第49話
(*´ω`*)おぱようございみゃふん?
(視えた―――)
視覚なのか嗅覚なのか解らない。敢えて云うなら味覚だろうか?第六感的な知覚能力が拡張される。先の一回だけで追加でファングボアの肉を食べてもいなければ舐めてもいないのに、味を感じる。とても悍ましく凄まじい味が舌を蹂躙して来る。
「せ、成功、か?いや、まだ、か―――」
気分は最悪だ。相変わらず吐きそうだし、吐きたい。顔中の穴から体液が止まらない。冷や汗も震えも止まらない。だが安定している。体内に取り込んだファングボアの肉を、クートの固有スキルがなんとか分解を始めている。成功とは未だ言えないが最初の峠は越えたらしい。しかしまだだ―――
(消化開始、解毒開始、魔力汚染抵抗開始⋯クリア)
歯を食いしばりながら脳内で高速演算されてるのが解る。
(物凄い魔力を消費している)
其の実感も有る。今クートは固有スキルをフルスロットルでぶん回していた。体力気力だけでなく、普段使ってる自覚の無い魔力が超スピードで消費されているのが解る。
「クート氏、平気かい?」
「キュート君」
アラフォーアラサー凸凹魔法士コンビの心配そうな声が聴こえる。景色が変だ。頭の横が柔らかい。ダンジョン内は石畳の筈だが⋯柔らかい感触を頬に感じる。
(何時の間にか倒れていたのか。一瞬意識を失ったのか?)
視界が横倒しになっている。恐らく意識が途切れて倒れかけ、受け止めて貰えたのだろう。額に乗せられた手が冷たくて気持ち良い。手を握ってくれる手を力一杯握り返す。
(苦しい苦しい苦しい痛い痛い痛い痛い嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ吐きたい吐きたい吐きたい吐きたい死にたくない――――)
毒の分解が追い付かない。クートの固有スキルは毒耐性ではないからだ。
「死にたくないならっ!超えろっ!」
己を叱咤する。己のスキルに怒号を浴びせる。小手先の罠で嵌め殺す戦法で良い気になるなと。食材鑑定なら食材鑑定らしく、敵を喰え。喰って殺せ。敵を殺して喰い殺して己の糧としろ。毒等恐るるに足らず。
(俺のスキルならば、喰った物を意地でも消化しろっ!)
ぼやけた視界でファングボアを見る。新しく現れたモンスター共の中に居る数体のファングボア。先程無理矢理拡張した、味覚由来の魔力感知がファングボアを捉える。
「⋯成る程⋯」
ファングボアの体内が透けて見える訳ではないが、何となく、感覚で解る。視覚とも嗅覚とも違う。此れは味覚。やはり味覚がしっくり来る。
(魔力感知⋯?感知系魔法⋯?)
クートの感覚が捉えたファングボアだが、可食部位がバラバラだ。可食部位と云うか、一番魔力⋯濃く味を感じる部位がそれぞれ違う。実際に可食出来るかは別問題だが。其の可食部位付近に強い魔力を感じる。
(此の反応は⋯⋯⋯魔石、なのか?)
