2-1
オーク。ゲーム時代の通称は「豚」。
赤褐色の肌とでっぷりとした腹なのに、腕だけ筋肉質な肥満体のモンスター。個体差があるが、禿げ上がった厳つい顔に動物の革や篭手などの部分的な防具を身に付けている。手には石器時代の大きな棍棒を持っているのも居れば、斧や素手のみのオークもいる。
風呂や歯磨きをしていないのか、近づくと物凄く臭い匂いで鼻が曲がりそうになる。2mの巨体ではあるが頭が悪く、動作も遅い。
そのオークの1匹がアカザに向けて石の棍棒をフルスイング。
こちらを野球ボール程度に思っているほどに躊躇がない。
石でできた棍棒を刀で受け止めるが、切れ味が良すぎて【膝丸《薄緑》】が喰い込んでしまった。また衝撃で硬直してしまうことに思わず舌打ちするアカザ。
「ちっ」
一瞬だけだが硬直し、漂って来る臭い匂いに苛立ちながら振った【小鴉丸《八咫烏》】がオークの胸元に斜めの切り傷を作る。あまりに深く切ったのか体を維持しきれず【生命力】がなくなり、黒い霧となって消滅する。
棍棒も黒い霧になったことで、【膝丸《薄緑》】も自由になり、臭い匂いも消えた。
アカザのステータスに【小鴉丸《八咫烏》】【膝丸《薄緑》】は限界まで強化しているため、凄まじい切れ味を持つ。現に今切り裂いたオークも格下ではあるが、肉の厚さは感じずプリンでも切っているような感覚であった。
普通のゲームではやられ役の戦闘員といったポジションが多い。【フォークロア】でもそうなのだが、雑魚の割には【生命力】が高く、物理攻撃が高い亜人種。
アカザに圧倒的なステータスの高さがあるから、一撃で屠っていられ、攻撃を受けても微小のダメージしか受けない。
だが、後方のトゥルーの防御力は高いとは思えないため、遠回りしてトゥルーに近づくオーガの敵愾心を上げるために【タウンティング】のスキルを使い、前方で戦線を維持する。
「へい、坊やたち! 何時までママのスカートに隠れているつもりだい?」
突如としてアカザが相手を嘲笑いながら声を出す。
【集団挑発】。
【タウンティング】の代表的スキルであり、プレイヤーが選択したモンスター、周りに居るモンスター達にも攻撃するように仕向ける敵愾心向上スキルである。
アカザが声を出したのはゲーム時代に設定していた【コマンドマイクロ】(コマンドを選択すると自身が何をしようとしているか、どんな状況かを知らせるために、ログに表示することができるシステム)が発動しているらしい。
【集団挑発】の効果で、オークがアカザに向かって来る。だが、振り下ろさせる棍棒を【スッテプ】で躱した後、一撃入れ即座に死に絶える。
アカザは一撃で屠っているので苦戦していないが、少し後方からのトゥルーの弓の援護はオークの足を止めるに留まっている。それでも立派な援護なのだが、火力が足りていないので決定打にはならない。
一方的オークたちは最初50匹ぐらい居たのが、今では10匹程度まで数を減らしていた。
このままいけば殲滅可能であるが、アカザはこのような戦闘を何度も繰り返しておりうんざりしていた。何せ数ばかり多く歯ごたえがない。
エチゴに戻る途中、モンスターの襲撃に合うのは9度目。しかも毎度、遭遇する度に数が半端ない。10匹以上は当たり前。
【フォークロア】のフィールドモンスターが集団で襲ってくるのは基本5匹前後。なのでこの数は異常である。
しかも、街道沿いはモンスターの遭遇もそう多くない。集団で襲ってくるモンスターも居ない。居ても襲ってくるモンスターなどたかが知れている。
なのに、本来森の奥地やダンジョンに生息するオーガが街道沿いに居るという時点で「どうなっている」と叫びたくなる。実際、ここに来る途中に何度も愚痴っていた。
「【疾風怒濤】!」
