第55話
(*´ω`*)クート君、職業バーサーカー?
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっ!?」
オークナイトごと炎に巻かれる。肉の焼ける匂い。皮膚を炙る炎。ゴブリンメイジが放った炎の弾丸がオークナイトごとクートを燃やす。
「キュート君っ!?」
「待てショコラ」
慌てて駆け寄ろうとするショコラをフラッペが押し止める。
「さっきの会話はブラフか。二を選べば私達が止めると思ったな?」
フラッペが苦笑いする。フラッペは口出しはすると言ったが実際に戦うのはクートだ。刻一刻と変わる状況に臨機応変に対応する彼の判断を間違っていると安易に断ずる事は出来ない。危険ではあったが―――
「二匹ぃ目ぇぇぇえええっ!だっ!」
ちゃんと敵を仕留めるのだから。
「つってんだろぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっ!」
クートは熱くなったチョッパーを振り抜く。オークナイトの太い首の半ばまでチョッパーが突き刺さる―――が、其処で止まる。頑丈な骨を断ち切れない。足りない。パワーが足りない。
(レナなら行けたかな?)
同期の槍使いの笑顔を思い出す。アイツなら最初のチョッパーの一撃で首チョンパ出来たろう。羨ましい。妬ましい。
「死ねオラァァァァァァァァァッ!」
手斧を逆側から首に叩き付ける。あのオークプリーストがどのレベルの治癒魔法を使えるかは解らない。だが瀕死の状態から回復されたら堪らない。此の味方ごと燃やす攻撃も、ヒーラーが居るからこそ行える暴挙だろう。
「だらぁっ!」
ゴキンッ!と云う金属がぶつかる音を響かせオークナイトの首が宙を舞う。転がり落ちるチョッパーを拾う。手斧は捨て置く。
「痛い痛い痛い熱い熱い熱いっ!あはははははははははははっ!」
冒険者になって、本格的なダメージを受けたのは此れが初めてだ。攻撃魔法を食らったのも初めてだ。熱くて痛いがまだ動ける。まだ戦える。クートは走る。固有スキル食材鑑定が叫ぶ。ダメージを回復させろと。其の為の食材は側に有るぞと。早く喰え。アレを喰らえ。全て喰らえと。
「腹減った」
向かう先はゴブリンプリーストの―――死体。
「魔石っ!」
クートはチョッパーでゴブリンプリーストの胸を引き裂く。クートを追って放たれていた氷の弾丸をウルミで叩く。氷の塊が砕け散るが、反動でウルミを手離してしまう。だが大丈夫。間に合った。
「有った」
ゴブリンプリーストの胸から魔石を抉り出す。付着してる心臓はまだ熱く、脈打っている。脳を破壊され首を落とされても、魔石が有ればモンスターはまだ死なない。
「オークプリーストのレベルが低くて助かった」
未だ使ってる所を見ていない⋯と云うか使わせない様に立ち回っているが、此のレベルのダメージを回復させられる治癒魔法は使えないのだろう。文献で読んだだけだが、魔石が無事なら其処から心臓も脳味噌も再生させる化物が居るらしい。
「がぶっ!」
オークプリーストの魔石と繋がった心臓に齧り付く。流石に魔石を喰う事は出来ないが、モンスター食は先程試した。今口にしているのは食材だ。食べ物だ。今自分に足りてない栄養価の高い御飯である。
「んぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」
単純に不味いから吐き出したいとかではない。毒を感知出来るクートのスキル食材鑑定であるなら尚更だ。此れは毒物で有る。直ぐに吐き出せと本能に命じて来る。其れを強引に無視する。
「ごぎゅっ!ぢゅるるるるっ!」
心臓の肉は噛み切れない。しかし噛み締めて溢れ出す肉汁⋯つまり血を啜り上げ飲み干す。
「クート氏っ!来るぞっ!」
フラッペの声が聴こえる。解っている。獲物が近付いて来てる事は。
「ふーーーーっ!ふーーーーっ!」
クートは喰らい付いた心臓を其のままに走る。迫り来る炎弾を避ける。氷弾を避ける。走りながら実感する。
(おお、回復してる?)
