表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドライバーズ・ハイ  作者: げっとは飛躍のせつなさ
1章 部内リーグ戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/32

1-17 我ら姦女《やかま》し卓球狂楽部《ピンポン・ホリック》

 東朝陽スポーツセンター。

 それは東朝陽市の西側に広がる緑地公園の真ん中にあり、体育館、いくつかのサブアリーナや武道場、野球場、サッカー場、テニスコートなどなどからなる。

 施設の数だけでいえば本格的と言え、大抵のスポーツの市民大会や地区大会くらいなら開けそうだ。

 しかし内装は、いやいや、外装に至っても打ちっぱなしのコンクリートに、烈火らの親世代が、子供の頃か使われているであろうデザインの文字が、そこかしこで見受けられる。

 (おもんぱか)りなく一言で言ってしまうなら、古臭い。


 真琴の調べるところによると、卓球台は第二アリーナで解放されているらしい。

 遠目に見る限りではメインアリーナよりもふたまわりほど小さく、剣道とか、空手のようなスポーツを行う武道場のような印象を受けた。


 四人はだんごになって歩く。

 葵と真琴は、意気揚々と先頭を。

 二人の間で会話が弾んでいるらしく、時折、葵の高く響く声が聞こえたり、上体を折りながら大笑いしているのが見えたりした。

 

 七海はされるがままに引きずられている。

 抵抗することを既に諦めており、双眸からは光が失われ、唇だけが、忙しなく動いている。

 耳を近づければ、それが譫言(うわごと)なのか呪詛(じゅそ)なのか、聞き分けることも出来ただろう。

 しかし悲しいかな、誰一人として、それに関心を向けるものは居ない。

 

 烈火は追いかけるように最後尾に着いている。

 明るく笑う葵と真琴と、暗く沈んだ七海との温度差を、まざまざ見せつけられている。

 

 七海を引きずってくんは、五十歩譲っていいとして、そんなんするんやったら、ちょっとくらい、七海のこと構ったれよ。

 どなどな引きずられていく、七海がただただ気の毒で——それでも譲られたのは五十歩程度で、百歩も譲る気にはなれなかったらしい——、烈火は独り言ちた。

 そしてまた、ため息がひとつ漏れた。

 

 第二アリーナに着くと、既に何人かが既に卓球に打ち込んでいた。

 真琴はちらりと横目をやる。

 その先に、露骨な程に顔を背ける、小さな人影を認めた。

 すぐさま葵の方に向き直って、「先客さんおるみたいやし、挨拶しにいきましょ」と提案した。

 オッケー、と葵は軽く答えて、端っこの方にいる、男性の方へと歩み寄った。


 真琴は内心拍子抜けしていた。

 というのも、渋られた時にどう言い訳をするか、数パターン用意していたのだ。

 コミュニティのリーダーと思われる人物に挨拶をすることは、その内に居る優奈に接近するためには、必要なことだった。

 ゆえにこれを渋られるのは、真琴にとって不都合だ。

 一方、自分たち四人で卓球をするだけなら、そんなことをする必要はおよそないだろう。

 不審がられるだろうな、と真琴は読んだために、対策を立てていたつもりだったのだが、葵の素直さは、その予想を簡単に覆してしまった。

 葵先輩大丈夫やろか、悪い大人に騙されたりせんやろかと、密かに心配してしまったくらいだ。


「こんにちは。すみません、どの辺の台使っていいです?」


 中年の男性達のラリーが途切れるのを待ってから、葵は大きく元気な声で挨拶をした。

 男性達が「元気な子やな」と朗らかに笑うのに合わせて、「元気さだけがとりえなんで!」と葵も笑い返した。


「この辺の子?」


「はい!朝陽東でJKやってます!」


「どおりで、元気ええわけやわ」


 などと、しばらく話が続いたのち、「あっちの方空いてんで」と、男性達は反対側の方に指を指した。葵は礼を行ってから、思いついたように振り返った。


「そうだ。せっかくなんで、おっちゃんらの卓球に混ぜてもらってもいいですか?おっちゃんらの卓球、パワフルで楽しそうですもん」


 尋ねた葵の目は、きらきらと輝いている。

 それはまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のようだった。


「ええけど、俺ら強いで。現役の頃なん、県大会で活躍いしとったくらいやしな」


 かっかと笑う男性達に、葵はにやにや笑みを浮かべながらながら答えた。


「そりゃ見てたら分かりますよ。けど任せてください、あたしも強いんで!」


 不気味さをすら感じるほどに、その口角はにやにや上を向いていて。

 獲物を見つけた時の、獰猛な獣を想起させた。

 

「それじゃ、よろしくお願いします!」


 葵の声に、烈火、真琴、七海の三人が続いた。

 そして荷物をフェンスの近くに固めると、葵と烈火が着ていたジャージを脱ぎ捨てた。

 

 葵が男性達のいる台の方に寄っていく一方、真琴と七海は、その反対側の方へと向かっていくようである。

 もっとも七海は、借りてきた猫のように、襟首を真琴に引っ掴まれ、すっかり縮こまっていて。

 ずるずるずるずる引き摺られているところを鑑みるに、七海自身の意思はそこにないようであったが。


 そんな二人を追いかけようとして、烈火は不意に襟首を捕まえられ、ぐいと引き戻しされた。

 襟が首に突っかかって、ぐえとあられもない声が漏れ出た。


「烈火はこっち。なんのために、あたしがあのおっちゃん達との練習を取り付けたんだか」


「ええ、私もですか?」


「なに、ビビってんの?」


 烈火の疑問には、葵は嘲笑で答えてみせた。

 烈火は思わず髪を逆立てる。

 胸元から首筋にかけて、熱い炎がかけ昇って、その熱が、烈火の頬を、頭を赤くさせた。


「むっかぁ!そんなわけないでしょう!葵先輩だって、強がってるだけじゃないんでしょうね!」


 がいがいと牙を剥き、鳴らしながら叫んだ。

 ふた周りほど背丈の高い葵に対して、つま先立ちになってその顔に近づき、がちがち鳴らす牙の音と、限界まで逆立てた髪と目とで威嚇する。

 しかし葵は笑いながら、烈火の肩をばしばし叩くくらいだった。


 そうして、二人は先輩たちの胸を借りることになった。

 男性たちは二人の、男子顔負けな威力のドライブに度肝を抜かれることになるが、それはまた、別の話。


烈火「時に、まこちゃんたちは?」

葵「あ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