五話「魔法学園に登校します!」③
一方、朝の会話で一度も上がらなかった哀れな竜族の王子キバはというと……
「ふむ、部屋にはいらっしゃらないようですね。今日から学校ということでしょうか」
木によじ登ってシャンデラ家の様子をうかがっていた。
数多の浮き名を流してきたキバ。
彼は女性に興味を持つ側ではなく常にもたれる側だった。
しかし初めてマリア・シャンデラという女性に興味を持ったキバはどうしていいのか分からずこのような行動に出ていた……ぶっちゃけ完全にストーカー状態である。
「追いかけたいですが……しかし学校に部外者が入るとまた警察の方に迷惑をかけてしまいますからね。キタジマさんもお忙しいでしょうから」
すっかり仲良くなったベテラン巡査のキタジマさん(通称キタさん)に迷惑はかけられない。
どうしたものかとキバは木にしがみついたままコアラのように目をつぶり考え込む。
「追いかけられるのは慣れているのですが追いかける側になると何もかも新鮮ですね……いや、こんな感情は子供の頃以来です」
心に去来する懐かしさにも似た暖かさ。
それを表したかのような料理。
その何かを理解できれば自分は元の感情を取り戻せるのではないか。
いつか亜人を束ねるものとしてふさわしい人間になれるのではないか。
なによりマリア・シャンデラについてもっと知りたいという感情が押さえられなくなっていたのだった。
「少しでも側にいられればと思い護衛を申し出ましたが断られましたし、どうしましょうか……」
そんな時である、使用人同士の会話がキバの耳に飛び込んでくる。
「求人? なんでこの時期に? 誰か辞めるのかい?」
「いや、最近マリアお嬢様が変だろ」
お嬢様が変という言葉に使用人の片方は大いに頷く。
「あぁ、前みたいに性格の悪い意地悪はしなくなったけど逆にお母さんみたいになったな」
「緑の物を食べなさいとか……俺実家の母親思い出しちまった」
「わかるぜ、うちの嫁さんも俺と息子の健康にうるさくなってさぁ。結婚前からは想像できないぜ」
「だもんで旦那様が心配になっちゃって腕の立つ執事を一人付けようとしているんだよ」
得心た使用人は手をぽんと叩く。
「そっか、屋敷内はまだしも学校じゃ上級下級で色々あるからな!」
「そうそう、へんなお節介で問題起きないようしたいそうだ」
「身の回りの世話はリンちゃんで手一杯だからな。ボディーガードの役目ができる人を捜しているのか」
「そういうこと、来てくれるといいんだけどな」
このやり取りを盗み聞きしていたキバは――
「執事、その手がありましたか」
真顔のまま、しかし子供のように目を輝かせていた。
これで側にいられる……もう完全に色々見失っているキバは木から飛び降りると履歴書を求め文房具屋へ駆け込んだのだった。
※次回も明日19時頃投稿します
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