第9話 勘違いと名前呼び
祝ブックマーク100突破!
少し遅いですが、ブックマーク数がついに3桁になりました。まさか、これ程評価してくれる方がいるとは驚いています。
作者としては凄くプレッシャーに感じますけど、これからも楽しんで読んでもらえるような話を書いていきたいと思います。
これからもよろしければ読んでもらえると嬉しいです。
ティリーに注意されてスピードを落としていたからか、俺たち2人が他のメンバーに追い付いたのは街の門の近くだった。
「お、追い付いた……」
「あ、危なかったですね……」
俺たち2人は危うく置いていかれるところだったが、なんとかぎりぎり追い付き、2人揃って安堵した。
勿論そんなことはしないと分かってはいるが、心情的には不安だったのだ。
「お前たちやっときたか。なかなか来ないから心配したぞ」
バイスが俺たちが追い付いたのに気づき声をかけてくる。
どうやらなかなか来ない俺たちを心配していたみたいだ。
「悪かった。少し色々あってな」
「そうか。まあ、お前たちがちゃんと来たからいいんだがな」
そう話すバイスの表情は、必要以上の安堵が見てとれた。
その表情を見て、ただ街中の移動で少し遅れただけの俺たちを心配しすぎじゃないかと思った。
「でも少し遅れたくらいでそんなに心配することか?」
だから直接聞いてみることにした。
「それなんだがな、最近街中で失踪するやつがいるって噂があってな。それで少し敏感になっていたみたいだ」
「なるほどな。そんな噂がある中、一緒にギルドを出たはずだと思っていた俺たちが来なくてもしやと思ったわけか」
確かにそんな噂がある中、一緒にいたはずの俺たちが来なければそう思うのも仕方ないよな。
「ま、お前たちはちゃんと来たから杞憂に終わったがな。でもそういう噂があるっていうことを頭に入れといてくれよ」
「分かった。今後は気をつけることにする」
「頼むぜ。ギルドとしても冒険者に失踪されるのは困るからな。そっちのお前もだからな」
バイスは俺に忠告し終わると、今まで俺とバイスの話を黙って聞いていたティリーにも声をかけ、同じことを忠告した。
「は、はい。私も気をつけたいと思います」
ティリーは急に声をかけられて驚きながらも、しっかりとバイスの言葉に返事をした。
「まあ、あくまでも噂だから気にしすぎるなよな」
俺たちが噂を気にしすぎないようにか、バイスがあくまでも噂だと補足してくる。
「よし、それじゃあ他の4人をこれ以上待たせ過ぎるのも悪いからな。そろそろ行くぞ、あっちで待ちきれなくなってるメンバーがいることだしな」
そう言ってバイスは、門で待っている4人のところに歩いていく。
俺たちも遅れずにその後ろをついていく。
門までは大した距離があったわけでもなかったので、時間もかからずに着いた。
「お前たち何してたんだよ。遅いじゃねえか、こっちは待ちくたびれちまったよ」
「そうよね。少し待たせ過ぎだと思うわ」
門に着くと着いた早々にエイグとアリナに文句を言われた。
これについては遅れた俺らというか原因である俺が悪いから何も言えない。
「待ってくれ。ティリーは―――」
「みんな、待たせてごめんなさい!」
それでも俺が自分が原因であり、ティリーが悪くないと言おうとしたら、待たされていたメンバーに対してティリーが謝罪をしてしまった。
それに俺は慌てた。
なにせティリーは悪くないのだから謝罪をする必要はなく、謝罪する必要があるのは俺なのだから。
「いや、ティリーは悪くないんだ!悪いのは俺なんだ!俺がギルドの出口で硬直してしばらく動かなかったのが原因なんだ!それでその時に後ろにいたからティリーは遅れてしまったんだ!」
エイグたちに何かを言われるよりも早く俺は、ティリーのことの弁明を述べた。
「じゃあ何があって硬直してたんだよ」
「確かに説明してもらいたいわね。それが納得いく理由だったら許してあげるわ」
「それは……」
いち早く弁明したお陰か、エイグとアリナの矛先はティリーには向かなかったようだ。
しかし、弁明の中で述べた硬直したことについての理由をエイグとアリナに聞かれると俺は、言葉に詰まってしまった。
「エイグもアリナも察してあげなよ。きっと恥ずかしいんだから」
俺が言葉に詰まったタイミングで、ジェイスが楽しげな声音でエイグとアリナの2人に声をかけた。
言葉に詰まった時に下を向いてしまっていた俺は気づかなかったが、この時ジェイスは声をかけると同時に俺とティリーの間の腰の辺りの高さの位置を指差していた。
しかし、それを知らなかった俺はジェイスが助け船を出してくれたと勘違いしてしまう。
「ジェイス、あり―――」
ジェイスにお礼を言うために顔をあげたところで、俺はおかしいことに気づく。
エイグとアリナがニヤニヤとこちらを見ていたのだ。
怒っている表情をしているなら分かるが、ニヤニヤしている意味が分からない。
「ああ、それならしょうがねぇな。うん」
「ええ、そういうことだったのね。なら許してあげるわ。うん」
エイグとアリナがニヤニヤしながらも、何かを悟った口調で言っているが、絶対に理解していないと感じる。
「ちょっと待て。お前たち何か勘違いしてないか?」
理解していないと感じた俺は、お前たちは分かっていないというニュアンスで問いかけるが。
「そんなことねぇよ。ちゃんと理解してやってるからな。言わなくていいぞ」
「そうよ。ちゃんと理解してあげてるから、あなたは言わなくてもいいのよ」
全く話が通じなかった。
そこでどうしようかと考えようとしたとき、2人の視線がある一ヶ所に固定されてるのに気づいた。
そこは、俺とティリーの間の腰の辺りの高さの位置だった。
そこまで考えて2人が何を勘違いしているのか理解した。
俺とティリーは未だに、手を繋いだままだったのである。
ということは、そういう仲になるために告白でもしていて遅れたとでも考えているのだろう。
出口を出たときは手を掴んでいたはずなのに何故手を繋いでいるのかと言うと、走っているときに掴んだままだとティリーが可哀想だと思い、咄嗟に手を掴むから繋ぐに変えてしまったからだ。
「ちょ、ちょっとお前ら!これには訳があってだな!」
勿論そんな事実があるはずもない俺は慌てた。
そして、ティリーと繋いでいた手を離してしまう。
「あっ……」
あー!そんな寂しいそうな声出さないでくれ!
