第75話 防御結界付与
(*´ω`*)クート君は女の子を大切にしますよ。ホントですよ。
「たしゅけてぇ〜おねぎゃいしましゅ〜⋯」
「解った解った」
半べそで縋り付いて来るプリメリアの頭を撫で撫でしてやるクート。
「⋯何でもするんだったな?」
「は、はい―――んむっ!?」
クートがプリメリアの唇を奪う。舌を絡めて唾液を交換する。こんな時に何をするのかと戸惑う。ファーストキスだったがそんな事も気にならない。意味が解らないので混乱する。其れよりオーガが気になる。あのまま外に出て行ってくれてるかも知れない。自分を見捨てて逃げ出した友達⋯友達ではないかもだが⋯を追いかけて行ったかも知れない。きっとそうだ。そうに違いない。
「い、いったいにゃにを――――ひっ」
唇と舌に残る感触に一瞬羞恥を覚えるが、直ぐに恐怖が其れを塗り潰す。ズンズンと云う足音が近付いて来たからだ。オーガはプリメリアの願いも虚しく此方へ来たらしい。プリメリアは我が身の不幸を嘆く。
「俺がお前を助けたら、俺の女に成るか?」
「なりゅっ!あにゃたのものになりましゅっ!」
クートの申し出に即断で飛び付くプリメリア。もしももっと覚悟の決まった高位貴族の令嬢とかなら、モンスターに喰われるか平民の女に成るかの二択だったら迷わず自決していたろう。しかし甘やかされやや放置気味に育てられて来たプリメリアにはそんな矜持は無い。もしも助かるならクートの足の裏でも舐めるつもりだ。
「良し。任せて」
クートが走る。暗闇だが魔力感知でオーガの姿は視える。先ずは牽制。チャクラムを投げて足に鋼糸を引っ掛ける。
「あは、駄目か」
オーガは今度は鋼糸を無視した。多少の怪我は無視してクートとプリメリアを仕留める算段だろう。
「ほいっ、ほいっ、と」
ナイフを目に投げる。手斧を頭部に投げる。しかしナイフは流石に暗闇なので額に当たる。手斧は頭に当たったが無視された。出血はした様だが致命傷ではない。寧ろ其の所為でオーガが更に怒ったのが解る。
「ま、駄目か」
クートはウルミやチョッパー、他の装備も外す。どれも決定打には成るまい。
「使うか」
クートが走りながら四つん這いになる。Dランクモンスターブラックファングボアの魔石の心臓を喰らい、血を啜って得たスキル。
(突進力向上⋯直線的な動きの加速力アップ。後アクティブスキル筋力上昇も使おう)
意識すると脳内でスイッチが入る。手足の筋肉がビキビキと膨張するのが解る。
(縄張り意識向上⋯間合いの中の魔力感知アップ)
間合いに入ったオーガの姿形や息遣い、心臓の鼓動が解る。此れで相手の攻撃動作は手に取る様に解るだろう。そして―――
「形意拳⋯四足獣、亥の型」
クートが弾丸の様にオーガへ向かって駆け出した。オーガの拳を避け、踏み付けを躱して走る。洞窟の壁を掴んで駆け上がり三次元の動きをする。
(行けるか?)
クートは拳に魔力を纏わせる。此の魔法ならばオーガの肉体も斬り裂ける筈である。しかし―――
「駄目か」
⋯失敗した。仕方無いので次善策を走らせる。
「加熱」
「ギャアアアアアッ!?」
「お?此方は効くかぁ⋯」
鋼の様な頑丈な肉体だが熱いのは嫌だったらしい。クートが加熱を纏わせた手刀で斬り付けると悲鳴を上げて暴れる。だが到底致命傷には成り得ないのでクートは嫌がらせに徹する。猪⋯と云うより猿の様に飛び回りながらオーガの肉体を斬り刻んで行く。怒らせて隙を作るのはクートの定石だ。苛立ったオーガが雄叫びを上げる。
「オオオォォォガァァァァァァァァッ!」
「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
オーガの雄叫びにプリメリアが悲鳴を上げる。視界が悪く何も解らないからだ。状況はクートに有利だが其れも解らない。恐怖で頭がおかしくなりそうであった。
(死にたくにゃい死にたくにゃい死にたくにゃい!)