その憤りをオークにぶつけるかのように疾走。一瞬にしてオークの群れを駆け抜け、走った後から斬撃が遅れてオークの胸元に刻まれる。
一瞬にして胴体が両断され黒いモヤになり、辺りが黒一色の霧になり戦闘が終了する。
「やっぱ、空を飛んだ方がよくね?」
「でもアカザさん、【騎乗】下手だよね」
トゥルーの遠慮のない指摘に、アカザは反論できず無言になってしまう。未だに思うだけで動くペットの操縦法に慣れていない。【魔法の絨毯】で上空飛行はせず、【ブルたん】の背に乗り地上を移動している。
そのせいでモンスターとの遭遇が増えているわけだが、オーク50匹との遭遇は異常状態である。その前にもゴブリン、リザードマン、オオカミなどのモンスターが集団化して、こちらに襲って来る。
この中のゴブリン、オーク、リザードマンはアップデートによってNPCやキャラクターを作成できる種族になったりとするが、顔がデフォルメに崩され可愛らしくなっている。襲って来るモンスターの中にそのような顔の奴らはいなかったので問題はないと思うが、少し気になった。
それをトゥルーに聞いてみると。
「2年前くらいから、モンスターが狩られないで放置されていたからからじゃないかな」「そんなオークさんもいるの!?」とのこと。
オークがモンスターではないことに驚いていたのは、単に森から出ていない箱入り娘だからだろうと思うので、この世界でのオークの立ち位置はモンスター寄りが多いと仮定。
この世界の2年前と言うのは、前の世界の大体1か月前ということになる。その時期には【フォークロア】サービス終了のお知らせが届いていたため、モンスターを狩るプレイヤーが減少したことによる事態なのだろうとアカザは仮定した。
だがそれでも、ポップする上限は決められていたはずである。
次に考えられるのはイベント、繁殖期などの特殊な期間。それが重なってこうなったのではないかと考え直す。
そんなことをしているから。
「アカザさん前!」
「え、うぉお!?」
トゥルーの声によって思考を中断し前方を見る。前方不注意によって岩にぶつかるところをギリギリ回避する。
地上を移動することすら危ういアカザであった。
「あ、安全運転第一に……」
「アカザさんは時々分からないこと言うよね」
少し速度を落としながら進むアカザたち。エルフの村を離れてから2日経っていた。
速度が出ていないこともあるが、一番のタイムロスはモンスターの襲撃であった。
アカザは一撃で葬れるとしても、トゥルーの攻撃でモンスターを倒したことはなかったように思う。
「なぁ、トゥルーは弓スキルとか使わないのか? それでモンスターの殲滅速度を上げられるんだが」
「……在るし、使っているんだけど、あんまり効果がないの。使ってもアカザさんみたいに強力な奴じゃないし」
「何を習得してるんだ?」
「【ステルスショット】【ファンショット】【チャージショット】【アサルトショット】【レインアーロー】ぐらいかな習得しているのは」
「ちょっと待て、ランクが高いじゃなくて習得しているのがそれだけなのか!?」
【ステルスショット】は一度だけ敵愾心を上げずに攻撃ができるスキル。【ファンショット】は扇形に5本の矢を放つ範囲攻撃。【チャージショット】は弓の弦を引き絞り、力をためて矢を放つスキル。【アサルトショット】は5連続射撃攻撃。【レインアーロー】は曲射して雨のように一定範囲に矢を降り注ぐスキルである。
トゥルーが習得しているのは、【弓術】の基本スキル。
故にプレイヤーで弓を使うなら必ずランク100に達している定番スキルなのだ。
「そうだよ?」
(どうりでオークを倒せない訳だ)
弓矢や投擲などの遠距離攻撃に影響を与えるdex。
