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ドライバーズ・ハイ  作者: げっとは飛躍のせつなさ
1章 部内リーグ戦

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1-12 二番台三回戦 優奈 vs 真琴(一)

烈火「次は…まこちゃんと優奈先輩か」

葵「どう喩えたらいいんだろね、この試合。あたしと烈火のは、『大怪獣バトル!』で良かったと思うんだけど」

烈火「本気で言ってます?それ!」


 二番台には優奈と真琴が立っていた。試合前のラリーをこなしながら、優奈は思い出していた。初めて体験入部に来てくれた時も、真琴とラリーしたなということを。


 真琴は度を越したのんびり屋さんで、喋り方も、一挙一動もどこかふわふわしていて。アニメとかでしかこんなゆるふわ生物は見やんものやと、優奈は思っていた。それくらいには、優奈にとって、真琴は不思議生物であった。


 しかしいざラケットを握ると、それまでのゆるふわ挙動はどこへやら。表情こそ変化はないものの、乱れのないフォームできりりとラケットを振るう。まるで別の生き物だ。その不思議さに不思議さを掛け合わせたような印象は、初めて五セットマッチの真剣勝負を挑む今になっても、全く変わっていない。


 しばらくのラリーの後、真琴が左手でぱしりと、ピン球を掴んだ。かんかん、こんこんとピン球がラケットや台を叩く音が消えて、なんだか緊張の糸が張られた気がした。


 真琴が拳を軽く上げて、じゃんけん、と唱えた。声はいつもの間延びしたゆるふわ声のままだったが、優奈の緊張感に揺らぎはなかった。


 じゃんけんの結果、真琴が先攻を取った。


 優奈は、真琴を相手にするための戦術を脳裏に張り巡らせた。

 対カットマン用の戦術。

 ひとつの定石としては、ドライブとストップを折り混ぜて、相手を前後に動かすことだ。

 

 幸い、優奈はフォアハンドに貼った表ソフトラバーが回転の影響を受けにくいお陰で、回転のかかったカットに対して、ドライブで持ち上げるのはそこまで苦心しない。

 加えて、優奈は台上技術の名手だ。

 ストップには、特に自信がある。


 大丈夫、問題ない。

 いつもの通りにやればいい。


 優奈は大きく息を吐いて、小さな上体を前に倒し、レシーブの構えを取った。


 0-0(ラブ・オール)、真琴のサービスから。

 両腕を交差させながら正面に構え、真横に向かって振り抜いた。


 カットマンらしい、バックハンドサービスだ。

 真琴の狙いは、バックハンド同士でのツッツキ合いだろうか。

 様子見程度に、バック側へストップを仕掛ける。


 それを見るやいなや、真琴は手首を捻ってテークバックを取って、バックハンドで押し出すように払い除けた。

 予想外の攻撃に怯むが、正確なブロックで凌ぐ。

 真琴は台側面に回り込み、ボールをフォアハンド側に捉えた。勢いのままにもう一本、フォアハンドスマッシュをお見舞いしてきた。


 優奈もフォアへと手を伸ばすが、その手は届かない。


 優奈は思わず天を見上げた。


 相手はカットマンだ。

 少なくとも、普段の練習では。

 しかし、対面にいるカットマンは、真琴なのだと。


 果たして彼女が普段のゲーム練習の時から、カットを使ってきた事があっただろうか?

 普段のゲーム練習に、思案を巡らせた。いいや、否だ。優奈は首を振った。


 ループドライブとカウンターを多用する真琴の攻撃的なプレースタイルは、普段のゲーム練習でも何度か見てきたいたつもりだった。

 しかし、そのつもりになっていただけで、体が、戦術が、その理解に追いついていない。


 相手はカットマンラケットを使っているだけの、ただの攻撃型だ。

 カットマンというよりは、どちらかというと、葵と戦う時のようにすればいいと、優奈は思い直した。

 

 1-0(ワン・ラブ)。真琴のサービス、二本目。

 二本目も同じく、バックハンドサービス。

 相手が攻撃型なんなら、いつもの通りに速攻を仕掛けにいくだけ。

 優奈は肘を上げ、手首を内側に巻き込みながらテークバックを取り、それをバネをはね上げるように戻しながらラケット振り上げる、チキータで応戦した。


 真琴はバックハンドでカウンターを振りつつ後ろに下がる。

 しめた、と思った。ブロックで前に動かさせて、真琴を前に揺さぶるチャンスだ。そう思って、向かい来るボールを見た。

 球威が強い。

 ボールの勢いを殺して、真琴を前に動かさせるような事は出来なさそうだ。

 

 優奈は必死に肘を、前腕を押し出して、真琴のボールを弾き返した。


 その瞬間には真琴は既にボールをフォアハンドに捉えるように回り込んでいて、カウンタードライブを振り抜いた。

 

 優奈も負けじと弾き返し続けるが、前陣に張り付いた優奈の、ピッチの早いボールを、真琴は台から大きく下がった位置からのんのんと、それを上回るパワーでカウンターを合わせてくる。


 数本打ち合った末、真琴のドライブが大きく跳ね上がってはうねるように沈み込み、そしてネットに激突した。

 ボールはしばらくネットに食い込みながら、なお前進しようと回転していたが、その勢いも間もなくとまり、ぽとりと台ヘと落ちていった。


 やりづれえ。

 優奈は思わず毒づいた。

 

 真琴が積極的に振ってくるのは、後陣からのカットではなく、カウンタードライブだ。

 チキータやフリックで先手を取って、速攻を以て相手の反応を振り切りたい優奈にとって、それをカットで凌がれるよりも、後陣からカウンターで主導権を握り返そうとしてくるほうが、圧倒的に苦手だ。

