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ドライバーズ・ハイ  作者: げっとは飛躍のせつなさ
1章 部内リーグ戦

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1-11 四番台二回戦 葵 vs 烈火(二)

 第二セット、烈火のサービスから。


 葵は烈火のサービスを思い描く。

 烈火のサービスは、大別すると二種類に分けられると、葵は分析していた。

 

 一つは、バック側への、短めの下回転系。

 フットワークに絶対の自信を持つ一方、サービスに粗のある烈火が、最も用いるサービスだ。

 適当に出しても攻めこまれにくく、攻撃の起点にしやすいところが、烈火には一番しっくりきているのだろう。

 それに、適当に二球目攻撃を仕掛けてところで、負けじとカウンターを振れる力がある烈火を相手取ると、返り討ちに遭うリスクもある。

 そうならないように、二球目から注意を払わないといけない。


 もう一つは、こちらのバック側に向かって逃げるように曲がってくる、順横回転系のサービス。

 上下の回転を混ぜて揺さぶりをかけようとしてくるが、傾向としては上回転がやや多い。

 葵としては、こちらはあまり脅威に感じていなかった。

 上回転が来たなら、バック側に弾き返してやればいいし、バックハンドの打ち合いなら、絶対に勝てる自信がある。


 豊富な種類のサービスを持つ優奈や七海と比べれば、考える事は少ない。

 しかし甘いレシーブをしようものなら、抜群の威力のフォアドライブを振りかざし押し付けてくるので、二人に比べてプレッシャーが強い。

 だから葵は、少し時間を使って、ゆったり台に入った。

 そして六球目までの展開をしっかりと頭に叩き込みながら、上体を落とし、烈火のサービスを待った。


 0-0(ラブ・オール)

 烈火のサービス、一本目。

 烈火は台に対して正対するように構え、投げあげたボールを、バックハンドでなぞるように切りつけた。


 フォア側に向かって逃げるように曲がっていく、バックハンドサービス。


 少々アテは外れたが、反応出来ないほどではない。

 それに台から大きくはみ出てきたので、葵にとってはチャンスボールであった。

 

 後ろに大きくテークバックを取り、パワードライブで思いっきり叩いてやった。

 鋭い打球は烈火の反応を追い抜いて、触れられることもなく烈火の後ろへと抜けていく。


 0-1(ラブ・ワン)

 烈火のサービス、二本目。

 今度は素直な、バック前への下回転。


 普段の烈火はショートサービスを使いたがらないのだが、それでもショートサービスを選択してきた。

 よほど、攻め込まれたくないと判断してのことだろう。


 だが、葵は二週間足らずと言う僅かな練習期間の間に、見抜いていた。

 烈火はショートサービスを出す時、ほとんど回転をかけられないことを。

 回転がかかっていないと分かるなら、いくら短いサービスだろうと、葵にとってはチャンスボールだ。

 

 葵は、しめしめ、と言わんばかりに口角を上げながら、手首を腕ごと内側に巻き込む。

 そして巻き込んだ手首を、ばねの戻るような勢いで前に振りかざして、チキータをお見舞いしてやった。


 烈火も苦し紛れのブロックで凌ぐが、ボールの軌道は高く、これもチャンスボールだ。

 ボールをフォアハンド側に収めて、大柄な彼女とは対照的な、小さく折りたたまれるような、コンパクトなスマッシュをお見舞いした。


 二点をあっさり奪った葵は、それ以降もペースを握り続けた。

 丁寧なレシーブ、チャンスを見逃さない選球眼、攻め込まれてもブロックやフィッシングで凌ぐ冷静さ、隙あらばカウンターを仕掛けられる度胸の強さ。

 それら一つ一つを丁寧に引き出して、抜け目なく烈火を追い詰めていく。


 不意の一発で撃ち抜かれることはあっても、すぐさま立て直し、次の一本は取らせない。

 抜群の安定感を持った葵の牙城は、崩れるところを知らなかった。


 9-5(ナイン・ファイブ)