だが、基本的となるスキルを一部しか取っていない状態ならば、精々最高値に達していたとしてもdexが100もない。
だが、弓や魔法での遠距離攻撃などは本人のプレイヤースキル(ゲームの腕っぷし)が強く影響する。
普通のRPGのように戦闘開始したらターン制ではなく、リアルタイムで戦闘が進行するため何もしなければ一方的に殴られる。
更に【フォークロア】ではアクション性が強いため、自動的に攻撃を繰り出す訳ではなく、キャラクターを移動させ攻撃を回避し、移動する相手に攻撃を当てて行かなければならない。
そのため後衛は動き回るモンスターに照準を合わせ攻撃をしなければならない。無駄弾になることは避けるのは当然。そうしないと矢、【マナ】の消費、余計な敵愾心を上げてしまう。
さらにスキルの性質、スキルの適切な距離、限界射程、敵愾心の上昇量、モンスターの弱点、動き、特性。後衛用防具は防御力が著しく低く、中には自身と同格のモンスターの一撃で倒されてしまうこともある。
前衛にもモンスターやゲーム知識は必要だが、後衛の方が覚えることは多くなってくる。
そう言う意味では、トゥルーは無駄な矢を使うこともなく集団で襲って来たオオカミの俊敏さでも当てていたので下手ではない。しかし、火力不足が目立つ。
「……えっとさ、シルフィールは他に何か教えなかったのか?」
「ううん。狩りの仕方とかとか、薬草とか食べられる植物とか、森のこととか、戦い方とか沢山おそわったよ!」
「……スキルのこととかは? 【魔法】とか、【弓術】とか」
「……えっとね、教えてくれるのはお師匠さまだったんだけど、「何事も他人に聞くのは良くない。楽して手に入れる結果だけではなく、困難な過程で挫折することにも意味はある」って言ってたよ」
アカザは攻略サイトを見てやっていたこともあり、少し耳が痛かった。
シルフィール自身、スキルの習得法を知っていないだけじゃないだろうなと疑ったが、何百年も生きているエルフにスキルの知識がないなんてことにはならないだろう。森に【結界】を張ったと言ったエルフの言葉が本当なら。恐らく【陰陽術】に属する魔法は必ず彼らは持っている。
(でも、村を覆い尽くすような【陰陽術】の結界ってあったか? 精々10m~20mの範囲しかなかったはずなんだけど)
「アカザさん!」
「え、うぉ!」
また考え事をして、アカザは知らず知らずのうちに川を突っ切ろうとしていた。【ブルたん】を急停止。しかし、急停止したことによる慣性の影響で、しっかりと馬鍬を握っていないトゥルーは放り出され、アカザも落馬して尻餅をついてしまう。
「きゃ!」
可愛らしい悲鳴を上げた直後に水柱が上がる。トゥルーが投げ出された先は川で、服が濡れてしまいスケスケになってしまった。
「アカザさん! ほら!」
「冷た!」
川の水を掬い、アカザの顔に向かって水を掛けて来るトゥルーは川に落とされたことに怒っているわけではなく、子供のように水遊びがしたいだけのように思えた。
「ってか、服! 濡れて透けてるんだが!?」
「え? 大丈夫だよ。トゥルー、風邪引いたことないもん」
胸を張って答えるトゥルーだが、ピントがずれている。羞恥心という物がトゥルーには欠けているらしい。そのため、今も川の中に足を浸け、岩場をのぞき込んでいる。
それ程深い川、流れが速いというわけでもない。水の反射でキラキラと光っており、ゆったりとした流れで、微かなせせらぎの音が聞こえて来る。
アカザはこの年になって川遊びというのも気が引けて、トゥルーの様子を遠くから見ることにした。
ただ、服装が濡れて透けて、色気が出ていたので少し顔がにやけてしまう。
なにせトゥルーの肌にべったりと張り付き、薄い布生地の色と肌色とが混ざり隠している物が見えそうで、見えないこのチラリズム。男なら興奮しても仕方ないと思う。