魔石の位置も実は個体差が有る。心臓に有る個体も居れば、其れこそ脳味噌に有る個体も居る。
(魔石の位置で個性の違いも出る)
ダンジョンモンスターは其処まで顕著ではないが、外のフィールドに居るモンスターは魔石が有る部位で個体差が大きかった。大体は胴体に有るが、偶に変な場所に魔石が有る個体が居る。
脳味噌に魔石の有るゴブリンは知能が高かった。心臓に魔石が有るファングボアは耐久力が凄かった。やたら片腕の腕力の強いオークはなんと腕の中に魔石が有った。
そして今、其れ等が繋がる。
「魔石か?」
クートはよろよろと立ち上がり、ショコラに支えて貰いながらファングボアに近付く。心配するショコラを手で制し、ふらつく状態で数体倒す。
(俺が倒さないと意味無いって仮説も有るしな⋯)
フラッペから唐突に齎された、食材鑑定は元は狩猟系スキルと云う可能性。こう成るとしっくり来る物が有る。初めて仕留めた獲物は食べられるのか食べられないのか?毒が有るのか無いのかとか、食べてみないと解らないからだ。ならば本当に、食材鑑定は人類最古の、原初のオリジンと呼べるスキルの一つかも知れない。
クートは倒したファングボアの腹や胸を掻っ捌く。
「有ったぞ。そうか⋯そう云う事か」
クートが理解し、確信した。
「フラッペ」
「何だい?」
「魔石だ」
クートが満身創痍の状態でフラッペに告げる。
「魔石の有る部位周辺の肉が、魔力が高い」
食べれるとも安全とも言い切れないが、其れだけは解った。
「其れはそうだろうね。それで?」
「モンスターの肉は不味い。食べれば魔力汚染に依る食中毒も起こす。此れを美味しく調理し、安全に食べるのは至難の業だ。だが―――」
今も彼自身を苛む魔力汚染。頭痛腹痛手足の痺れ。吐き気に目眩、悪寒に発熱。状態異常のオンパレードである。
「魔石付近の部位を喰うのが一番だ。魔石の無い部位の方が安全性は高いが、其れならわざわざモンスター食をする意味が無い。危険を冒すのに安全策を取る意味が無い。リスクは有るが、魔石付近の部位を喰えば強くなる。俺のスキル食材鑑定がそう囁いている」
「解った」
フラッペは満足気だ。だが意外そうではない。新発見と云う訳ではないのだろう。流石に長年研究を続けているだけあり、今クートが辿り着いた結論等疾うの昔に仮説を立てていたと云う事だ。実際食べはしなくとも、魔石付近の部位がより価値の高い素材と成る事は多い。予想の範囲内である。
「有り難う。クート氏のお陰で、モンスター食の研究が一歩進んだ。此れは小さな一歩だが、我々からすれば大きな一歩だ」
「一歩と云うか一口かな?」
「ふふふ、其の通りだね」
クートの軽口にフラッペが微笑む。確かにクートが出した結論はフラッペや、他のモンスター食研究家がすでに提唱していたものである。しかし、臨床試験の様な事が出来ない。皆モンスター食を試すが、食中毒と成ってしまうからだ。嘔吐や下痢で食べた物を全て体外に排出してしまうからだ。
「嘔吐も下痢も無い。意識も有る。食中毒としては軽度だ。素晴らしい。魔力は私やショコラ、本職の魔法士には明らかに劣るのに、だ。此れは人間に備わる魔力があくまでも対外的な物に働く事を示唆しているね。一度体内に入り込み侵蝕を開始した魔力汚染に、我々人間は無力なのだろう」
そう、其処までは既に学会で発表されている。様々なアプローチでも同じ結論と云うか仮説が立てられた。しかし、クートの食材鑑定が同じ結論に到達する事で裏取りが出来た。
それがフラッペの目的の一つだったのだろう。
「俺のスキルが必要だったのは新しい知見を得る為じゃない。自分の研究や仮説の補強と裏取りか」
「気付いたかい?そして傷付いたかい?」
「いや、腑に落ちた。俺程度を徴用する理由としては納得出来る」
スキル食材鑑定が無くとも其処までは誰でも思い付くだろう。しかし思い付いた事が事実かどうかの立証は難しいと云う事だ。
「また逆に、俺の此の拡張された味覚の証明も、また難しいな」
「そうだね。今の所君しか感知出来ない訳だからね。モンスター食をして君が無事だったのは私とショコラが証言可能だが。其れが本当に有意義な結果なのかは繰り返し試すしかないからね。そして君は何故そんなに自己評価が低いのかね?」
フラッペの言葉の後半に首を傾げる。ああ、其の事かと思い出す。自分を卑下する発言に対する物だろう。実際クートの固有スキルは、クート本人よりフラッペの方が価値を見出している。クートは実は逆に食材鑑定が更に嫌になって来た所だ。食材鑑定等と云うヘンテコなスキルの所為で今さっき酷い目に遭ったからだ。いや今も遭っているか。お腹が痛くて気持ち悪い。只其の程度で済んでるのもまた事実。嘔吐や下痢が無いと云う事は、ゆっくりだがファングボアの肉を消化吸収してると云う事だからだ。
(*´ω`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




