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5-3

「てめぇら! そいつに何しあが――っ!」

 【沈黙】の解けたクゥカが、トゥルーを気絶させ、自身も拘束してきたエルフたちに怒鳴る。が、トゥルーと同じように気絶させられてしまい喋れなくさせる。


「ふん、獣風情が。汚らわしい」

「どうします。ここで始末しますか」

「いや、あの人間を律儀に連れて来ない所を見ると今すぐに始末し、戻ってあの人間にここであったことを言われても困る。牢にでも放り込んでおけ」

「わかりました」


 トゥルーとクゥカをずさんに担ぎ上げ、森の結界に入るために暗号のような呪文を呟き、結界に空いた穴からエルフの里へと帰還する。


 バッドステータスの【気絶】なら殴られたり時間経過によって回復するが、頭部を殴打されたことによる損傷のためか、なかなか意識が戻らなかった二人。


 そのままクゥカは里外れの洞窟と一体化した折の中に放り込まれ、閉じ込められた。

「あ、ぐっ」

 地面に叩き付けられた衝撃からか、意識が混濁しながらも戻る。

 人工的に作られた、ちょうど人が入れるほどの大きさの洞窟。

 洞窟には魔石によって淡く光が灯されているが、それ以外の光がないから夜なのだろうと推測した。


 時間をかけ意識を鮮明にしたクゥカが周りを見渡し、状況を把握する頃にはすでにエルフたちはトゥルーを別の場所へと連れ去っていったのか、誰の気配も感じなかった。余程この檻に自信があるのか、見張りすら付けていない。


 それどころか普通の牢にはスキルやアイテム、ステータスの恩恵を発動できなくする魔法陣が床や壁に描かれているものだが、この檻にはそういった物がない。


「くそったれ」

 舐められていると思いクゥカは悪態を吐く。それと同時に自身の体に異常がないか立ち上がる。立ち上がると同時に先程の戦闘の疲労が回復していないのか体に痛みが走り、気怠さでふらついてしまった。


 まずは消費した【生命力】と【スタミナ】を万全にするために【回復術】、【ムーラーダーラ・チャクラ】を発動。


 座禅したクゥカの身体に、淡い赤い光が包み込み、体の芯から熱くなり痛みが引いていく。数秒間続いた赤い光は散発した後、クゥカの【生命力】が大部回復していた。


 しかし、体に感じる熱はまだ冷めていない。【ムーラーダーラ・チャラム】は自分の体の奥から活力を生み出し、【生命力】を回復させるスキル。使用した直後はしばらくの間、熱は冷めない。この状態で【マナ】を消費するスキルを使うと、活力と魔力が反発して逆にステータスの減少やダメージを負ってしまう。


 だが、クゥカは近接スキルの使用が多いため問題ない。

 続いて【スワーディシュターナ・チャクラ】を発動。今度は朱色の微光が体を包み、体の奥底から気が廻り出し、消費した【スタミナ】を回復させる。


「ふー」

 体が火照り、体の中を冷ますかのように深呼吸をする。

 そして、立ち上がって素振りを繰り返し、体に異常がないか確かめ、檻を睨む。太い枝が重なって網目状になっているものの、クゥカは岩を砕けるほどの威力を発揮するステータスとスキルを持っている。


 直度に檻に向かってスキル群【格闘】、【正拳突き】を発動。

 放たれた拳は鉄格子をビクともせずに堪え、逆に殴った方の拳が篭手の許容範囲外にな衝撃で痛くなった。


「ってぇなぁ!」

 ジンジンと痛みを堪え、続けて【格闘】スキル【岩砕き】を発動。フィールドで進路を遮る特定の物体、道が塞がっている壁や岩、固く閉ざされた門などのオブジェの耐久値を削ることに特化したスキル。【侍】スキルの【斬鉄剣】や【盤上切り】の相互変換スキルである。