そんな事を思っていると、邪見がばれたのかトゥルーがアカザの方に来る。
「アカザさん! 見て!」
そう言ってトゥルーが見せて来た物は黄金に鈍く輝く小石であった。何やら見覚えがあり【鑑定】してみる。
「……え?」
トゥルーの小さな手の平にあるのは【砂金】と表示される。
「きれいだねー」
無邪気に手で【砂金】を転がし喜んでいるトゥルーとは対照的にアカザは驚きを隠せない。
アイテム【砂金】
【ゴールドインゴット】に加工可能であり、【鉱物採取】で採取可能なアイテムである。だが、出る確率の高い【金の欠片】ではなく、宝石の【ダイヤモンド】並に出る確率が低い【砂金】。確立として1万回採取して、1回出てくればいい方のアイテムである。
その真価はそのまま売ることで、ゲームでは【ゴールドインゴット】1個の200キャッシュより高くNPCが買い取ってくれるものであり、単価で2万キャッシュ。
どう考えても【ゴールドインゴット】の方が金の量が多そうなのに、高いのだ。
そして、【砂金】一つで【ゴールドインゴット】が10個作られる。【金の欠片】は10個集めて【ゴールドインゴット】1個に変換されるのにである。
ゲームのシステムに突っ込むのも仕方ないが、どうなっているんだと疑問を持ってしまう。
そして、【鉱物採取】は【ふるい】で採取ポイント(砂浜などでキラキラ光っている所)での採取が必要であり、手づかみで取れるはずがない。それに、トゥルーが【鉱物採取】を取得しているとも思えない。
「沢山採って来るね!」
トゥルーがまた探しに行き、水の反射でキラキラ光っている所を探している所を見ると、水の反射化と思われた所がどうやら採取ポイントらしい。
アカザも適当に採取ポイントと思われる所に近づき手で探ってみるが何も出ない。
「……あれ? 何もないぞ?」
「え、トゥルーはまた見つけたよ」
「嘘だろ!?」
ムキになってアカザは見落としがないように、血眼になって探すが見つからない。その間にもトゥルーは手間ヒマかけずに次々と見つけていく。
こうなってくると【鉱物採取】ランク100のアカザとしては、意地でも【砂金】を見つけ出したくなってきた。ついでに【ふるい】を【インベントリウィンド】に装備し採取ポイントで採取する。
が、採れるのは【鉄の欠片】ぐらい。これでは普通に採取しているのと何も変わらない。
思わず膝を付き項垂れるアカザ。その間にもトゥルーは次々と【砂金】を採取していた。
一時間後。
「ふふぇふぇふぇ……。完敗ですよ、トゥルーさん」
「……どうしたのアカザさん」
「初心者に負ける廃人の姿だ」
「?」
ますます訳が分からなくなったらしく、首を傾げるトゥルー。
あの後、トゥルーと同じように手を使い探してみたものの見つけられたのは1粒だけ。それも、トゥルーに随伴して教えてもらってだ。トゥルーは100粒越えようかという成績とは雲泥の差である。
目の前には小さく積み上げられた【砂金】。
(見つけられないのは俺が下手だからからとして、【鉱物採取】をしたら【鉄の欠片】が出て来たのはどういうことだ? トゥルーも俺も【砂鉄】や【鉄の欠片】は見つけなかったのに)
自分の【インベントリウィンド】を開いて確認する。【自動拾得】によって【レッドワイバーン】が落とした鱗や革、爪、牙、道中のモンスターのドロップアイテム、先ほどまでやっていた【鉱物採取】による素材アイテムが自動的に【インベントリウィンド】に表示される。
採取ポイントで採取するとアイテムがドロップするのは、モンスターと同じであり、確率によって得られるアイテムは変動する。通常は確率が低いほど何度も倒したり、採取しないと得ることはできない。