 

 優奈は身体が小さい分、打球の威力が出にくい。

 その事は、中学時代に思い知った。

 みんなの放つドライブは、優奈の放つドライブよりも、ずっと威力があった。

 ずっとずっと、その勢いに気圧され続けた。

 そしていつしか、力では勝てないと悟った。

 だから優奈は、戦術と用具を、色々と試した。

 

 ラバーで言うなら、粒高、アンチスピン、変化形表、スピン系表……。

 とにかく力のぶつかり合いでは勝てないから、王道からは逃げ続けた。

 迷い迷ってたどり着いた先が、フォアハンドにスピード系表ソフトラバー、裏にスピードテンション系裏ソフトラバーの組み合わせだったのだ。

 スポンジ厚も薄めのものを選んで、ボールの威力よりも球離れの速さを求めた。

 そして相手の反応よりも早いピッチで攻撃を仕掛け続けて、相手の反応を振り切っていく。

 それが、優奈のプレースタイルになった。


 ところが、真琴に対しては、これの手応えがいまいち感じられない。

 真琴は中陣から後陣、つまり、台から大きく離れて、後ろからドライブを振ってくる攻撃型だ。

 台から離れると、必然、ボールが到達するまでの時間が長くなる。

 ピン球は極端なほど軽く失速しやすいから、尚のことその時間は長くなる。

 その分反応が遅れてしまっても、間に合わせられる余地は十分にある。

 

 つまり真琴は、優奈の早い卓球を、のんびり構えながら対処出来てしまう。

 それは、優奈のプレースタイルが、通用しづらいことを意味していた。


 とはいえ、やってきたばかりのこの後輩相手に、易々とレギュラーの座を譲ってやる気もない。

 葵には全く敵わないが、この一年、彼女の相手を強制されてきたことで、自分自身も確実に鍛えられてきた。

 一年生の頃には、県大会に出られるかどうかぐらいだった実力も、今では県大会でそこそこ勝てるくらいになった。


 負けてたまるか。

 二番の座は譲ってやらないんだから。

 優奈は息巻いて、ラケットをくるりと反転させた。ピンク色の裏ソフトラバーが、のっぺりとした輝きをその表面に湛えながら、優奈のフォア面に躍り出た。


 1-1(ワン・オール)。優奈のサービス、一本目。

 真琴は底が知れないプレーヤーだ。

 今年入ってきた後輩達は、全体に、自分の得意なプレーを通してくる印象を受ける。強烈すぎるフォアドライブを振るう烈火然り、粒と裏を器用に使い分け、変幻自在なゆさぶりを掛けてくる七海然り。

 しかし真琴は、とにかく色々な手を試してくる印象のほうが強い。これは通用する、でもこれは通用しない。じゃあこっちならどうだと、こちらの反応を探っているようだ。


 得意なプレーがあるなら、それを警戒出来ようものだが、真琴にはそれが感じられない。

 普段の彼女の、のんびりとした態度と同じように、尖った部分があまりないのだ。


 じゃあ、何をすればいいのだろう?

 考えても答えは出そうにないし、そもそも、考える時間もほとんどない。

 結局優奈は、思考が戦術に追いつく前に、ボールを中空へ投げ上げた。

 ふわりと浮かんで、僅かに滞空し、まもなく落ちてきたボールの、真下のほうを鋭く切りつけた。


 ネット際に落ちる、下回転のサービス。

 王道を地で行くようなサービスだが、背丈の低い優奈はネット際に手が届かず、何度も何度も辛酸をなめさせられたサービスでもある。

 あまりに腹が立ったので、これを確実に出せるようになるまで猛練習を重ね、ぎゃふんと言わせようとしたこともあった。

 大抵の子は優奈よりも一回りほど背が高かったために手が届くので、そこまで大きな成果は上げられなかったが。

 しかし、その時の猛練習のおかげで、低く短く、確実に出せるようになったこのサービスは、相手の攻める手をためらわせる。

 前陣速攻を身上とする優奈を支える、堅実で確実な第一歩になっていた。


 真琴は台上のボールに触るには、少しばかり大きめなテークバックを取ってみせた。

 そしてがつっとラケットを落とすように、鋭くツッツキした。

 ボールは鋭く素早く、刺さるように台に落ちたかと思うと、跳ね上がっては急激に減速し、優奈のフォア側を漂った。

 きっととてつもない回転が掛かっていて、持ち上げてネットを越させるだけでも大変だろう。


 しかし優奈は怯まない。

 既にラケットを反転させており、真っ黒で()()()()した表ソフトラバーが、フォア側に控えている。


 このボールで攻めずに流せば、真琴は間違いなく四球目攻撃を狙ってくる。

 先手を打たれるその前に、こちらから攻め込みたい。

 

 カットマンがなんだツッツキがなんだ。

 どれだけ回転が掛かっていようと、これが打てないで、なんのための表ラバーだ、なんのための八の字打法だ。

 優奈はくるりと後ろ手に輪を描きながらテークバックを取る。

 次の瞬間には、激流を登る龍のように、猛々しくフォアハンドを振り抜いた。


 ラケットで後ろ手に輪を描き、鋭く振り上げてから、前へ被せるようにまた輪を描く。

 独特の軌跡を描く八の字打法は、どれだけ重たい下回転が掛かっていても、強打することを容易にする。

 会心の快音と共に放たれたボールは、まるで矢のように真琴のバック側を貫いて、真琴の反応を容易く振り切った。

 



 

 

七海「まだ三点分しか話進んでへんで。筆者、気合い入り過ぎちゃうか?」

真琴「だって筆者、優奈先輩みたいな人、好きそうやしぃ」

優奈「きもっ」

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