此処で遂にプリメリアも覚醒する。追い込まれれば誰しもが、生き残る為に潜在能力を目覚めさせるのだ。彼女はなんと、闇属性の魔法にも開眼した。文字通りの開眼だ。プリメリアの視界が一気に開ける。真っ暗闇なのに全てが視える。闇魔法其の物は未だ使えないが、闇魔法適性が出来た事で夜目が利く様になったのだ。補助的なパッシブスキルである。他者に掛ければ補助、支援魔法として活躍するだろう。其の彼女の目が捉える。オーガ相手に近接格闘をするクートの姿を。
「す、ごい⋯」
「ガオオオオオオオオッ!」
オーガが拳を振るい蹴りを放つ。しかしクートは其れをスルリと避けながら足首や脇の下等、筋肉が薄い急所を的確に突いていた。オーガの全身が徐々に血塗れになって行く。しかし―――
「ぬぐっ!?」
オーガの拳がクートを捉えた。油断した訳でも失敗した訳でもない。ちょっとした実験である。そしてクートは其のまま洞窟の壁に叩き付けられる。
「え?嘘⋯」
優勢と思ったクートが一撃で倒された。プリメリアの血の気が引く。
「オガァァァアアアッ!」
「ひいいいいっ!?」
オーガは吹き飛ばしたクートを放置して、なんとプリメリアに向かって来た。オスが守るメスを先に殺して見せしめにしようとしたのか、殺し易い方を先に狙ったのかは解らない。只狙われた原因は解る。プリメリアは恐怖の余り少し失禁していた。其の尿の匂いを嗅ぎ取られたのだ。位置を特定されたプリメリアにオーガが襲い掛かる。
「嫌ぁあああああああああっ!?」
闇属性にも覚醒してしまったが故に、自分に迫る死の形をハッキリ視てしまうプリメリア。オーガの鋭い爪が生えた手が迫る。あんな物で引っ掛かれたら顔の皮は剥ぎ取られ、内臓が洞窟内に散らばるだろう。其の爪がプリメリアの衣服を引き裂く。プリメリアが恐怖で絶叫する。
「ぴきゃぁああああああああああああっ!?」
しかし―――
「問題⋯無し」
ガギンッ!と云う硬い物同士が打つかる音がして、オーガの手がプリメリアの身体の直前、僅か一ミリの所で停止した。衣服は破けた。しかし皮膚には到達していない。
「ひっ!?ひうっ!?ひぎっ!?」
吃逆をする様に引き攣った悲鳴を繰り返すプリメリア。オーガは歯ぎしりしながら爪を突き立て様とする。其れが出来ないと解ると足を振り上げる。
「きゃああああああああっ!?」
怒ったオーガがプリメリアを踏み潰そうと足を振り降ろし続ける。しかしどんなに踏み付けてもプリメリアには届かない。ガンガンと硬い物が打つかる音だけが響き、プリメリアには一切当たらない。
「良し。成功」
洞窟の床に転がっていたクートがムクリと起き上がる。其の肉体を覆うのは防御結界魔法。
「やっぱ発動条件は攻撃を受ける事か。ショコラみたいに攻撃に転用出来ないもんかね?」
オーガに攻撃を仕掛けてみたが全く効かなかった。しかし、オーガの一撃を受けてみた時に発動した。やはり防御する事で結界が作動する魔法で合ってるらしい。
「他者への付与も可能か」
クートは自分の唾液を媒介にしてプリメリアに防御結界魔法を掛けてみていたのだ。
「やっぱ守る力と攻める力は違うか。盾で殴る事は出来ても、盾は盾として使うのが最適解って事か」
(*´ω`*)自意識の問題ですかね?クートの唾液や血液を摂取しても別に防御結界は発動しないでつ。クートが自らの意思で刻む事が大事なので。