故に、短時間でこれ程までに【砂金】が集まるのは余程の幸運がないと不可能である。
しかし、それはゲームとしての法則。
日本は昔「黄金の国」と呼ばれるくらい大量の【砂金】が取れた。日本文化の影響を受けている地域では、大量の【砂金】が取れるかもしれない。
また、アカザたちは手で掴んで、【砂金】を採取したのだ。
しかし、【鉱物採取】によってゲーム時代に取れていた【鉄の欠片】も採取できた。
そこにある物、そこには存在しない物の採取。
(ゲームの法則と現実の法則がごっちゃになっている。【インベントリウィンド】も取り出すのは瞬間移動みたいにできるのに、入れるのは【カバン】の中に入れなくちゃいけない。その【カバン】は拾って【インベントリウィンド】に戻るけど、それだってどこに行っているのやら)
アカザは確かめてみるために【カバン】の漆黒で塗りつぶされている入口に、入ってみようかと思ったが止めた。命綱なしで崖の上から飛び降りるようなものだ。例え空から地面に落ちて無傷だったとしても、入口が閉じていたりしたら戻ることができない。
パーティの参加も、【ランク証】が【パーティリスト】、【フレンドリスト】、【ギルドリスト】の登録になる設定を思い出し、手を触れることで参加したことになった。【パーティウィンドウ】が表示され、参加者の名前と横に【生命力】【マナ】【スタミナ】のゲージが表示される。しかし、パーティチャットはログなんて物はない。念話のような手段があると思うのだが、トゥルーに頭の中で声を掛けても理解していないので、伝わっていないように思う。
恐らく、【ランク証】が携帯電話のような機能を持っているのだろうが、トゥルーが【ランク証】を持っていないので、検証不可だった。
ステータスもあくまでダメージの変化や、キャラクターの強さを数値化した物である。
しかし、strは筋力という意味で凄まじい怪力を発生することができ、agiは敏捷性という意味で早く動くことができる。
ゲーム内で走る速度は種族の違いを除けば一定で、上げるためにはスキルや装備で移動速度を上げるしかない。だが、こちらに来てからは足に力を込めて走ると凄まじい速度で走ることができる。体感としてだが車の速さは軽々と超えている気がする。
(色々と考えても仕方ないのは分かっているんだけどな)
一人でいた時間が長いため、妄想癖や思想をすることが多かったので癖になっている。
考えているのに集中すると周りが見えなくなってくるため、近づいてきたモンスターが地図上に表示されるが少し反応が遅れる。
「アカザさん! また沢山来たよ!」
そのことにいち早く気付いたトゥルーが弓を構え戦闘態勢をとる。
「あいあい」
言われて気だるげに立ち上がり、刀を抜くアカザ。
「トゥルー、スキルは積極的に使っていくといい。こういった複数戦なら【レインアーロー】や【フィンショット】はかなり有効で、相手の足を止めるのにも役立つはずだから」
「うん、がんばる」
ただ、アカザにとっては当たり前なことを言っただけなのに、トゥルーは意気揚々としてアカザのアドバイスを受け入れる。
鬱陶しいだけの戦闘になってきたので、アカザはトゥルーに助言をして効率的に立ち回るように教えただけである。アカザは初心者を1から世話をするほど、面倒見がいい方ではない。しかし、アドバイスくらいならゲーム時代でもしていた。
救援を求めているパーティを偶然見つけて、モンスターを倒して感謝されたことも何度かある。
先程のアドバイスもそれと同じ気まぐれ。だが、アカザは何かもやもやとした感覚を拭うことができない。照れという感情なのだと思うが、あまり感じたこともなく慣れないことであり、あまり心地よくはなかった。
この感覚を拭うため精々、ゴブリンをストレス発散のために殺戮することに決めた。