 だが、そのスキルを持ってしても檻は壊すことができない。

 何度攻撃を繰り返しても手応えはなさそうで、他の手段で脱出を試みてみようとする。見張りが居れば色仕掛けで誘い出すことも可能だが、生憎見張りはいない。


 壁や床、天井は岩盤に檻と同じ枝が交差して埋め込まれており、攻撃してもクゥカのステータスでは檻と同じ結果になる。


「どうすっかねぇ」

「少なくとも儀式が終わるまではこのまま拘束されているだろうな」


 突如隣の壁から声が上がる。クゥカは他人の気配など感じなかったので思わず驚いて尻もちを付いた。


「な、何だい!? 地縛霊かなんかか!?」

「いきなり殺すな。ちゃんと生きている」

「んじゃ、何で気配を消していたんだい」

「どうすることもできなくてな。自分の不甲斐なさと、煮えくり返る感情を治めるために瞑想をしていた」

「あんた……暇なのかい?」


 怒りを鎮めるために瞑想するとか、どこのお坊さんなのかと呆れだしたクゥカ。美しく透き通る声からして女性であるのは間違いない。


「暇ではない。少なくともただの檻ではないこの檻から脱出する術を考えているからな」

「この檻について何か知っているのかい?」

「精霊樹の枝から作られた檻だ。その枝自体に強固な防壁が張られているのに等しい」

 クゥカは深々と観察してみるものの、ただの枝にしか見えない。が、【岩砕き】で凹みも亀裂も入っていない所を見ると、何かしらの力が加わっているのは間違いない。

「だったら一生ここに居ろってか!?」

「喚くな、見苦しい」

「うるせぇ! こっちはトゥルーが連れ去られているんだ! ちまちまとこんな所で時間潰している暇はねぇんだよ!」

「トゥルーだと?」


 その名前に反応した隣の牢の人物は、今度は問いかけて来る。


「アカザと言う者が居なかったか? そやつは今何をしている!」

「あ? 知り合いなのか?」

「答えろ!」

「あいつは今他の女と【スカンヴィナ】行っているよ」

「あ゛あ゛!?」


 クゥカが言った内容は意図せず、隣の牢の人物を憤慨させた。そこからは先程の美しい声が、怨嗟の声へと変貌する。


「トゥルーを捨てたというのかあの匹夫は! どこぞの誰とも分からん尻がる男が、トゥルーのような愛らしい子を無下にするなど! 次に会ったら100回ほど殺してやる!」

「あ、いや、そう言うことじゃなくてな……こう、一時的に離れ離れなだけで」

 前に自分も同じ勘違いをしているので、宥めようとするクゥカ。


「一時的に!? つまり捨ててまた利用しようとするのかあの男は!? なんて女々しい屑が!」

(あ、こいつ、話聞かない奴だ)

