第1話
(*´ω`*)おぱようございみゃふ!
「食材⋯鑑定?」
「ええ、そうですね」
クートは愕然としたまま鑑定士に問い掛けるが、返って来るのは無慈悲な肯定のみ。
「そんな⋯馬鹿な⋯」
「んん、同じ鑑定系スキル持ちとしては親近感は湧きますが」
冒険者ギルド職員である鑑定士がフォローする。このくらいは職務の範囲内である。戦闘職を希望し鑑定依頼をして来る若人達。彼等全てが望みのスキルを得られる訳ではないのだ。
失意のままに冒険者ギルドを去り田舎へ帰る者はまだ良い。中には鑑定結果に納得せず、無謀にもダンジョンへ挑み若い命を散らす者も少なくない。
「食材鑑定は確かに私のスキル鑑定や武具鑑定、宝具鑑定等よりはニッチなスキルでしょう。ですが冒険者達が持ち帰る素材には可食部位の判別が難しい物や毒の有無等―――」
鑑定士の説明はクートの右耳から左耳へ抜けて行く。全く頭に入って来ない。彼はその後、どうやって帰ったか覚えていないが宿屋にはきちんと帰還していた。
戻って来たのは夕方だったが、クートは夜まで呆然としていた。もう宿屋一階の酒場も閉まっているだろう。
「俺が⋯食材、鑑定⋯」
確かに覚えが有る。罠で捕らえた獲物の捌き方が一番上手かった。食べれそうな野草を見つけるのも上手かった。食材に似た毒草や毒茸も何故か判別出来た。ついでに料理も上手かった。
それはきっと自分に冒険者としての才能が有るからだと思い込んだ。否、思い込もうとしていた。
「うう⋯」
鑑定士に他者のスキルをどうこう出来る力は無い。しかし、正式な鑑定士の出した鑑定結果と云う事実が脳に刻み込まれると、それまで曖昧だった現実が連結し、己の才能を自覚する。
彼は思い知る。自分が戦闘職ではない事に。
「俺はっ!冒険者にっ!なれないっ!のかっ!」
安宿は壁が薄い。枕に顔を埋めて嗚咽する。魔法を使った事が無かったので魔法職の才能が無い事は解っていた。ならばせめて⋯
「せめてっ、せめて剣とかっ、槍とかさぁ⋯」
田舎で田畑を荒らすモンスターを駆除した事は有る。木の棒にナイフを巻き付けただけの槍で頑張って倒した。素材の毛皮は高く売れた。肉は⋯モンスターの肉は適切な処理をしなければ食えた物ではないので見向きもされずに土に埋められていたが。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや、まだだ」
家族の反対を押し切って家出同然に飛び出して来た。このままでは故郷に帰れない。冒険者登録は済ませてある。流れとしては冒険者登録、冒険者ギルド所属の鑑定士に依るスキル鑑定、そしてスキルの登録からのクエスト受注である。先程はショックを受けてそのまま帰って来てしまった。
だがまだ終わってはいない。別に冒険者登録を抹消された訳ではないのだ。
「明日こそ、俺は冒険者デビューする」
クートは明日に備えて寝ようと心掛けたが興奮してしまって寝付けなかった。結局一睡もしないまま朝一で冒険者ギルドへと向かう事になる。
冒険者ギルドは緊急事態に備えて夜間も人が居るし稼働はしている。だがスキル登録やクエストの受注等、通常業務は日中しか受け付けていない。
「はい、クート様のスキルは『食材鑑定』で登録させて頂きました」
「有り難う、御座います⋯」
受付嬢がにこやかに応対してくれる。流石ギルドの顔。華やかだし新米のクートにもちゃんと接してくれる。
「⋯⋯⋯」
「どう致しました?」
「いえ⋯」
食材鑑定等と云う底辺の最弱スキル。腹の中では嘲笑われてるのではないかと被害妄想が膨らんでしまう。自分のそんな邪推を振り払う様に頭を振り、受付嬢に訊ねてみる。
