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廃人ゲーマー<ゲームでも異世界です。  作者: 中二ばっか
大規模戦闘《イベント》開始
22/78

2-9

 アカザに無理矢理付いて行ったキキョウが気がかりであるナオトラ。

 しかし、思考をそちらに向けている暇はない。一時的にモンスターを殲滅したとはいえ、遠くの方からぞろぞろと蠢く鬼たちが居る。


 あれだけ【大型黒騎竜】が暴れ回ったのだ。何があったのかと警戒するのは当然で、モンスターたちが群がってくる。


 ゆっくりとはしていられず、ナオトラは陣頭に立つ。

「陰陽師は全員に障壁を掛けて、風水師は境界を作りなさい。前衛、土砂の垣根を背にして半方位陣形を」

「は、はい!」


 若干、先程までの【大型黒騎竜】の生み出した光景にほけた者たちが居たが、ナオトラの指示が耳に入った瞬間、テキパキと動き出す。


「【羽衣の障壁】!」

「【鎧袖境内】!」

 2人の陰陽師が全員にダメージを肩代わりする障壁を1人ずつ掛け、1人の風水師は自身を中心として半径50メートルに六角形をつなぎ合わせた、ドーム状の境界を作り出す。


 前衛は各々の武器を手に持ち、向かって来るモンスターの軍勢を待ち構える。

 ズンズンと大量の足音が、地面を動かしているのような感覚に襲われるナオトラたち。


 眩暈がするほどの数に、彼らは怯む。


 そして怯みから、嫌なことを考え体が震えてしまう。

 なぜこんな場所に来てしまったのだろう、と。


 彼1人だけでも良かったではないか、と。


「【エチゴ】のために、我々は来ました! 彼だけに全て押し付けるつもりですか!」

「まったく、あいつ一人しかいい男は居ないのかい!」

 ナオトラが、鼓舞する。

 サツキが、批判する。


 彼女たちはまるで一人も負けるとは思っていない顔。

 なぜ? と問われれば、最も分かりやすいのはアカザだろう。


 だが、違う。彼女たちは彼に頼っているのではない。自ら戦いに来たのだ。

 この世界では女性だろうが、子供だろうがスキルさえ覚えれば、修練すれば強くなれる。死んだって復活する。


 しかし、恐怖はある。


 痛みはあり、死ねば愛する者への感情は薄くなり、生きる気力はなくなる。


 一度でも味わえば二度となりたくない。

 それでも、彼女たちは戦場に来た。


 ここに居る誰もが、アカザのような助っ人が来る可能性など考えていなかったのにだ。


 いや、違う。

 アカザのように【エチゴ】の脅威を排除しようと来たのだ。


 家族に、恋人に、友人に苦しい思いをさせないように来たのだ。

 そして、アカザは昨日まで参加する気がなかったことを、ナオトラは知っている。彼の言い分は正しい。冒険者であるアカザに無理強いはできず、自分たちで解決するしかないと思っていた。 


 力と精神が反比例しているアカザの性格を、サツキは知っている。誰かのために行動しても、裏切られたのであれば確かに人を信じる気にはなれない。しかし、それでも誰かのために戦うと決めたのだろう。


 それなのに、自分たちが竦んでいる暇などない。

 その意思が伝わったのか、全体に震えが止まって行く。


 全員が眼前の敵を見る。

 奥から無限に湧き出ているかのように、ぞろぞろ出てくるモンスター達。

「はっ。あっちで長時間【地獄門】を探して攻めるより、確かにこっちの方が楽だな。あちらから来る敵を迎え撃つだけでいい」


 1人の侍が自分を鼓舞するためか、軽い調子で言う。

 それに同心したのか、クゥカが声を張り上げる。

「おう。あいつばっかりに儲けさせるかっての!」


 数の差に絶望に飲まれていた彼らは、次々と張りつめた心を解いていく。

「ああ、何も変わらねぇよ。いつも通り戦うだけだ!」

「報酬があっちから来るんだ。ありがたいったらねぇぜ!」

 士気は上がり、戦いが始まる。


 基本、殲滅戦におけるパーティ役割(ロール)は【魔法】や【二丁銃】などの、広範囲攻撃が多いスキル群で当たる方がいい。複数の敵にダメージを与えられ、何体も倒せれば複数のモンスターから攻撃を受けることがなくなる。


