第33話
(*´ω`*)クートは格ゲーだとトリッキーなタイプですね。タメ技とか罠設置して発動とか嫌がらせ特化ですね。レナはレバガチャしてれば技が出るタイプ。私は断然レナです。
(逃さないっ!)
レナがクートを追って森の奥へ進む。そうすると当たり前だが頭上を覆う木の枝葉が増える。足元の草葉の密度も増す。視界が悪くなる。足元が良く見えない。
「まさか⋯上?」
レナはハッと顔を上げる。クートは田舎出身だ。木登りもお手の物だろう。下に注意を向けてからの上からの不意打ちも有り得る。
「くっ!?」
しかし上を見上げた瞬間に鋼糸に足首を引っ掛けた。姿勢を低くしてなければ倒れていた⋯まで行かなくとも体勢を崩していただろう。油断も隙も無い。彼の掌の上で弄ばれている。レナは再び槍を振るって鋼糸を切る。上も気になるがやはり足元にこそ注意が必要だ。
「―――居た」
クートを見つけた。と云うか待ち構えていた。距離は近い⋯がまだ槍の間合いには遠い。手にウルミとチャクラムを持っている。此処が彼のフィールドなのだろう。小細工を止めて本格的に戦うつもりだ。
「なんかもう飽きたし終わらそうか。早く町に帰りたいし」
「言ってろ」
クートは本心だったが、レナは挑発と受け取る。
(鋼糸に注意しつつ、飛び道具を防いで、あの鉄の鞭を打ち払って―――)
漸く自分の力が発揮出来る戦場に来れた事でレナの意識が集中する。搦め手や罠じゃクートに敵わない。此処で決める。レナはクートを攻略する為のプランを感覚で組み立てる。慎重に歩を進め、後少しで槍の射程距離にクートを捕らえる⋯その直前だった。
「ふぇっ?」
べちゃりっ⋯と、レナの頭の上にナニカが降って来た。体勢を低くしていた為に頭から背中に掛けてべっちゃりと衣服が汚されて行く感覚を覚える。
鼻腔を貫く凄まじい悪臭。首筋に入り込む生温かいブヨブヨのナニカ。
「みぎゃぁぁああああああああああああああっ!?」
レナが堪らず悲鳴を上げる。槍をバタバタ振り回して頭と背中に降り掛かった其れを振り落とそうとする。無様な事此の上無い姿だが、本人は気にしてる余裕等無い。完全にパニックに陥っている。
(なになになになにっ!?なにこれ!?なにこれ!?気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!)
生臭くて生温かい。腐った匂い。ネトネトと粘ついた赤黒いナニカ。其処ではたと気付く。嗅いだ覚えの有る悪臭だ。つい最近、いや最近どころか、今日の昼間に⋯⋯⋯
「これ―――は―――」
レナがその悪臭で背中の物体の正体に気付いた。此れは彼女が今日の昼間に仕留めたゴブリンとオークの内臓だ。クートがデスファングボアを誘き出す為に森の中にばら撒いていたのは知っていた。しかし木の上にまで投げていたのは知らなかった。置いてかれて見てなかったから。
(その時から―――罠に掛けられていた―――嵌められていた―――)
木の上に投げた臓物に鋼糸を括り付けていたのだろう。そしてレナを其の場所まで誘い込んだ。
(しまった!)
其処まで思い至った時点でレナが悟る。もう彼女は詰んでいる。クートを見る。居ない、見えない。先程の場所にはもう居ない。
(やられた!クートは何処っ!?)
レナが悪臭と背中の臓物の存在を意識から切り離し慌ててクートを探す。クートにはまだ鋼糸以外にもたくさん武器が有るのだ。ウルミにチャクラム、そしてナイフ。他にも絶対に何か隠し玉が有る筈だ。いったいどれで追撃して来るのか解らない。レナの頭が恐怖で染まる。クートがこんなチャンスを逃す筈が無いからだ。
(いったい何処に?―――っ!?)
