位が悪いんだよそこは大腿筋と言って、運動機能を集約させている部位だ。だから筋が多くて食えた代物じゃねえんだ」厨房の様な台の上で肉を捌くカイルが説明する。
「粗方捌き終わったな、それじゃあじゃあなザック」
カイルは恐怖で歪むザックの頭部を何時ものように廃棄場の小屋の隅へと投げ捨てた。
二人は現地人の村を略奪する際に出会った。部隊の仲間達が現地人を殺し犯したりする中、ウェズレイは現地人の死体の肉をきり裂き袋に入れていた。
「お前いい趣味してるな」突然背後から声を掛けられ振り向くと、現地人の頭部を持ったカイルが居た。
「お前も随分と楽しんでるな」ウェズレイが返すとカイルが笑いながら手を差し出す。
「俺はカイル・エヴァンスお前は?」
「ウェズレイ・サーチャー」二人は意気投合しキャンプ地の近くで見つけた小屋で夜な夜な殺しと食人を楽しんでいた。
「明日はかなりの激戦地らしいぜ?」カイルがタバコを吸いながらウェズレイの横に座る。
「ああ、ハンバーガー・ヒルだろう?人間がミンチになるまで撃たれるからそう言う異名になったらしいな」
「もし俺がミンチになったら食ってくれよ?」
「ああその時は全部食ってやるさ」二人は冗談交じりに言うと血なまぐさい小屋でひとしきり語り合った。
そしてハンバーガー・ヒル攻略戦でカイルは敵の機銃で滅多打ちにされ跡形も残らない状態で戦死した。
1980年5月20日
私はミネソタ州の田舎町ウィンダーツに居た。私は帰還後安定した職に就き当時付き合って居た女性との間に子供も居た。私は家庭を持った事で血塗られた過去を封印する事を決めた。だが結婚から5年後妻は浮気しており、自分の子供と思っていた娘もその男との子供だと知らされた。
妻と娘は出ていき私は自暴自棄になって居た。酒を煽り毎日呪いの言葉を吐いていた。そして過去に封印した乾きが再び顔を出してきた。
私はアメリカ中を旅しながらあらゆる人間を殺して食べた、バックパッカー、教師、カップル、不良、ヒッピー。皆最後の瞬間顔を恐怖に歪まされながら死んでいった。そして最後に流れ着いたのがウィンダーツだった。
私はそこで肉屋を営んでいた、商品はそこら中を歩いている通行人。私は何食わぬ顔で肉を捌き店に出していた。そしてその肉を食べた客達は今まで食った肉の中で一番美味いと褒め称えてくれたよ。
街の市長から栄誉賞を貰う程店は上手く行っていた。
だが近所の不良共が私の店に強盗に入った事で全てが終わった。彼らは私が仕込みをしている最中に押し入って来た。その時私はその日仕留めた肉を捌いている最中だった、流し台に置かれた女の首を見て不良達は腰を抜かし女の様な叫び声を上げて逃げていったよ。
それで私は捕まり終身刑を言い渡され今もここに居る。
「以上が私の半生だ君にとって有意義な時間になったかい?」ウェズレイの話を聞いていたエマの反応を待つが返事が返って来ない。
「結局逃げ出したのか?本当に情けない」ウェズレイは1人部屋で笑っている。
その姿をモニター越しに見る若い看守が先輩に聞く。
「すいません、この老人は何で1時間も1人で話してるんですか?」
「これが奴への罰だ、奴の中では伝説の殺人鬼ウェズレイ・サーチャーとして振る舞って居るが。現実は世間から忘れ去られた哀れな老人なのさ、だから毎日ああやって自分の犯罪披露をさせて惨めな姿を晒してやってるのさ」二人はモニター室で嘲笑うとウェズレイに話し掛ける。
「囚人番号0984面会は終了だ出ろ!」ウェズレイはゆっくりと立ち上がると面会室を出ていく。
そして明日も、明後日も毎日彼はこの部屋で自分の罪を独白し続けるのだろう。
ウェズレイ・サーチャーの独白 完