 【マナ】や【スタミナ】の消費が激しくても、範囲内に居る数に一々単体攻撃する時間が省ける。

 例え相手を一撃で倒せずとも、減少した【生命力】のモンスターと戦うといのは、減っただけ戦闘が速く終わるので前衛の負担も少ない。ただし、敵愾心(ヘイト)管理ができていればの話でもある。できなければ複数のモンスターが後衛に雪崩れ込む最悪の事態が引き起こされる。


 今回集結した後衛は【陰陽術】、【風水術】が主軸になる。

 範囲攻撃スキルがないわけではないが、敵の拘束や仲間の支援が主なスキル群であり、アカザのような殲滅力は期待できない。

 ない物ねだりは仕方がない。


 一応各種スキル群のどれにも範囲攻撃がある。タイマンに強い【格闘】も例外ではない。だが、範囲が狭かったり威力が分散したりと、スキルの能力が【魔法】や【二丁銃】などのスキル群に劣っている。

 

 それでも、前衛のナオトラたちが頑張るしかないのである。


 陰陽師が近づいてきた敵に結界を張る。

「【爆結界】」

 しかし、それは相手を守るためではない。


「ハッ!」

 四角形の結界は、陰陽師の掛け声によって閉じ込められたオーガと共に、爆発しなへと返す。

 遠距離攻撃できる者は積極的に、遠くの敵に攻撃を仕掛ける。


 そして、陰陽師は先ほどの戦果に驚く。

 いつもなら、2.3回攻撃しないとオーガの【生命力】を尽きることがない。それも、前衛と共に戦い消耗させて。しかし、今は一撃で【生命力】が高いオーガを倒せる。


 アカザが使った【ドラゴンソウル】は確かに機能している。

 しかし、幾ら強化されているとはいえ、広範囲攻撃は限られており、どんどん押し寄せるモンスターの軍勢は、前衛と激突する。


「【丁々発止】、【陣風】」

 【丁々発止】によって【蓮華】の効力が落ちる代わりに、スキル群【侍】の【クールタイム】を短縮するナオトラ。


 薙刀【佳宵《月下》】、漆を塗ったように黒い峰に金のススキが描かれている。


 それを振るい、先端から風の刃が放たれ大勢のモンスターを切り刻む。


 他の前衛もスキルを発動させ、武器を振る。


 両手斧を持ったフルプレートの戦士は、オークの頭をかち割る。

 槍を持った革鎧の軽装兵は、ゴブリンの腹を抉る。

 片手剣と盾を装備した騎士は、オーガの剛腕で振られた剣を余裕で盾で受け止められる。


 【ドラゴンソウル】の効果は凄まじく、軽々とモンスターを倒していく。


 しかし、敵はゴブリンやオーク、オーガだけではなかった。


 20メートルを超えるような巨体の鬼。トールが現れる。


 手には固い岩を切り出したような棍棒を、騎士に叩き付ける。

「ぐっ!」

 騎士に掛かった【羽衣の障壁】が、一定値のダメージを肩代わりするはずなのに、一瞬にしてガラスのように砕ける。


 次の攻撃は自身で防ぐしかない。

 トールと騎士の体格差は3倍近くあり、圧迫感と威圧感が凄まじい。身が強張らせてしまい、足も震えてしまう騎士。


 それでも懸命に体を動かし、トールの攻撃を盾で防ぐ騎士。

 トールの剛腕によって振られる棍棒は凄まじい打撃となる。腕が腫れ、骨が軋んだような音がする。だが、騎士は歯を食いしばって痛みに耐える。

 それでも攻撃を防ぎきれず、吹き飛ばされ地面に叩き付けられる。


 【ドラゴンソウル】は純粋に攻撃力と防御力を向上させており、それに加え【鎧袖境内】は、範囲内のパーティメンバーの防御力を上げている。