俺だって繋いでいたかったさ、そういう仲じゃないとしても!
「ははっ、何て顔をしてるんだい。そんなに悲しかったのかい?」
心情が顔に出てしまっていたのか、ジェイスがからかってくる。
「そ、それは置いといてだな!お前の発言のせいでエイグとアリナが勘違いしてるんだからどうにかしてくれよ!」
そうなのだ、よく考えてみるとこいつの発言がエイグとアリナの2人が勘違いする原因と分かる。
「僕はただ察してあげてとしか言ってないよ?」
「だからそれが原因なんだよ!」
こいつ分かってて惚けてるな。
「それを僕が思ってたのと違う解釈した2人が悪いんじゃないのかな?」
「いや違うな。そもそもお前があの発言をしなければ勘違いは起こらなかった」
「じゃあ本人たちに聞いてみようか。エイグとアリナは誰が悪いと思う?」
そこで唐突にジェイスがこの会話で蚊帳の外になっていた、エイグとアリナに話を振った。
「……ジェイスだろ」
「……ジェイスよ」
会話を聞いていた2人は、流石に自分たちがジェイスに誘導されて勘違いさせられているのに気づいたみたいだ。
そして、2人揃ってジェイスが悪いと言う。
「ありゃ、僕が悪くなっちゃったね。参ったね。確かに今回は悪かったかもね」
ジェイスはあっさりと自分の非を認めた。
でも自分の非を認めてもずっとニコニコしてるジェイスを見ていると、まるでこれもジェイスが考えてた予定通りみたいな感じがして面白くない。
「あ、それにしてもここでずっと喋っているけど、クエストいかなくていいのかい?」
さも今思い出したとジェイスが発言するが。
「「「お前のせいだ(よ)」」」
それに対して俺とエイグとアリナの3人が叫んでしまったことはしょうがないだろう。
「うわっ、怖いね。でも本当に早くいかないとバイスに怒られるよ?」
ジェイスは俺たち3人に怒鳴られても全く動じず、怖いと言っているのが言葉だけで言っているのは態度で分かった。
まだ言いたいことはあったが、確かにバイスを待たせてしまっているのも事実だから、これ以上言うのは諦めて俺たちはバイスの元に向かうことにした。
「…………」
バイスのところに行くのにティリーにも声をかけようとすると、ティリーはずっと俺と握っていた右手を見ていた。
ティリーが会話に参加してこなかった理由はこれかと納得する。
「ほら、ティリー行くぞ」
そう言いながら俺は、ティリーに左手を差し出した。
その時に然り気無く名前も呼んだが、それで自分の顔が赤くなっているだろうと感じる。
「えっ……。いいんですか?」
ティリーは俺が手を差し出したことに驚きながらも、期待を込めて手をとってもいいのかと聞いてくる。
「……俺も手を繋ぎたかったからいいんだ」
恥ずかしかったからかティリーから視線をはずして答えてしまう。
「はい!私もです!」
ティリーには答えが重要だったようで、俺の答えを聞くと満面の笑みで返事をしてくれた。
そして、嬉しそうに手を繋ぐのだった。
その様子は素直に、可愛いと思い同時に愛おしいとも思った。
それにしても、なんでティリーは最初から俺に対してこんなに好意的なんだろうな?
まあ、それを言えば俺もなんだがな。
やっぱり運命の赤い糸的なのがあるのかね。
「あ、あの!」
「ん?どうした?」
俺がティリーと俺は運命の赤い糸で結ばれてるんじゃないかと馬鹿なことを考えていると、ティリーが声をかけてきた。
その様子は何か決心したように感じたので、自然とこちらも身構えてしまう。
「あ、あのですね!あなたはさっき私のこと名前で呼んでくれたじゃないですか。それがすごく嬉しかったんです。だから今度は私も名前で呼んでみたいんです。ダメですか?」
「な、名前くらい好きに呼んでくれればいい」
ティリーが伝えたかったことは、俺のことを名前で呼びたいということだった。
それにちょっとぶっきらぼうに答えてしまったが、本心としては嬉しすぎて頬が緩みそうになる。
「じゃ、じゃあ名前教えてください!」
そこに来て俺は名前を教えてないことに気づいた。
「俺の名前はヘルシャフトだ」
「なら、ヘル君ですね!」
名前を教えると早速ティリーが名前を呼んでくれた。
ティリーに名前を呼ばれる状況に俺は歓喜した。
自分の名前なのにティリーに呼ばれるだけで、違う何かに感じる。
「えへへ♪ヘル君、そろそろ私たちも皆のところに行きましょうか」
「ああ、そうだな」
俺はティリーに言われた通り、先に門を出て外で待っているメンバーの元にティリーと手を繋ぎながら向かった。
勿論ジェイスにからかわれることを予想しながら。