皮膚の痛みや熱さが引いて行く。其れより軽い。体が軽い。此れではまるで―――
(治癒魔法と支援魔法を受けたみたいだ―――)
加速する。景色が流れるのが早い。敵の動きが遅い。クートはチョッパーを振り上げ、投げ付ける様にゴブリンナイトに叩き付ける。盾を避けて剣にぶつける。ゴブリンナイトは剣で受け流そうとした様だが剣は弾かれた。そして其のまま鎧の真ん中をチョッパーが貫通する。
「しゃんびきみぇ⋯ぢゅるるるるっ!」
ゴブリンプリーストの心臓の血を吸う。飲み干す。チョッパーは抜けそうにないので盾と剣を奪う。そしてしつこく炎を放って来るゴブリンメイジへ向かう。
(うぜぇな)
火の玉を盾で防ぐ。熱く熱せられた盾を投げ捨て距離を詰める。一発撃つごとに四十秒のタイムラ―――
「!?」
バゴンッ!とクートの上半身を炎が包む。油断した。罠に掛けた―――のではないだろう。危機に瀕して力が覚醒するのは人間だけではない。守ってくれる者が居らず、迫り来る敵。負ければ心臓を貪り食われる。其れは確かに成長もするだろう。
「痛ぇな」
燃やされたクートは衝撃で口から心臓を離してしまっていた。火魔法が直撃した筈のクートは⋯ほぼ無傷だった。火傷はしてるし服も燃え飛んだ。しかし其れだけだ。先程まで火達磨になって叫んでいた時とはまるで違う。無理な連発で火魔法の威力が落ちてる可能性も有るが、それにしてもノーダメージ過ぎる。
「クート氏?」
「キュート君〜魔力上がってません〜?」
ゴブリンプリーストの心臓を喰らってからのクートの動きが明らかにおかしい。走るクートにゴブリンメイジが炎を放つが当たらない。オークメイジから氷の弾丸も撃ち出されている。炎と氷の十字砲火である。しかし其れも当たらない。あっという間に距離を詰めゴブリンメイジを押し倒すクート。
「四匹目」
ゴブリンメイジの胸をゴブリンナイトの剣で掻っ捌き、魔石が付いた心臓を取り出し齧り付く。
「がぶっ、ぢゅるるるっ!」
(不味い、吐きそう、でも―――美味い)
心臓を噛み締め血を啜っていると氷の弾丸が襲って来た。
「ぺっ!其れはもう良いから」
カラカラに干乾びた心臓を吐き出しクートが掌を差し出す。そして氷の弾丸を其の掌で受け止めた。普通なら受け止めた瞬間重度の凍傷と成り砕け散っている。しかしそうは成らない。ジュッと煙を残して氷弾が溶ける。
「五匹目」
オークメイジが次弾を撃ち出す前に近寄る。最早素手だ。素手でオークメイジの腹を生きたまま裂く。そしてまだ生きているオークメイジの心臓に直に喰らい付き生き血を啜り始めた。
「どっちがモンスターか解らないな」
「ちょっと思ってた展開と違うんですけどぉ〜?」
「私もそう思う」
フラッペとショコラの予定では、ピンチに陥ったクートに的確なアドバイスをし、もしも危うくなったら手を出してやるつもりだった。
「彼の職業は何だね?バーサーカーかバーバリアンかね?」
「スキルは食材鑑定ですねぇ〜」
フラッペが長年求めていた食に関するスキルを持つ少年は、予想とはちょっと違う方向に成長し始めていた。
「あの唇から血を滴らせながら目をギラギラさせてる姿はどうだい?」
「ドキドキィ〜のキュンキュンしますぅ〜」
フラッペとショコラを見つめる視線は、普段の優しく落ち着いた雰囲気とは一変していた。まるで獲物を見定めた獣の様な―――
「ん?あれ?クート氏が此方に来るぞ?」
「そうですねぇ〜ハイタッチでもしますぅ〜」
「いや、様子がおかしいぞ?」
ボスフロアのロックは解除されていない。まだ戦闘は終わっていない。
「オークプリーストは?倒したのか?」
「ええ〜とぉ⋯あ、居たぁ〜」
オークプリーストは壁際に張り付き結界魔法を使っていた。ショコラよりも出力は弱いがアレならばクートからは守られる。勝てはしないが負けもしない。魔力が尽きるまでは。もしもあの結界魔法を直ぐにでも突破したいなら⋯
「もっと栄養が要るな⋯ショコラは美味しそうだもんな」
「え?え?えぇ〜?」
「攻略法三つ目⋯私達に助けを求める⋯ではなく、私達を食べて強くなる。其れが君の⋯君の固有スキルが出した答えなのかな?」
目を血走らせ、唇には魔石付きのオークメイジの心臓を咥え、手から顔から上半身全て血塗れのクート。そしてその血塗れクートは新たな獲物を求め、フラッペとショコラへ向かい走り出したのであった。
(*´ω`*)バーサーカーは暴走状態がデフォで、普段は理性で抑え込んでる感じですね。