いや、居た。レナの槍の間合いの内側にすでに侵入されていた。槍ではもう迎撃不可能だ。
「やぁっ!」
レナは反射的に蹴りを放つ。両手は槍で塞がっている。ならば残された攻撃手段は足しかない。本職には勝てないが格闘技でも鑑定職に負けはしない。
「ぐあっ!?」
しかしその蹴り上げた足にまた痛みが走る。目を向けると蹴り上げた足が木の枝に固定されてしまっていた。鋼糸だ。クートは蹴りを避ける瞬間に鋼糸で絡め取って封じたのだ。クートにレナの蹴りを避ける反射神経は無い。槍の間合いの内側に踏み込めば、レナが蹴りを放って来ると予測していたのだ。
「くっそぉおおっ!」
その不安定な体勢から槍を突き出すレナ。穂先は当たらないが柄の部分でも十分に打撃になる。しかしクートはもうすでに槍の間合いから外れていた。
「ぬうううううっ!」
レナが槍を片手で構える。足を木に固定され不安定な体勢だ。それでも奥の手が有る。
「だらぁああああああああああああっ!」
レナは恐るべき事に、指の握力と手首のスナップだけで槍を投擲した。一般人や、其れこそクートでは不可能な技だ。最早クートの怪我の心配等していられない。鋭い槍の穂先がクートへ向かい飛来する。
「だろうね」
クートは淡々とチャクラムを構え、その円の中に槍の穂先を入れる。そしてそのままチャクラムごと槍を投げ捨てる。ガランガチャンと槍と円状の刃物が地面を転がる。
「くっ!」
主力兵装を失ったレナは腰に差していた仕込み短槍を抜く。冒険者に成り立ての頃、念の為に買っていたが一度も使った事が無い隠し武器。切り札と云うより予備の武器だが。
「しっ!」
軽く振るうとシャキンガチンと槍の柄が伸びる。強度も殺傷力も低いが無いよりはマシだ。レナは其れで足を固定したいる鋼糸を素早く切り自由を取り戻す。そしてクートを迎え撃つ。短槍であるが故に小回りも利く。
「ふっ!」
鋭い一撃をクートへ放つ。しかし躍る様な動きでクートが回避する。おかしい。何故こんなに動けるのか?
「教えてやる」
「あぐっ!?」
ダンスの様な軽やかな動きでクートが鉄の鞭⋯異形剣ウルミを振るう。レナの短槍はアッサリと弾き飛ばされた。衝撃に耐えられず仕込み短槍がへし折れてしまったのだ。何時もの愛槍ならばこんな事になってはいないのに。
「俺の武器は女だ。武器と云うか⋯戦う為の栄養素。正に食材だな⋯」
「女?どういう意味?」
レナは拳を握りクートに振りかぶる。槍を失っただけだ。戦意は未だ失っていない。
「俺は喰った女の体の味を覚えている」
場違いな事を宣うクートに向けて拳を放つがどれも外れる。ゆるゆると動くクートの気配が捉え難い。
「シャロンは踊り子なんだ。しなやかな筋肉と流れる様な踊りは素晴らしい」
「ぐっ!?」
喋るクートに隙を見つけ踏み込んだら鋼糸に足を引っ掛けた。クートの躍る様なステップは鋼糸を避けていたのだろう。
「ハーニャは体術スキルの斥候職。気配の消し方や体の動かし方は目を見張るものがある」
ピタリとクートがレナの体に密着した。レナの背中に自分の背中を合わせる背中合わせ。見た事も聞いた事も無い体勢にレナが戸惑う。レナの攻撃は当たらないがクートの攻撃も当たらないだろう。寝技や関節技にでも持ち込む気だろうか?
レナは愛槍も短槍も失ったが、クートもチャクラムやウルミを手放している。此の間合いでは鋼糸の罠も意味を成さないだろう。
「それ、赤の他人のスキルでしょ?」
「そうだが?」
レナがクートを組み伏せ様と力を込め―――――
「っ!?」
ゾクリとする恐怖に身を固める。今、無防備に見えるクートに襲い掛かれば負ける。最悪死ぬ。其れが本能で、魂で理解出来る。身体が微かに震え、脂汗が首筋を伝う。
「⋯⋯⋯解った。私の負け」
漸く敗北を認めたレナが殺意を霧散させる。宣言通り特に怪我も無く負かされた。完敗である。
「良かった」
クートもホッと息を吐く。師匠からお遊びで喰らった技を出さずに済んだ。あの時は本当に死に掛けた。目覚めたら師匠が膝枕してくれていたが。身体で覚えさせられたあの技は本当の本当の奥の手だ。其れを出す寸前までクートも追い込まれていた。やはりレナは強かった。
(アレを使わずに済んだ)
レナと背中合わせの姿勢を止めて二人向かい合う。
「じゃぁ、私の事も食べる?」
体は求められてはいるが、女として求められてるのか良く解らない。だが約束は約束だ。
「ああ、喰らわせろ。俺の為に」
「解った。良いよ。私の負けだしね」
そう言ってレナは自分より背も低く、体格も華奢な少年の唇に唇を合わせたのだった。
(*´ω`*)クートは相手を殺そうと思ったら毒殺や不意打ちも気にせず使います。ただ恨みを買う事も想定して正々堂々な戦いを嫌々したりします。
ちなみに最後にクートが出そうとしたのは皆大好き鉄山靠ですね。魔力操作で強化すると鉄をひしゃげさせ山を砕く凶悪な技です。生身で喰らえば木っ端微塵です。