 それでも【羽衣の障壁】が一撃で砕けたのは、トールの攻撃力の高さを物語る。もし、何の支援も受けずに今の一撃を受けていたら、死んで白い灰になっていただろう。


 故に危険だと感じたナオトラは、トールに【疾風一閃】を使用し一瞬にして距離を詰め、足首を深く傷つける。


「グゥゥウウウウアアアアア!」

 痛みに大声を上げるトール。だが、【生命力】が高いためか英雄の一撃と言えども、体が黒いモヤへと変わることはなかった。


 【10年物】と呼ばれる普通のトールよりも1回り大きな存在であった。ステータスも上がっており、厄介な相手である。

 しかも、トールの赤黒い血が噴水のように出たのは一瞬だけで、すぐに血が固まったようで瘡蓋のような物が残るのみ。


 だが、ナオトラは怯むことなく、連撃は止まらない。

 そこから【飛燕】を使用して一気に飛び上がると同時に、薙刀をトールの足に突き立て、切り上げる。

 余りの痛さからか足を崩し膝を付くトール。しかし、まだナオトラの追撃は止まらない。


 膝を付いたトールは背が低くなり、首元がナオトラの近くに来る。

 そこから【飛車】を使い、自身が独楽のように何度も回転しトールの首を弾き飛ばす。


 体を維持することができず【生命力】がなくなったのか、トールが黒いモヤへと変わる。


 そして、落下する前に【兜割り】を発動させ、急速降下しオーガの頭から股を一刀両断する。


 トールを倒したナオトラを危険だと思ってか、弓矢やクロスボウを持たゴブリンが攻撃してくる。ナオトラに向かう矢は、ナオトラが薙刀を振るい叩き落とせれてしまう。


 涼しい顔でナオトラは斬り払いをやっているが、アビリティスキルの【斬り払い】を使っている訳ではない。スキルの補助なく、自身の技量のみで放たれた矢を打ち払っているのだ。

 

 単純にクロスボウの矢は初速350㎞であり、洒落にならない速度で飛んでくる。プロが投げる野球ボールは150㎞。それをバットで打つのさえ人間には困難だ。


 それを複数、ナオトラは軽くやってしまう。

 アカザのようなステータスの高さではなく、技量。

 それが、老兵の並ならぬ力を雄弁に物語る。

 故に、アカザのような無駄もない。


 ゴブリンが5体跳びかかってくるが、薙刀を一回振るうだけで3体、流れるようにもう一振りして2体纏めて倒す。


 近づいてきたオーガは拳を振り下ろすより速く、喉を切り裂く。

 背後から襲おうとしたゴブリンは、柄で殴られ、腹を貫かれた。


 他のモンスターもナオトラに数体係りで倒しにかかるが、慌てることなくナオトラは巧みに薙刀を操り、一撃で相手を倒していく。

 

 だが、ナオトラが、前衛が、後衛がスキルを使うように、モンスターたちもスキルを使う。


 弓矢を持ったゴブリンが【チャージショット】を使い、弦に力をめいいっぱい入れて矢を、斧を持った戦士に放つ。


 凄まじい速度で飛んできた矢を避けることができずに、戦士は鉄球でも飛んできたように後方に倒される。戦士が立ち上がる最中、陰陽師が先ほどのように【爆結界】を使い、ゴブリンを爆殺する。


 オークが【雄叫び】を使い、雄叫びを上げ自身を鼓舞し、一度だけ攻撃力と防御力を上げる。そのオークが騎士に向かって斧を叩き付ける。


 盾で防ぐ騎士だが、先ほどのトールの攻撃で腕を痛めつけているため、苦痛は先ほどより腕に響く。苦痛に奥歯を噛み締めて堪え、無防備になった腹に向かって、【キック】を使いオークを押しのける。

