14話 胸がキュン
「貧民街の人たちには、定期的に食料の配給が行われています。ですが、子どもたちに食料がいきわたってないようですね」
ガトーさんは、貧民街の現状を把握しているようだった。
「配給だけではダメなんです。子どもたちのような弱者は、強者に奪われてしまいますから」
そうよ。いつだって弱者は強者の食い物にされる。
前世の私だって、皆が嫌がる仕事はたらいまわしにされた挙句、結局一番立場が弱い私のところに回って来て……
そのせいで過労死?
まったく、どこの世界も、弱者は強者に搾取されるのね。
「それに、子どもたちから奪うのは、他人だけでなく、実の親であることもあるのですよ」
「配給だけではダメ……ですか……」
ガトーさんが、何だか悩んでいるみたい。
日本なら、子どもたちの食を救うために学校給食があるし、地域によっては子ども食堂なんてのがあって、子どもたちの食を守ろうとしている。
でも、そんなことを、この世界で望むのは難しい?
「配給ではなくて、給食が良いと思います。子どもたちのための食堂を作り、子どもたちが食べ終わるまで大人が見守るのです。そうすれば、奪われることなく、安心して食べることができるでしょ?」
「なるほど……。子ども専用の食堂ですか……」
「はい。せめて一日に一回でも、栄養のバランスの良いものを、お腹いっぱいに食べることができたら、きっと子どもたちの健康状態は改善して、病気になる子どもも減りますわ」
「素晴らしい考えだ。私から殿下に伝えておきましょう」
ガトーさんが私を見てにっこりと微笑んだ。
ガトーさん、私の夢物語のような話を真剣に聞いてくれるのね……。
シューク様にも伝えてくれるなんて……。
「ガトーさん……」
彼の澄んだ茶色の瞳を見ていたら、私の胸がキュンとした。
貧民街の治療が終わった後、遅くなったから、私は侯爵邸に直接送ってもらった。
馬車から降りるとき、ガトーさんがエスコートしてくれて、その手に触れた瞬間、また私の胸がキュンとした。
ガトーさんとロミアスさんは空の馬車と共に、王城へと帰って行ったんだけど、私は馬に乗っているガトーさんの後ろ姿を、見えなくなるまで見送っていた。
ガトーさん、私があの子のことを気にしていたから、わざわざ見に行ってくれたんだ……。
そして、子ども食堂の話、この世界だと、鼻で笑われてもおかしくない話なのに、真剣に聞いてくれて、素晴らしいって言ってくれた……。
ガトーさん、私……、あなたに恋してしまったようです……。
俺は聖女エクレーヌを侯爵邸まで送った後、王城に戻った。
王宮の入り口で、俺の専属侍従のフリュイ・モンブランが俺の帰りを待っていた。
フリュイは出しゃばることなく、いつも控えめだが、絶対に俺を裏切らないという自信がある。
そのせいか、彼の茶色の髪と緑の瞳を見ていると、何故かほっとするのだ。
フリュイの案内で、俺は王宮の廊下を歩く。
フリュイは、王太子の部屋のドアをノックして「殿下、護衛騎士が報告に参りました」と、わざとらしく声を上げた後、俺を部屋の中に入れた。
いつもながらに、演技が上手いヤツだ。
俺はソファにドサッと座り、変装魔法が掛けられている茶髪のカツラを頭から外した。
「殿下、お疲れ様でございます。今日はいかがでしたか?」
フリュイがお茶を出しながら俺に問う。
「ああ、エクレーヌは本当に素晴らしい聖女だ。貧民街でも、まったく変わらず一生懸命に仕事をする。彼女が提案した救済案も、現実を考えた見事な案だった。そうだ、フリュイ、もうあれはできたのか?」
「はい。かなり高度な魔法が必要なので、時間はかかりましたが、本日完成いたしました」
「そうか、苦労を掛けたな。感謝する。いずれ使うことになるだろうから、それまでお前が保管しておいてくれ」
「かしこまりました」
「では、もう下がって良い。ゆっくり休むように」
フリュイは一礼すると、部屋を出て行った。
フリュイは、俺、シューク・モナクの専属侍従だが、変装魔法の使い手でもある。
俺がガトーに変装できるのは、フリュイが作った変装用のカツラのお陰なのだ。
このカツラを装着すると、俺は茶髪で茶色い瞳の平凡な顔に変装できる。
声も変わるから、俺がシュークだと気付く者は、まあいない。
そもそも、こんな変装が必要となったのは、エクレーヌに聖女の力が発現したからなのだが……。




