8話 悪竜
ここは悪竜に襲われている王都より西に位置する村。
シューク率いる王宮騎士団が到着した。
「被害状況は?」
「家が三軒つぶされましたが、住人は避難していて無事でした。他の住人も現在避難中です」
シュークの問いに、先遣隊の隊長が現状を報告する。
「第一部隊は村人の安全確保と避難誘導を! それ以外は弓を持て」
シュークの号令が響き渡る。
「俺の合図で一斉に矢を射るのだ」
地上に降りて暴れる竜を囲み、騎士たちは号令に従って矢を射かけたが、竜の固いうろこに弾かれて、矢は刺さらなかった。
「炎魔法!」
シュークは剣を竜に向けて、炎の塊をぶつけたが、固いうろこを焼くことはできなかった。
「水魔法!」
クリードも激しい水圧をぶつけてみたが、竜はびくともしなかった。
元来竜は、人を餌としていないので村を襲うことはないのだが、数十年に一度くらいの割合で、村を襲う竜が出現する。
それを皆は悪竜と呼んだ。
だからシュークも、ここにいる若い騎士たちとっても、竜と戦うのは初めてのことだった。
「くそっ、聖女の言う通り、魔法が効かない。だが、あの額の水晶玉をこの剣で突けば良いのだな。クリード、お前の水魔法で目を狙ってくれ。アイツが目を閉じている間に俺が背後から攻撃する」
「わかった。気をつけろよ。絶対に竜の血を浴びるなよ」
「ははっ、俺を誰だと思っている。では、頼んだ」
クリードは激しい水圧をかけて竜の目に水をぶつけ始めた。
「グオオオオオオオオ」
竜は水から逃れようと首を振るが、クリードは的確に目を狙い続ける。
シュークはその隙に、竜の背後に回り背中を駆け上がった。
頭のてっぺんに到達すると、首を振る竜の頭から振り落とされないようにしがみつき、隙を狙う。
一瞬、竜の動きが止まった。
シュークはその隙を逃さず、彼の剣で額の水晶玉を、最大限の力を込めて突いた。
「ギエエエエエエエ」
ガシャンと水晶玉は割れ、竜は断末魔の叫び声をあげて倒れた。
「やったぞ、団長が竜を倒した!」
皆がシュークの勝利を褒めたたえて喜んだのだが、倒れた竜は最後の力を振り絞り、長い尻尾を振り回した。
それが喜び油断していた騎士を襲う。
「危ない!」
シュークは騎士を守るために瞬時に飛び込み、竜の尻尾を切り落とした。
ブシュッ!
尻尾を切った瞬間、血しぶきがシュークを襲った。
竜の血をシュークは浴びてしまったのだ。
「シューク、大丈夫か?」
「ああ、俺は大丈夫……ううっ……」
シュークが急に苦しみだして倒れた。
素肌が見える首から耳にかけて、黒いつる草のような文様が浮かび上がってきた。
「シューク、シューク、しっかりしろ!」
クリードが呼びかけても、シュークは苦し気なうめき声をあげるだけで、言葉を返すことはできなかった。
私は、クリード様に言われたとおりに、神殿の救護室で、神官様たちと準備をしながら待っていた。
「たいへんです。聖女様、治療をお願いします」
クリード様の声が聞こえた。
その声と一緒に入って来たのは、担架で運ばれているシューク様だった。
息も絶え絶えに苦しそうにしているシューク様を、クリード様はベッドに移した。
「シュークが、竜の血を浴びてしまったのです」
クリード様が泣きそうな顔で私を見た。
ああ、私の助言は意味がなかったのだろうか……。
これが、原作が持つ強制力ってやつ?
転生もののマンガや小説で、原作の強制力を気にする下りがよくあるけれど、本当に強制力から逃れることはできないの?
「あの、他の皆さんは?」
「村人は避難誘導が上手くいき、負傷者は出ていません。騎士は危ないところをシュークに助けられたので無事です。ただ、そのときに、シュークが竜の血を浴びてしまって……。せっかく聖女様から助言をいただいたのに……」
ああ、これも原作と同じだわ。
誰も負傷者はいなかったけれど、シューク様だけが、竜の呪いにかかってしまった……。
「では、今すぐ癒しの治療を始めます。クリード様は、ここにいて手伝ってください」
苦しむシューク様の身体に向かって、私は手のひらをかざした。