 体勢を崩したオークに【ファストソード】を使い、オークの腕を斬り飛ばす。ぼとりとオークの腕が支えを失い地面に落ち、同時に黒いモヤへと変わる。若干の斬りにくさはあったが、それほど変わらなかったことに安堵した騎士。


 そして、ナオトラは少し表情を曇らせる。

「後衛は薬品(ポーション)を飲んでおきなさい! 風水師! 【鎧袖境内】を解いて【練気境内】に変更しなさい! 前衛! 後衛にモンスターどもを近寄らせるな!」

 【鎧袖境】による広範囲の防御力向上を捨て、【スタミナ】を持続回復させる【練気境内】に変更させる。


 瞬間、小麦色のドームが風水師を中心にして展開される。パーティメンバーの疲労感が和らぐものの、ほっと息を付く者はいない。


 薬品店で売っている薬品ポーションは回復量が少なく、何度も飲んでいると過重摂取によって中毒に陥りる。そういう状態にならないためには、休み休み薬品(ポーション)を取るしかないが、そんな隙を見せれば相手がなだれ込んでくる。


 例え、ナオトラがいくら強かろうと持久戦では疲労し、蓄積すればこのパーティは瓦解する。


 無限増のモンスターとの戦闘はまだ始まったばかりである。

 だが、終わりは見えない。

 それでも、諦めることなく戦う。


「前衛! ゴブリンにはスキルは多用せず、【生命力】が高い相手に絞って使いなさい!」

「おう!」

「やってやるぜ!」


 前衛の殲滅速度が落ち、最前線の彼らを抜けてモンスターが後衛に向かって来る。


 サツキがオーガが持った渾身の一撃を回避し、脇をすり抜けると同時に腹を切り裂く。

 クゥカは篭手をゴブリンの顔に叩き付け、黒いモヤへと変えながら吹っ飛ばす。

 彼女たちは能動的に動き、敵の進攻を止める。


 しかし、数の暴力は覆し難い。


 長期的に休みなく攻撃している前衛の額には汗が浮かび、【スタミナ】消費による気怠さが筋肉の動きを鈍らせる。

 そんな時、オーガ、オークのような大きな敵が数を減らし始め、多少の余裕が前衛に生まれる。


「【封縛結界】!」

 その余裕のおかげで陰陽師がスキルを唱える。


 前線より前の地面に六芒星が書かれた円が地面に浮かび上がり、そこに立ち入ったモンスターの動きが金縛りに会ったように動かなくなる。


 僅かな時間であるが、その間に前衛は【スタミナ】を回復させる薬品(ポーション)を勢いよく飲み干す。舌にレモン汁を薄めた味が広がるが、あまり美味くない。


 まだ【スタミナ】に余裕があるナオトラは、動きを止めたモンスターたちの中心部まで行き、【夏嵐】を放つ。

 自身が一回、横に高速回転することによって、生まれる真空の刃は円状に広がり、モンスターを輪切りにする。

 モンスターの体が連続で爆発するかのように黒いモヤになり、周囲に黒い霧が発生する。


 陰陽師はすぐに【封縛結界】を解除して、新たな結界の詠唱を始める。

 ナオトラは【練気境内】の範囲内までに後方に下がって、次のモンスターの襲撃に警戒し、薙刀を備える。


 顔を合わせるするのすら初めての者もいるが、危なげではあるが連携が取れている。

 その連携から余裕が生まれ、何とか繋げられてはいるもののこれがいつまで続くか。

 不安ではあるが、モンスターが次々と来るため考えている暇はなかった。





「……アカザさんたち、大丈夫かな」

 ぽつりとトゥルーは口から不安を漏らす。独り言だったが、隣のヤマブキの耳に入り返事が来る。


「きっと大丈夫ですよ」

 トゥルーは遊郭に残り、窓から空を見上げる。

 日が昇っているはずだが、生憎と曇りで薄暗い。


 こんな気分の晴れない日は、弓矢の調子を確かめたり、修練に励むのだが、トゥルーは

アカザたちのことが気がかりで身が入らない。

 遊女たちも、楼主や他の同僚のことを気にしているのか憂い顔であり、目に元気がない。

 