獲物はゴブリン。【索敵】の効果で地図上に見える数は30体以上。
「【疾風一閃】、【疾風怒濤】」
射程距離に入った先頭のゴブリンに一瞬にして近づき両断。そこから一気に駆け抜けた後に斬撃がゴブリンの集団を襲う。あっけなく黒いモヤとなり消えていくゴブリン。
ゴブリンもオークと同じく亜人種に分類されるモンスターであり、小柄な小学生ぐらいの背丈が殆どである。そして、肌は緑色で鼻が伸びており、手に斧と小さな盾を装備している。
そして、獰猛な目とギザギザに生えた牙が醜悪な顔をしている。
モンスターとしては耐久力、攻撃力共に低いモンスターである。だが、移動速度が速く、攻撃にクリティカルが発生しやすい特徴がある。
NPCやプレイヤー側が操作するキャラクターになると、凶悪な顔が丸くなりデフォルメされる。そういったゴブリンは商売人が多いため、知能が低いというわけではない。だが、モンスターとしてのゴブリンは頭が悪い。
そんなゴブリン3体がアカザに跳びかかってくるが、トゥルーからの矢がそれぞれ喉元、頭、肩に当たり攻撃が中断される。
そして、地面に落下した所をアカザが斬りかかる。
黒の霧になり、飛び散っていくゴブリンたち。
しかし、損害等構わずに続々と現れるゴブリン。
アカザたちが倒すより、ゴブリンが攻めて来る数の方が多い。
ゴブリンが集団で襲って来るのは珍しくないが、ここまでの数と戦うことはイベントでもない限りない。
(くそったれ! 数ばっかなんだよ!)
心の中で悪態をつくアカザ。幾ら一撃で葬れるとはいえ、人海戦術を取られたら【マナ】【スタミナ】の消費は無視できない。それを知っているからこそ、やすりで体をじりじりと削られていく感覚を味わう。
そのため、殲滅速度を上げ【侍】のスキルを繋げ攻撃力を上げることを放棄して、【侍】以外の範囲攻撃を駆使して多くのゴブリンを巻き込むようにする。
「【フォースエッジ《レイン》!】」
【マナ】で作られた50本の半透明の剣がアカザを中心として、頭上から地面に向かって降り注ぐ。
数十体ゴブリンが釘刺しになり、【生命力】をなくす。
【フォースエッジ】はバリエーションが豊富であり、剣を一斉発射する《ブラスト》、連射する《アサルト》、相手の周囲を取り囲んで突貫攻撃する《シィージ》、自身の周りを取り囲んで回転し一定時間近くの敵にダメージを与え続ける《サークル》などの種類がある。
《レイン》本来は拘束という側面を持つ【フォースエッジ】1発分の威力が広範囲に降り注ぐ攻撃であり、余り威力はない。しかし、アカザの魔法攻撃力を上げるステータスintが高いためゴブリンを絶命させる威力になっている。
しかし、まだ終わらない。
「【レス・ラピッドファイア】!」
刀の先端をゴブリンの集団に向け、刃先から無色の【マナ】で作られた弾丸が機関銃のような連続攻撃を繰り出す。
蜂の巣となるゴブリンの体。
低燃費、低下力が売りの属性がない攻撃魔法。【レス】。通称無属性。
【ファイアボルト】のような火属性を持つ攻撃は、水属性に弱く、氷属性や木属性に強い優劣関係を持つのに対し、無属性はただ単に攻撃で相手にダメージを与えるだけに過ぎない。属性ダメージもなく、魔法種類の中でも最弱種になる。
しかし、幾ら弱いとはいえステータスで底上げした時のこの威力。
思わず、「今のは上級魔法ではない、下級魔法だ」と言いたいところである。
それが言えないのは、次々と襲い掛かるゴブリンのせい。
こちらの都合など知ったことではないという風に、息を吐く間もなく手に持った斧を掲げてくる。
「【フォースエッジ《サークル》】」
アカザの体を8本の剣が取り囲み独楽のように回転する。
