第8話 茶番
読んでくれる人が増えてブックマーク数も増えて驚いてる今日この頃です。
なんでこんなに急に増えたのか謎ですが、作者としては嬉しいですね!
よかったら今後も読んでもらえるとありがたいです。
俺は今、冒険者ギルドの前に来ていた。
ここに来るのも朝一の冒険者たちによる依頼の取り合いが終わり、ギルドが落ち着いてきた頃を見計らってきている。
これは俺が人混みとかめんどくさいとか思ってたからそうしたのではない。
俺がそんな人で混み合っている時間帯に行けば、この容姿とか種族で目立って余計な厄介事に巻き込まれるだろうと考えたからだ。
まあ、もう1つ理由があるんだがな。
「人も殆どいないみたいだし、中に入るか」
一応人がもう殆ど残っていないのを確認してからギルドの中に入っていった。
ギルドに入りギルド内を見てみると冒険者はもう俺みたいな冒険者に成り立ての奴等しかいない。
これは俺がわざわざ依頼の取り合いに参加せずに遅れてくることを選べたもう1つの理由が関係している。
それは―――。
「Fランク冒険者合同演習クエスト受付始めまーす!」
今日は週に一回あるFランク冒険者の合同演習クエストの日だったのだ。
冒険者がランクアップするには、依頼を受けて達成すれば貯まるポイントを各ランクごとに決められたポイントを貯めなくてはいけない。
Cランクから上は、決められたポイントを貯めてさらに試験に合格しないとランクアップ出来ない。
ちなみにDランクとEランクはポイントを貯めるだけで大丈夫で、Fランクはポイント貯めるのとこの合同演習クエストを受けなくてはいけない決まりになっている。
何故冒険者に成り立てのFランク冒険者が合同演習クエストをするかというと、単純に同じFランク冒険者同士で実力や戦い方を知り合いそれで息の合う人や信頼できる人など各々で判断して、この後活動していく上でのパーティーメンバー等を見つけてもらえればという冒険者ギルドの考えから実施されている。
冒険者はギルドが討伐難易度を決めるときもそうだが、基本パーティーを組んで活動するのが普通となっている。
それは1人だと出来ることに限りがあるからだ。
「取りあえずパーティー組むかは後で考えて、先ずは受付してくるか」
取りあえず今後どうするかは後で考えることとして、俺は合同演習クエストの受付を済ましてしまうことにした。
「Fランク合同演習クエストを受けたいんだが」
「ヘルシャフト様いらっしゃいませ。Fランク合同演習クエストを受注ですね。かしこまりました少々お待ちください」
受付嬢に名前を呼ばれて内心驚いたが、顔を見たら昨日冒険者登録してくれた受付嬢だったので納得した。
その受付嬢は受注するクエストの名前を聞くと、地球でいうパソコンみたいな形のものに何かを打ち込んでいた。
「お待たせしました。それではこちらにステータスプレートを挿入してもらえますか?」
打ち込み終わった受付嬢が提示してきたのは、これまた地球でいうICカードリーダーみたいなものだった。
それは先程打ち込んでいたパソコン(仮)と繋がっている作りになっている。
色々と思うところはあったが、結局気にしないことにして言われた通りにICカードリーダー(仮)にステータスプレートを挿入した。
するとステータスプレートが3回ほど光が灯り点滅した。
「はい、完了ですね。これでステータスプレートに今回受注されたクエストのデータが刻まれました。では、あちらで他の参加者の方々とお待ちください」
「他の参加者っていうのは、あっちの共同スペースにいる5人のことでいいんだよな?」
他に冒険者はいなかったが、一応確認のために問いかけた。
「そうですね。今回ご一緒にクエストを受けるメンバーはあちらの方々で間違いないです」
「分かった。じゃあ俺はあっちに行くな」
確認がとれた俺は、受付を離れて他の参加者がいる共同スペースに向かった。
「だから女には冒険者なんて無理だって言ってるだろ!」
「女だから無理だって誰が決めたのよ!女でも高ランク冒険者の人だっているでしょ!」
俺が共同スペースに行くと、一組の男女が揉めていた。
まあ、受付からも聞きとれはしなかったが何か揉めているのは見ていて気づいていたから知っていたが。
揉めている2人の間に入る気にも成れず、俺は他のメンバーに揉めてる原因を聞くことにした。
「なあ、ちょっといいか?」
「ん?なんだい?」
一番近くにいた優男風の青年に俺は声をかけた。
「俺も今回Fランク合同演習クエストに参加するから、メンバーが何故揉めてるのか知りたくてな。何か知っているなら教えてくれないか?理由が分からなくちゃ安心してクエストに集中出来ない」
「ああ、そういうことね。うん、いいよ。僕が知っていることを教えるよ」
「助かる」
青年は俺のお願いに快く応じてくれた。
「いいんだよ。僕としても理由を話さなくて君がクエストに集中出来なくて怪我でもされたら後味が悪いからね」
青年は苦笑しながら快く応じてくれた訳を話すが、それでもありがたいことに変わりはない。