 昨日、アカザが転移してから部屋で信じて待っていると、装備を変え両手に様々なアイテムを抱え、先程のように突然戻ってきた。

 鎧を着ているということは完全に戦いに行く恰好であった。

 それが嬉しくてつい言ってしまった。


「トゥルーも一緒に行く!」

 返答は手短に言われた。


「足手まといになるから、ここに居ろ」

 頭の中では理解できる。


 だが、ショックだった。

 ここに来るまでに何度もモンスターに襲われ、その度にアカザの背に居た。後衛だから仕方ないと言えばそれまでだが、弱いからと開き直ることはしたくない。

 自分の弱さが悔しい。

 

 それからアカザは、様々なアイテムをトゥルーに渡して今朝、トゥルーをヤマブキに預け門前に向かった。


 トゥルーはアカザに渡されたアイテムを、手に持って、畳に置いて確かめてみる。

 自分に何ができるか分からないが、少なくとも今できることをするしかない。


 お師匠さまも「復習は基本だ。怠るとすぐダメになる」と言っていたから、アカザさんが言っていたアイテムの内容を声に出して再度確認する。


 そして、どのような状況でどのアイテムを使うのか頭の中で思い浮かべる。


 様々な魔法を1回だけ【マナ】を消費せずに使える【魔術巻物(マジックスクロール)】、投げて筒が破裂した瞬間に黒い霧が出て、そこに入ると様々なバッドステータスを与える【暗黒劇物閃弾】、ステータスを向上させる食べ物を混ぜ合わせ合計値のステータスを一定時間付加させる【兵糧丸】、一定時間【生命力】【マナ】【スタミナ】を凄まじい速度で回復させる【神酒(ソーマ)】など。