 葵はフォア側に体を寄せてから、ボールを二、三度ほど台に弾ませてから手のひらに乗せる。

 右手に持ったラケットを、内側に大きく巻き込みながらサービスを構えた。


 YGヤングジェネレーション・サービス

 下回転、無回転(ナックル)、スピードサービスの三つしか使わない葵の、とっておきの一つだ。

 本当はもっと色々な種類のサービスを出せるのだが、葵のサービスは、一流のそれだった。練習で披露したところで、マトモなレシーブが帰ってきた試しがない。

 そのせいで葵は、自分のサービスに対するレシーブに、どの程度の回転がかかっているかをほとんど知らない。本気で出した自分のサービスに、対応する術を知らないのだ。だからここ一番で、サービスエースを狙う時しか使わないと決めていた。


 烈火は、面白いようにぽとりとボールを落とした。二本目も同じく、YGを出した。ただし、今度は上回転を、ラケットを真下に向かって振り下ろすようにして、カモフラージュしながら。


 烈火のレシーブは、今度は真上へ上がった。中空を漂うボールを体の真正面に捉えながら、烈火のバック側に狙いを定める。そしてラケットを横に滑らせながらバックハンドスマッシュを振り抜き、烈火に触れさせることもなくフォア側を打ち抜いた。


 5-11(ゲームセット)。こうなることが必然であるかのように、危なげなく第二セット目をも奪い取った。


 第三セット、葵のサービスから。

 奇しくも、四本連続で葵のサービスからの展開だ。


 とはいえ、セットの一本目。無難に短いサービスからの三球目攻撃の展開を作りたいところ。であれば、自ずと使うサービスは決まってくる。下回転系の、台からはみ出ないほどの短いサービスだ。


 葵はボールを垂直に投げあげ、ボールを水平に叩きつけるように打ち出した。

 バック側長め(ロング)を貫くスピードサービス。前のめりに構えていた烈火の、懐深くに飛び込んだ。


 烈火がなんとかバックハンドを間に合わせたものの、手元に向かって伸びてくるほどに回転のかかったサービスは重く、ラケットに当たると共に上へ飛び上がっていく。

 中空に浮いたチャンスボール。それを注視して、次に烈火の位置を見る。烈火は台から離れていて、ややフォア側に構えている。なら、バック側を狙ってやるより他はない。葵は、バック側へ向けてスマッシュを振り抜いた。ボールの行く先を見やると、そこには既に、フォアハンドを構えた烈火がいた。とんでもない速さのフットワークだ。


 金属音と共に、ボールが大きく跳ね上がった。その弧線は唸りをあげて、台に向かって急降下してくる。中陣からの痛烈なカウンターだ。葵も負けじと、フォアハンドを振って応戦する。力と力がまたぶつかりあう。ラケットがボールを捉えるたびに、二.七グラムほどしかないボールが、その何倍にも重たく感じられる。

 

 全力でドライブをかけても撃ち抜けない、一方で、全力のドライブをかけてきても撃ち抜かさせない。両者を飛び交う強烈すぎるボールが、お互いにドライブ以外の選択肢を取らせない。打ち込んで打ち込んで、打ち勝つより他はない。葵の口角が、()()と持ち上げられた。

 

 何本も打ち合って、今度は烈火が競り勝った。葵は後ろに飛んで行ったボールを拾って、またサービスを構える。

 にやけ顔が戻らない。真剣勝負の最中ながら、こういう、力と力がぶつかり合うようなラリーが面白くって仕方がない。何本だって打ち合っていたい。やがてこの腕力バカ(フィジカルモンスター)の猛攻に打ち勝てるようになれば、もう一段上のステージを目指せる。そんな確信を得ながら、葵はまた引き合いのラリーに挑んだ。

 

 試合は、8-8(エイト・オール)にまでもつれ込んだ。葵は、少し余裕を見せすぎたかもしれないと思った。フォアドライブが打てるような展開になれば、烈火は滅法強かった。