「じゃあ先ずは、揉めてる理由を話すために必要なここにいる君以外の関係性について話しておこうか。そこで言い争っているのがエイグとアリナで、その言い争いを止めたいんだけど止めに入っていけなくてあわあわしてるのがティリーで、ずっと無言で僕の隣にいるのがガンツで、最後に僕がジェイス。僕たちは同じ孤児院出身の幼馴染みなんだ」
幼馴染みか、雰囲気からある程度は察していたけど本当に幼馴染みだったか。
「まあ、そこまで話せば理由は簡単なんだけど、昔からエイグはアリナに惚れていて、それでエイグはアリナに危険な冒険者をやってほしくなくて止めようとしてるんだよ。でも、エイグが素直に『お前が好きだから冒険者にはならないでくれ』って言えればよかったんだけど、エイグは昔から素直じゃないから女だからどうたらこうたらって言っちゃって、それにアリナが怒って言い争いが始まっちゃったんだよね。アリナのほうもエイグのことが好きだったから好きな人に拒絶されたみたいに思えて余計に怒ってるんじゃないかな」
理由としては単純だけど、だからこそ他人が入りづらい理由だな。
「理由は理解出来た。それでこの言い争いはどうするんだ?」
流石にこのままクエストに行くことは出来ない。
「ああ、それは大丈夫だよ。この言い争いも今に始まったことじゃないし、それにもうすぐ終わるから」
「?」
ジェイスはこの言い争いがもうすぐ終わる確信をもってと言っているが、今も言い争っているのを見ると終わりそうになく、俺にはジェイスが確信している理由が分からなかった。
だが、その理由はすぐに分かることになった。
ジェイスが終わると言ってから少しすると―――。
「ま、まあ俺も誰かを守れないほど弱い訳じゃないし……!お、女のお前を俺が守りながら連れててってやらないこともない……!」
「しょ、しょうがないわね……!く、屈辱だけど守られてあげることにしてあげてもいいわよ……!」
なんかツンデレみたいになってきた。
するとそこに、さっきまであわあわしていたティリーが2人の間に入っていった。
「ふ、2人とも言い争いはもう止めようよー」
ちょっと涙目になりながら仲裁しようとするけっこう可愛かった。
「しょ、しょうがねえな。ティリーに免じて俺がお前を守るってことで許してやる」
「しょ、しょうがないわね。ティリーに免じて守られてあげるわ」
その可愛さにやられたのかそれともいつもこんな感じになるのか2人の言い争いは終わった。
その感想としては、取りあえず言わせてもらいたい。
なんだこの茶番!それにリア充爆発しやがれ!
「よ、よかったー。2人とももう喧嘩しちゃダメだよ!」
言い争いが終わって安心したのか、安堵の表情を浮かべながらも2人に注意していた。
……ティリーの安堵の表情の微笑みが可愛い。
「ね?終わったでしょ?」
俺がティリーの表情に見とれているところにジェイスが話しかけてきた。
「……ああ、そうだな。端からみたら茶番だな」
返答するのが遅れてしまったが、ジェイスに素直に感想を言わせてもらった。
「ははっ!確かに茶番だね。でも今の2人はこれくらいの距離感がいいんじゃないかな。まだ告白する勇気もないみたいだし」
「毎回やられて疲れないのか?」
正直俺は毎回やられるのは無理だ。
「もう慣れたよ。それに幼馴染みの恋を見守るのも楽しいしね」
「そんなもんなのか」
「そんなもんだよ」
人には人の価値観があるってことか。
「すまん待たせたな。今回のFランク合同演習クエストを担当するギルド職員のバイスだ。よろしくな。それでお前らが今回Fランク合同演習クエストに参加する冒険者か」
ジェイスとの会話が一段落したところで、今回のFランク合同演習クエストの担当のギルド職員が来た。
「それじゃあ早速出発するぞ。ちなみに今回は食料やポーション等の必要な物はギルドで用意したが、通常は自分たちで用意するんだぞ」
そして、バイスはギルドの出口のほうに向かっていった。
俺たちもその後ろに着いて行き、出口を出る瞬間―――。
「あ、そうそう。ティリーのこと頑張ってね?」
「っ!」
ジェイスがそんなことを耳元で言ってきたのだ。
それで俺が硬直するなかジェイスはさっさと出口を出ていってしまう。
出口で硬直してしまうと後ろが詰まってしまうわけで―――。
「あの大丈夫ですか?」
俺の後ろはティリーが残っており、急に動かなくなった俺を心配してか話しかけてきた。
「……っ!だ、大丈夫だ」
なんとか硬直を解いた俺は、余裕をもって返答するつもりがどもってしまった。
「本当ですか?顔も赤いですし、熱があるかもしれません」
自分では気づかなかったが、どうやら俺は赤面してるらしい。
それを熱があるかもと勘違いしたティリーが、熱を測るためか俺のおでこに手を伸ばそうとする。
「さ、さあ行くぞ!このままだと遅れてしまうからな!」
それをやられる勇気がなかった俺は、そのティリーの手を掴んで急いで出口を出ていった。
「わっ!危ないですよー」
ティリーの注意を受け、少しスピードを落としながらも俺はティリーを連れ、道の先に見える他のメンバーの元に向かっていった。