 使い方や性能は昨日アカザに教えてもらったが、どれもこれも(アカザが言ったことを信じるのならば)破格の性能である。

 他にも様々な物を渡そうとしたが、入りきらないアイテムは床に置かれ、なくなったら補給しろとのこと。


 それがどれだけトゥルーの実力が、アカザより下か思い知らされている気がした。

「……アカザさんは好きに使えって言ったけど」

「……これだけあると、どれを使おうか迷いますね」

 もう少し選んで置いていってほしいと思ったほどに、アイテムが畳1枚に隙間なく置かれている。その一つを気になったヤマブキは、なにか言いたげな表情をする。


「……これは?」

「……性能破格のネタ装備らしいけど」

 ヤマブキは手に取った物をまじまじと見る。


 一見すると矢に見える。

 だが、矢じりは尖った口を持つ魚である。

 矢羽も魚尾でありかなり奇抜な矢である。

 魚でない部分は胴体の矢柄の棒部分だけである。

 白黒の丸い目は、生々しく、気持ち悪く感じる。

 【ダツ】と呼ばれる魚を加工して作った物らしい。


 弓矢に詳しくないヤマブキだが、これを使ってモンスターを倒せるのか甚だしい疑問である。そして、少し生臭さを感じるトゥルーは余り触りたくない。

 というか遊郭に居る全員がそれを使う奴の気が知れなかった。


 悪いがそれをモンスターを倒すための武器としては、どうしてもトゥルーにも思えない。


 他にもトウモロコシの形をした爆弾や風呂場のアヒル人形、点が3つで間抜けな顔をした土人形であったり、ピンク色のう○こじみた形をする物であったりする。


 使い方はアカザから聞いたが、使うのに躊躇する物でもあった。

 もう少し恰好がつく物はなかったのか。というか、最後の物は女の子に持たせるものではないだろう、と遊郭従業員一同、セクハラで訴える所存であった。


 そんな事をしている時、カンカンと耳障りではあるが危険を知らせる半鐘の音が鳴る。

 その音に正常な人間はビクッと体を強張らせた後、城壁から離れる。もしくはモンスターを倒すために城壁に向かう。


 動かない亡者もいる。

 だが、トゥルーは城壁へと動く方であった。

 アカザは自由にこれらを使えと言った。

 だから、誰かを助けるために、せめてここで世話になった人たちに使いたいと思う。


「トゥルーちゃん、私もこれ持っていくね」

「でも……」

 トゥルーが口ごもった理由は単純明快。ヤマブキは、彼女たちには戦う力が低い。


「一々こっちに戻ってくるの大変でしょ?」

 しかし、役に立ちたいというのはトゥルーには痛いほどよく分かる。自分に彼女に何ができるか分からないが、ここで立ち止まってはいられない。


「うん、おねがい!」

 そして、彼女たちは城壁へと駆けていく。


 ベテランの兵士や冒険者は、朝【シュウキゴク】に向かってこの場にはいない。

 だからモンスターを止めることができず、モンスターが前線を突破する。

 トゥルーが城壁に到着した時には、崩れた所からゴブリン数体が中に入ろうとしていた。


 走りながら弓を持って矢を放つトゥルー。

 飛ばされた矢は寸分違わず、ゴブリン1体の胴体に当たる。

 だが、火力が足りなかったのか胴体を貫けら抜くことができず、浅く刺さっただけであった。当然、ダメージも少ない。


 スキルを使って時間を掛けてしまうと、接近されて不利になってしまう。

 一瞬戸惑ったトゥルーだが、アカザを信じて【ダツ】で作られた矢で弓を構え、放つ。


 トゥルーは余り使い慣れた矢ではなかったため、少し照準がズレてしまった。しかし、飛ばされた【ダツ矢】は水の中で泳ぐように、ゴブリンの目に誘導される。


 誘導された【ダツ矢】はゴブリンの目に突き刺さった後、顔を振り暴れだす。ぐじゅぐじゅと嫌な音と、口から水を噴出させる。

 ゴブリンは余りの痛さから、金切り声をあげ地面にのたうち回る。

「アギィ、グェ、ガガッ!?」

 そして、【生命力】がなくなったのかゴブリンは黒いモヤへと変わる。


 トゥルーは、ヤマブキは、ジト目で今の光景を呆然と見ていた。

(……アカザさん)

 トゥルーはアカザに対して文句を言いたい。


 確かに性能は凄まじい。

 多少狙いが外れても誘導によって敵に当たり、当たった後も矢が暴れるので傷が広がる。更に水属性が追加で入るため、ダメージが大きい。


 だが、かなりグロテスクで見ている方も目を背けたくなる。

 

 アカザにとってアイテムは数値や効果なため、高ければ、良質ならばいいアイテムなのである。しかし、グラフィックで伝わるのは装備や家具などの大きなアイテム程度。薬品(ポーション)や食べ物などの小さなものはプレイヤーにはどのように使われているか分からない。


 【ダツ矢】はグラフィックはそのままであるものの、使用しても敵に一定時間突き刺さっているだけである。


 グロテスクな使われ方をしていることなど知らない。


 そのため、トゥルーはゴブリンが可哀想に思えてしまった。

 しかし、ゴブリンはトゥルーの気持ちを考えず迫ってくる。


 仕方がなく【フィンショット】で5本同時に【ダツ矢】を放つ。

 飛ばされた矢は獲物を負うピラニアのように、ゴブリンに向かい突き刺さる。


 そして、複数の金切り声が重なった後、ゴブリンが黒いモヤになった。

 途轍もなく気分が悪くなるトゥルーたちだが、アイテムの有効性は理解した。


 だから【ダツ矢】以外のアイテムも使い、モンスターの進行を食い止めようとトゥルーは気合を入れ直す。




 それぞれの場所で、戦いが始まる。 

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