03
一日の授業を終え、直登は帰るべくスクールバッグを背負う。あの、学生特有の背負い方。
「ナオ、今日はどこか寄る?」
充が、スクールバッグを肩に掛け、歩いて来た。そんな姿も相変わらず様になっていて、直登は少し羨ましく思う。
「ごめん、今日は用事あるから先に帰るわ」
そうか。充がそう言うのを聞いて、教室を後にした。
ふと。桜の木を見上げると、もうほとんど花は付いていなかった。今年は例年より暖かかったから、散るのが早いらしい。直登は、はあ…と深く溜息を吐く。
この桜が全て散る頃に、俺の命は終わってしまう。この桜と同じように、散ってしまうんだって。
直登は嘲るように笑った。どうして、手遅れになる前に気付かなかったんだろう。今更そんな事思っても遅いのだけれど。
ぴと、と直登の小さく小高い鼻に、一片の花弁が乗った。こんなに舞い散っているのだから、きっと頭の上などにも乗っているのだろう。直登は、その薄茶色の髪を軽くはらった。
「?」
ふと、何かが耳に届く。何だ?音のような、歌のような。綺麗で楽しげで…今の直登には程遠い感情。
じっと、耳を澄ます。だんだん大きくなって行く…歌。そうだ、これは歌。陽気な音楽。
「…誰だ?」
耳から、今度は目に意識を集中する。向こうから、こちら側。校門の方から、校舎の方へ。一人の青年が、舞い散る桜の中を歩んで来た。
そよそよと優しい春風に、無造作にセットされたオレンジ色の髪が靡く。耳にはいくつものピアス。適度に着崩した制服は、直登達と同じではない。
誰だろう。見覚えがない。転校生だろうか。直登は暫くの事そうしていたようで、視線に気付いたらしい青年がこちらを向いた。無意識に、ドキリとする。
視線が絡み合い、数秒。形の良い唇が弧を描き、青年はとても綺麗に微笑んだ。
この時貴方に出会わなければ、未練なんて抱かなかった。もっと生きたいなんて思わなかったのに。