 烈火の苦し紛れな攻撃に、葵が後ろからカウンターを振り抜く。烈火はそれに、ほとんどもれなく追いついて、カウンターを間に合わせてくる。後手に回っても後ろから猛反撃を試みてくる烈火の凄まじさたるや、葵が反応出来ないこともしばしばあるほどだった。


 この烈火という後輩は、荒削りな部分こそ多いものの、ガッツは本物だ。フォアハンドさえ通せれば勝てる、そのために全てを賭ける覚悟も本物だ。だから烈火は、意地でもフォアハンドを間に合わせてくる。どんなに苦しくても、どんなに左右に揺さぶられても、フォアハンドを間に合わせて、渾身の一撃を虎視眈々と狙っている。

 

 その姿は、中学時代の自分にそっくりだった。自分のフォアハンドこそが最強で、それを振りかざしていれば必ず勝てると、信じていた頃の葵に。けれどその幻想は、何度も挑んだ全国大会で打ち破られた。自分より強いドライブを打ってくる相手はそういない。それでも勝てない現実が、全国の舞台にはあった。

 

 だからこそ葵は負けられない。自分よりも強いフォアハンドを振りかざしてくるこの後輩に、現実を突きつけるためにも。サービスの直前、葵は声を張り上げた。烈火の牙を、自分の喉元に迫らせないように。己を保っていれば負けることはない、そう自分自身に言い聞かせるように。まもなく、ピン球は水平に広がった手のひらを離れて、中空へと浮き上がった。落ちてくるボールの下側を鋭く切りつけるように、ラケットを振り子にするように、外に向けて振るう。


 フォア側短めのYGヤング・ジェネレーション・サービス。烈火の体から遠い位置へと、外へ外へと逃げていく。烈火はバウンドするだろう位置に、ラケットを置いた。次の瞬間、烈火の眼光が鋭くなったのを感じた。ぱちんと軽く、けれど激しい音がラケットから放たれた。


 フリックだ。この二本を取られれば、相手はマッチポイントになる。だから、一本でもいいから早めに取って安心したい。そんなプレッシャーのかかる場面で、烈火はリスクを取って二球目攻撃を仕掛けてきた。大事な局面のために、しっかり回転を掛けたつもりであったが、烈火のフォアフリックは、確かにネットを超えて、葵のフォア側へと迫ってくる。葵はもはや、にやにやするのを止められなかった。


 良いボールだね、烈火。でもそんなコースじゃ、あたしの思うツボだよ。


 葵は、十分にラケットを後ろに引いてテークバックを取り、渾身のカウンターを浴びせた。葵はフォア前にYGを出すことで、フォア側にレシーブしやすいように仕向けていた。来るコースが分かっているなら、いくら強打だろうと、それにカウンターを合わせることは、葵にとっては造作もない。


 烈火もやや気圧されながら、必死にフォアハンドで食いついてくが、葵が放つ両ハンドの連打は、やがて鬼気迫る勢いで烈火のフォア側を撃ち抜いた。9-8(ナイン・エイト)。もう一本取れば、マッチポイントだ。


 葵のサービス、二本目。YGは効いていそうな手応えを感じるが、またやぶれかぶれにフリックを仕掛けられるのは少々都合が悪い。ならば、バックハンドへ誘導しようか。


 上回転系のYGを、烈火のバック側へと放った。烈火は一瞬フォアハンドを構えたが、すぐさまバックハンドに切り替えて、そして手首をくるんと上へ返すように回してレシーブをした。ボールは真上へ飛び上がったあと、ネットを超える前に台に落ちた。


 8-10(マッチポイント)、烈火のサービス。台を正面に捉えて放つしゃがみこみサービス。それが台のサイドに直撃すると、ボールは烈火の真後ろに飛んで行った。


 8-11(ゲームセット)。どれだけ白熱した試合でも、終わる時は、本当に呆気なく終わるものだ。葵は思わず前にずっこけてから、台をすり抜け、烈火と握手を交わした。そして背中をバシバシ叩いて、烈火の健闘を称えた。


 

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