1-17 我ら姦女《やかま》し卓球狂楽部《ピンポン・ホリック》
東朝陽スポーツセンター。
それは東朝陽市の西側に広がる緑地公園の真ん中にあり、体育館、いくつかのサブアリーナや武道場、野球場、サッカー場、テニスコートなどなどからなる。
施設の数だけでいえば本格的と言え、大抵のスポーツの市民大会や地区大会くらいなら開けそうだ。
しかし内装は、いやいや、外装に至っても打ちっぱなしのコンクリートに、烈火らの親世代が、子供の頃か使われているであろうデザインの文字が、そこかしこで見受けられる。
慮りなく一言で言ってしまうなら、古臭い。
真琴の調べるところによると、卓球台は第二アリーナで解放されているらしい。
遠目に見る限りではメインアリーナよりもふたまわりほど小さく、剣道とか、空手のようなスポーツを行う武道場のような印象を受けた。
四人はだんごになって歩く。
葵と真琴は、意気揚々と先頭を。
二人の間で会話が弾んでいるらしく、時折、葵の高く響く声が聞こえたり、上体を折りながら大笑いしているのが見えたりした。
七海はされるがままに引きずられている。
抵抗することを既に諦めており、双眸からは光が失われ、唇だけが、忙しなく動いている。
耳を近づければ、それが譫言なのか呪詛なのか、聞き分けることも出来ただろう。
しかし悲しいかな、誰一人として、それに関心を向けるものは居ない。
烈火は追いかけるように最後尾に着いている。
明るく笑う葵と真琴と、暗く沈んだ七海との温度差を、まざまざ見せつけられている。
七海を引きずってくんは、五十歩譲っていいとして、そんなんするんやったら、ちょっとくらい、七海のこと構ったれよ。
どなどな引きずられていく、七海がただただ気の毒で——それでも譲られたのは五十歩程度で、百歩も譲る気にはなれなかったらしい——、烈火は独り言ちた。
そしてまた、ため息がひとつ漏れた。
第二アリーナに着くと、既に何人かが既に卓球に打ち込んでいた。
真琴はちらりと横目をやる。
その先に、露骨な程に顔を背ける、小さな人影を認めた。
すぐさま葵の方に向き直って、「先客さんおるみたいやし、挨拶しにいきましょ」と提案した。
オッケー、と葵は軽く答えて、端っこの方にいる、男性の方へと歩み寄った。
真琴は内心拍子抜けしていた。
というのも、渋られた時にどう言い訳をするか、数パターン用意していたのだ。
コミュニティのリーダーと思われる人物に挨拶をすることは、その内に居る優奈に接近するためには、必要なことだった。
ゆえにこれを渋られるのは、真琴にとって不都合だ。
一方、自分たち四人で卓球をするだけなら、そんなことをする必要はおよそないだろう。
不審がられるだろうな、と真琴は読んだために、対策を立てていたつもりだったのだが、葵の素直さは、その予想を簡単に覆してしまった。
葵先輩大丈夫やろか、悪い大人に騙されたりせんやろかと、密かに心配してしまったくらいだ。
「こんにちは。すみません、どの辺の台使っていいです?」
中年の男性達のラリーが途切れるのを待ってから、葵は大きく元気な声で挨拶をした。
男性達が「元気な子やな」と朗らかに笑うのに合わせて、「元気さだけがとりえなんで!」と葵も笑い返した。
「この辺の子?」
「はい!朝陽東でJKやってます!」
「どおりで、元気ええわけやわ」
などと、しばらく話が続いたのち、「あっちの方空いてんで」と、男性達は反対側の方に指を指した。葵は礼を行ってから、思いついたように振り返った。
「そうだ。せっかくなんで、おっちゃんらの卓球に混ぜてもらってもいいですか?おっちゃんらの卓球、パワフルで楽しそうですもん」
尋ねた葵の目は、きらきらと輝いている。
それはまるで、新しいおもちゃを与えられた子供のようだった。
「ええけど、俺ら強いで。現役の頃なん、県大会で活躍いしとったくらいやしな」
かっかと笑う男性達に、葵はにやにや笑みを浮かべながらながら答えた。
「そりゃ見てたら分かりますよ。けど任せてください、あたしも強いんで!」
不気味さをすら感じるほどに、その口角はにやにや上を向いていて。
獲物を見つけた時の、獰猛な獣を想起させた。
「それじゃ、よろしくお願いします!」
葵の声に、烈火、真琴、七海の三人が続いた。
そして荷物をフェンスの近くに固めると、葵と烈火が着ていたジャージを脱ぎ捨てた。
葵が男性達のいる台の方に寄っていく一方、真琴と七海は、その反対側の方へと向かっていくようである。
もっとも七海は、借りてきた猫のように、襟首を真琴に引っ掴まれ、すっかり縮こまっていて。
ずるずるずるずる引き摺られているところを鑑みるに、七海自身の意思はそこにないようであったが。
そんな二人を追いかけようとして、烈火は不意に襟首を捕まえられ、ぐいと引き戻しされた。
襟が首に突っかかって、ぐえとあられもない声が漏れ出た。
「烈火はこっち。なんのために、あたしがあのおっちゃん達との練習を取り付けたんだか」
「ええ、私もですか?」
「なに、ビビってんの?」
烈火の疑問には、葵は嘲笑で答えてみせた。
烈火は思わず髪を逆立てる。
胸元から首筋にかけて、熱い炎がかけ昇って、その熱が、烈火の頬を、頭を赤くさせた。
「むっかぁ!そんなわけないでしょう!葵先輩だって、強がってるだけじゃないんでしょうね!」
がいがいと牙を剥き、鳴らしながら叫んだ。
ふた周りほど背丈の高い葵に対して、つま先立ちになってその顔に近づき、がちがち鳴らす牙の音と、限界まで逆立てた髪と目とで威嚇する。
しかし葵は笑いながら、烈火の肩をばしばし叩くくらいだった。
そうして、二人は先輩たちの胸を借りることになった。
男性たちは二人の、男子顔負けな威力のドライブに度肝を抜かれることになるが、それはまた、別の話。
烈火「時に、まこちゃんたちは?」
葵「あ」




