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三度の飯よりアレが好き

 遠くで教会の鐘が鳴っています。何かお祝い事でもあったのでしょうか。


 とある物を手に窓辺に佇んでいると、ふと影が差しました。

『ケエェェーーッ』という鳴き声と共にバッサバッサと羽音がして、また明るくなったのですが、なんだったのでしょうね。


 まあ、今、私の最大の関心事はそれではありません。


「ふふふふふ。とうとう手に入れてしまいました」


 注文してから三ヶ月。どれだけこの日を待ちわびていた事か。

「まあ!ついに!! アズキお嬢様、私達にも試させて頂けるのでしょうか!!」

 メイド達の目も輝いています。

「ほほほほほ、勿論よ。先ずは私が試しますから、お待ちになってくださいな」


 私が手にしているのは、細長い棒の先端がまあるく膨らんだ――


 そう、化粧筆!!


 初めてお化粧した時。大人の仲間入りを果たした実感と共に至福の時間を与えてくれた、あのフワフワ。

 まだ幼さの残る私の顔を、そうっと柔らかく撫で回したメイドの腕もさることながら、ふんわりとした毛の実力にすっかり虜になってしまったのです。


 化粧筆マニアとなった私は、より上質の毛を求めて彷徨うハンターとなりました。


「先日私達も試させて頂いたリス毛は素晴らしかったです! でも今度のもリス毛……なんですよね?」


 似たような毛を使用したものなら、やはり似たような物なのでは、というメイド達の疑問が伝わってきます。


 甘ーい! 極甘なソラ様用のお菓子より甘いですよ皆さん!!


「皆さん、あれがリスさんの本当の実力だと思うのですか」

 ふふふふふ。作る職人の腕次第で使用感が全然違うのですよ!! 勿論、毛のグレードも上がっていてよ!


 側に控えるメイドに合図すると、未使用の白粉が蓋をとった状態で差し出されました。


 そっと筆を下ろします。

 うふふふ。まだ汚れのない生のままの筆には、やはりバージンスノーのような白粉が相応しい。筆下ろし、きゅうんとトキメク瞬間です。


 白く染まった筆先を軽く布に触れさせ、余分な粉を落とします。

 いよいよです!


 いざ頰に――――――はうん♡


「ふぁあぁぁ! だめですだめです、ダメダメダメダメこれはだめですよ皆さん……はぁ♡」

 この良さをお伝えしたいのですが、手を止められません。ああ、良い〜。 なんという滑らかさ。

 どの方向からでも柔らかく肌をくすぐるこの感触。人をダメにします。人格崩壊の危機です。


 恍惚として手首を返す私をみて、メイド達も堪らなくなったようです。

 ゴクリと生唾を飲み込む音がしました。


「あの……お嬢様……。是非私達にも……」

 おずおずと筆頭メイドのササゲが声を掛けて来ました。

 ふむ。まだまだ堪能していたいところですが、いつもお世話になっている彼女達のお願いは聞いてあげたいですね。


 いたずら心が湧いて来て、えいっとササゲの顔目掛けて筆を繰り出しました。

 突然のことに驚いたササゲが避ける動作をした為目標を外し、彼女の首筋へ……

「ぅんっ」


 おほほほほ! 良さが伝わったようですね。


 気を良くした私は、化粧筆片手に次々にメイドに襲いかかります。肌が見えているところ全てが攻撃目標です。顔を避けても、耳やうなじ、長さを活かして胸元も狙っちゃいますよ!

 皆さん、きゃあきゃあ言いながらも期待して待っているようです。

 上質の物に触れるのも勉強ですもの。機会を与えねば! ふふふっ。ああ楽しーいっ♡


 散々戯れたあと、再びの至福の時間を過ごしていると、部屋のドアをノックする音が聞こえました。

 夕食の時間のようです。


「直ぐ行きまーす」

 筆をメイドに預けます。

 身だしなみを整えていると、ササゲが私の全身をチェックしながら不思議そうに尋ねてきました。


「それにしても、あれだけ夢中でいらしたのに、切り替えがお上手でいらっしゃいますねぇ」

 何を当然の事を。

「ブランチをとってからどれだけ経っていると思っているの。今なら何でも美味しく食べれるわ」


 まあそうですよね〜と皆さん納得してくれました。

 でも…………1日3食だったら、一食くらい抜いて耽溺する価値はあるかもしれませんね。

 なんといっても至高のフワフワですから!!



 今日は食後のお茶をしながら、お母様と一緒にまたアレを楽しむとしましょう。


 うふふ。お母様はちゃんと我慢して、(お茶を)こぼさないように飲み込むことができるかしら……。







お付き合いくださり、本当にありがとうございました。

心より感謝申し上げます。


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