プロローグ:『魔法少女と怠惰なる始まり』
『――その程度の挫折で全てを諦めようとするなんて、怠惰だわ』
――声が、した。
その声は不遜に高慢に見下げるように、僕の頭の中から唐突に響き渡った。
どこかで聞いたことがあるような声。どこかで聞いたことがあるような口調。
それでも記憶の中の誰とも結び付かない『それ』は、きっと少女なのだろうと不思議と僕は奇妙な確信を得ていた。彼女は僕の言葉を待つのすら億劫だと言わんばかりに、面倒臭そうに早口に語り声を続けて響かせる。
『面倒臭いけど、しょうがないから力を貸してあげる。ほら、手を出して』
その言葉に釣られ、僕は鉛のように重くなった腕をどうにか動かし、そして手を開く。
その瞬間だ。ポケットの中が不意に熱くなり、その中に入っていた『魔法少女』のスペルカード、その内の一枚がひとりでに動き出して、僕の手の内に握られる。
淡く発光する、黄色のカード。
仄かな熱を放つそれを確かに握り締めた瞬間、何かが僕の中に流れ込んできて――
「――『怠惰』の魔法、『自堕落の腐食』!」
「――ッ、なんにゃァ!?」
まるでカードの中に込められていた意志に導かれるように、僕は声高にその『魔法』の偉力を世界に知らしめるかのように――詠唱する。
その確かな詠唱を世界が認めた瞬間、未曽有の特異的事象が戦場を覆い尽くす。
森羅万象が、あるいはこの大陸そのものが『怠惰』の原罪に甘んじるかのように、在るべき形を失い、在るべき秩序を失い、あらゆる構造を構成を、連結を連成を無に帰して、不格好な歪を晒しながら自堕落に腐り落ちるように、深淵に向かって沈み込んで行く。
――大地が、ドロドロに崩壊し始めていた。