 自分を棚に上げて遠い目になったクゥカ。


 怒鳴り続けて徐々に冷静さを取り戻したのか、一息つく隣の牢の人物。

「すまない。少々取り乱してしまった」

「あー。それはよかったー」

 感情の籠っていない音量でそう言いながら、心の中では先程のことが少々ではないだろうと指摘する。


「そこはかとなく馬鹿にされているような気がするのだが?」

「気のせい気のせい。それよりもどうやったらこの檻から出られるんだ?」

 話の逸らし方を訝しみながらも、自分の知っていることを離し始める。

「基本この檻に千錠はない。開くときには特定の言葉を言えば開き、締める時には別の言葉をわなければならん」

「その言葉を知らないから開かないのか」

「いや、知っているが言葉は檻の外で言わなければ効果がない。檻の内側から言っても何も変わらん」

「ちっ、使えねぇ」

「貴様も同じ役立たずだろう」

「てめぇ」

 この2人、相性が悪いのか口を開くと喧嘩腰になってゆく。


 クゥカが肉食獣の唸り声を出し始めたその時、皺が入った男のエルフが檻の前まで来る。


「ヴェニア族長……」

 まるで檻がなかったら今にも襲い掛かりそうな殺気を放ちながら、入って来たエルフの名前を言う隣の牢の人物。その後ろには2人の護衛として一緒に入って来る。


「考えは改めてくれたかね。シルフィール」

「すると思うか外道。それに貴方に名を言われるなど虫唾が走る。やめろ」

「誰もが貴殿のようにハイエルフにはなれない。それは不公平だろう?」

「自然の法則を順守するエルフが自然に逆らう。追放されて当たり前だ。自身がハイエルフになりたいからとトゥルーを犠牲にするか」

「人間種やそこの獣人、ハーフなど溢れるほど居るのだ。間引きして何が悪い。むしろ我々エルフの犠牲になってくれるのだ。感謝するべきだろう」

「ハッ。貴様はエルフではなく、醜悪なモンスターだろう? そんな貴様と我が弟子など……確かに比較にならんな」

 年季の入ったエルフ、ヴェニアの言葉を鼻で笑うシルフィール。


 その態度が気に入らなかったのか、顔が徐々に崩れて行き本当に醜いモンスターのような風貌になった。そのことがおかしくてクゥカもつられて笑みを浮かべる。

「確かに。あんた、言い方が上手いね」


「ふん! 下種なものが喚くから耳が穢れてしまった。 おぬしら、この獣臭い物を適当に痛めつけろ」


 2人のエルフが槍をクゥカに突き刺そうとする。

 が、前に出ようとした直前に彼らの喉から刀が生える。声を出すことなく、一撃で【生命力】を失った彼らは白い灰となった。


「痛めつけるのはお前の方なんだが?」

 ヴェニアが声のした方に振り向くと同時に、彼の喉に【手加減】によって死なない刃となった薄い緑色の刀身を持つ刀が突き刺さる。


「ァ゛ッ!?」

 目の前に人間、アカザに文句を言いたくても喉を貫かれているため、声が出せない。


「で、お前面白いこと言ってたな。犠牲にするから感謝しろとか。……だったら、俺の犠牲になって感謝してみろよ」


 【手加減】を解除し、突き刺さっていた【膝丸《薄緑》】を抜き、体を二等分するように皺の入ったエルフを切断する。


 【生命力】がゼロになり体を維持できなくなったエルフは白い灰へと変わる。それではアカザの気が済まず、白い灰を更に燃やそうと【ファイアボルト】を連射する。

 剣先から放たれる火玉は3人の遺灰に淡々と注がれ、所々黒く焦げた。白い灰が消える30秒間続け、消えても【ファイヤーボルト】を数秒撃ち続ける。


 やがて灰がないことに気付いたのか、刀を【暗鬼鞘】に収刀する。


「……今更何しに来た」

「トゥルーを連れ戻しに来た」

 まるで敵を見るような目でシルフィールに睨まれるが、最初の頃のように怖気づきはしないアカザ。


 アカザはエルフの里に張られた結界に入った時、【地図】に表示される人物名を確認している最中、シルフィールとクゥカの名前が見え事情を聞いために来た。


「そこの隣人から聞いたぞ。トゥルーを捨てて他の女に乗り換えたそうだな。そのくせ未練がましく助けに来ただと? ふざけるな!」


 静かに視線をクゥカに移すアカザ。気まずそうにクゥカは視線を逸らし、下手な口笛を吹いて誤魔化そうとする。そんなクゥカを尻目に懸けアカザはシルフィールに向き直る。


「ふざけてもいないし、乗り換えても居ない」

「だったらその後ろの女は何だ?」


 アカザの後ろに居るシャムに気付いて、指摘してくるものの適切な答えが出て来ない。仲間や友人とは違うと思った。


「……何だろう」

 思わす首を傾げてしまうアカザ。


「やはりふざけているではないか!」

「いや、待って! 決して彼女とか恋人とかじゃないから!」

「……肯定、トゥルー及びアカザ、恩人。故に、助太刀」


 シャムがアカザが答えられなかった問いを、シルフィールに伝わり辛くはあるが答えた。シルフィールは顔を顰めながらも、シャムの瞳をじっと見る。嘘を吐いていないか確かめていたのか、数秒後折れてアカザに向けてはなっていた敵意を薄める。


「……なぜ、トゥルーの傍に居なかった。私は頼むと言ったはずだ」

 事情があった。トゥルーを危険な場所にわざわざ連れて行きたくなかった。そんなことを言っても後の祭り。彼女はトゥルーを守ってほしかったのだ。自分の手から離れ、心配し不安だっただろう。だが、隣には少なくとも強い存在が居たのだ。役立たずの烙印を押されても仕方がない。


「…………」

 アカザはシルフィールに謝罪もできずに、無言になってしまう。

 謝ればいいのか、言い訳をすればいいのか。他人に責められるという経験はあるものの、基本は受け流しのアカザ。


 自分にとってどうでもいいことで、何の非もない。なのに相手はガミガミトねちっこく怒鳴り散らす。適当に反省しているように落ち込んで黙っていれば、そのうち相手は自分が偉いとか、打ちのめしたとか思い満足してくれる。


 だが、彼女は本気でトゥルーを心配している。納得のいく言葉を聞かなければ、いや、例え納得してもしきれないだろう。彼女は信頼した相手に裏切られたも同然だ。


 嫌々とは言え、分かったと口にしたのは自分なのだ。


 頭は自分の行動と現状を検証している最中。


 そして、浮かぶ感情はやけくそ気味であった。トゥルーが勝手にやったこと、俺は関係ない。そんなことを言えば確実に口論になるのは分かっている。


 だから、必死になって言葉を探す。

 だが、見つからない。人間関係、人生経験の少ないアカザは、こんな時なんて言えばいいのか分からなかった。


 何とか言葉にしようとして、でも言葉が出なくて口がちょっと開いた所で制止してしまう。

 それを見かねたクゥカが声を出す。


「トゥルーの護衛を買って出たのはあたしだ。守れなかったあたしのせいだよ。アカザは悪くないよ」

「それでもっ、お前が離れなければトゥルーが生贄にはならなかった!」


 シルフィールはどうしようもない憤りをアカザにぶつける。だが、アカザはシルフィールの言葉に不安を加速させてしまい、声を震わせながら問い掛けた。

「トゥルーが……生贄ってどういうことだ?」 

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