「俺でも受けられるクエストは有りますか?」
「はい、御座いますよ」
にこやかに受付嬢がクエスト一覧を出してくれる。嗤われて門前払いされる覚悟をしていたクートは拍子抜けする。だが気を取り直してクエスト一覧を食い入る様に見定める。しかし―――
「⋯薬草採取、野草採取、毒草採取⋯」
正に初心者向け、新人向けのチュートリアルの様なクエストばかりである。
「あの、俺、ダンジョンとか、モンスター討伐とか、したいん、ですけど⋯」
バクバクと心臓が脈打つのを感じる。町に来た時の様な期待や希望で震えている訳ではない。拒絶と否定の予感で震えてしまう。
「申し訳御座いません」
「うっ」
受付嬢が申し訳無さそうに断って来た。解ってはいたがショックで胸に穴が空いた様な気分になる。
「俺のスキルが⋯戦闘向きじゃないから―――」
「ああ、いえ、違いますよ?クート様のランクでは危険なクエストを受けられませんので」
(そっちか)
受付嬢の答えにホッとする。そう云えばそう聞いた気もする。モンスター討伐やダンジョン探索等はFランクからだ。クートは昨日登録したばかりのGランクだ。
「解りました。受けさせて下さいっ!」
「はい、では薬草採取のクエスト、受注致しました」
クートは元気良く返事を返す。食材鑑定だから拒否された訳では無いならまだ希望は有る。
受付嬢の説明に依り薬草の量と質、クエストクリア条件を聞く。
「此処からだ。俺は此処からなんだ」
クートは革袋とナイフを持って森へ向かう。深く進まなければモンスターとエンカウントしない。
「スキル⋯スキルか⋯」
食材鑑定では薬草採取には向かないかも知れない。そもそもどんな効果が有るのかも解らない。
「⋯普通に見つからないな」
薬草は食材じゃないからか、なかなか見つからない。それと違って食べれそうな野草や茸は次々と見つけてしまう。
「違う。そうじゃない」
クートは首を振って雑念を散らす。そうしてなんとか薬草を見つける。
「此れか?此れだよな⋯」
見た事は有るし採取した事は有るが、冒険者として初仕事である為に慎重になってしまう。
「薬草、薬草⋯薬草⋯」
クートはブツブツと呟きながら薬草を見つけてはナイフで刈り取る。根っ子から引っこ抜くと次が生えて来ないと注意されていたので気を付ける。
「このぐらいかな⋯」
太陽も真上を過ぎた頃、革袋が薬草でパンパンになっていた。
「腹、減ったな」
流石に疲れた。そして眠い。
緊張と興奮、絶望と希望、様々な感情で感覚が麻痺していたが、昨日の昼過ぎから不眠不休で飲み食いすらせずに動き続けていたからだ。
「帰るか⋯」
此れが冒険者。此れが夢見た仕事。暖かい家族の手を振り切り飛び出した新天地。
「⋯いや、俺は成ってやる」
歴史に名を刻む英雄達にも下積みは有った筈だ。最初から強くて優秀な人間なんか居ない。
「冒険者に、成ってやる」
泥塗れの手で汗を拭っていた為にクートの顔も酷い事になっていた。しかしその双眸はギラギラと輝き、夢と野心に満ち溢れていた。
「ぬっ!?」
ぐぅぅぅっ⋯と腹が鳴る。流石に限界である。こんな所で空腹で倒れたら、モンスターではなく野犬や猪に喰われてしまうだろう。それは余りに惨めな最後だ。
「俺はクート、冒険者だっ!」
近くに誰も居ない孤独な薬草採取クエスト。聴く者も居ない一人舞台で、今若き冒険者が産声を上げる。
名をクート。固有スキルは『食材鑑定』―――
(*´ω`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