向かって来たゴブリンは【フォースエッジ】に切り裂かれ、肉塊となって黒のモヤとなる。
相手に近づくだけで倒される。
そのことを知能がないのに本能で脅威を理解したのか、動きに戸惑いを見せるゴブリンたちに、さらにスキルを仕掛けるアカザ。
スキル群【戦闘】、【ハウリング】を発動。
「お゛ぉ゛ぁぁああああ!」
アカザが耳障りな雄叫びを上げ、ゴブリンの集団の敵愾心を向上させる。
そうすることで瞳に警戒の色を灯したゴブリンたちが、アカザに向かって来る。
しかし、【フォースエッジ《サークル》】が待ち構えており、飛んで火に入る夏の虫。
アカザも【クールタイム】がなくなった【ハウリング】を使いながら動き、ゴブリンに高速移動して近づき殲滅速度を上げていく。
そして、【フォースエッジ《サークル》】の効果持続時間が過ぎ、無防備になるアカザ。
「ちっ」と舌打ちをして後方に跳び下がり距離を取る。
【バックステップ】と呼ばれる回避スキルだが、意識して足に力を入れて使用すると、やはりゲームの時より速度が速く、一気にゴブリンの集団から抜け出すことができた。
一瞬にして移動したアカザに振り返り、突撃してくるゴブリンの集団。
そこに突如、上空から大量の矢がゴブリンの集団に雨のように降り注ぎ、進軍を止める。
トゥルーからの援護射撃【レインアーロー】である。
掛け声を出していなかったのに、タイミング良く最適な援護をしてくれることに少し感嘆するアカザ。
チャットやコマンドマイクロを使わずに、してほしい援護や最適な攻撃をするのはなかなかできることではなく、熟練したギルドメンバーでもなければ不可能である。
偶然か、確信して撃ったのか、アカザには分からない。
そのことを聞く間はなく、ゴブリンたちが立ち直している姿が見える。
そこに【陣風】を放ち、一定範囲内に真空の刃が撒かれゴブリンたちを八つ裂きにして一掃する。一時的に黒い霧が辺りに発生して、前方がよく見えなくなる。
状況が分からないが【索敵】によるとまだ殲滅できていない。
【陣風】の効果が終了して、黒い霧を突き抜けた矢がアカザに向かって飛んでくる。
「うぉ!?」
慌てて【ステップ】して身を逸らし、矢を回避する。
黒い霧が晴れるとそこには一斉に弓を構えているゴブリンの集団。
そして、背後のトゥルーが息を飲む声が聞こえた。
ここでアカザが避けると、流れ弾によってトゥルーが一斉発射によって大きく【生命力】が削られてしまう。
(トゥルーじゃ回避できないか!)
1~5発程度ならトゥルーでも避けられるのだろうが、構えている数は20は目視できる。しかも、集団の利点を生かし逃げても当たるように、数撃てば当たる面制圧するように射線を取っている。アレを全て避けるのは不可能と判断するアカザ。
「俺の後ろに隠れろ! 【センチネルバリア】!」
装備を背中に背負っていた【クロノスの鎌】に変更し、防御スキルのを使う。
アカザの前面に【マナ】を消費して作られた魔法陣を描いている壁が出現。
放たれた矢はその【センチネルバリア】に阻まれ、アカザたちには届かない。
何重もの矢をやり過ごしながら広範囲、遠距離攻撃、指定周囲攻撃、相手を一掃できる【魔法】スキルをアカザの頭の中で検索し発動する。
【ハリケーンラン】
詠唱を終え、強大な竜巻がアカザの前面に発生し、強風によって小石や水も巻き上げられる。
しかし、撃ち出す場所が違う。ゴブリンも無駄撃ちに唇を歪めているように見える。
だが、突如ゴブリンの顔が青ざめた。
誰だって竜巻が自分の方向に向かってくれば逃げ出したくなるだろう。
そして、竜巻の速度は余りにも速い。
ゴブリンたちは絶望するしかない。何せ馬が走る速度で竜巻が向かって来るのだ。
幾ら素早い動きができるゴブリンでも、馬と比べれば雲泥の差だ。自身よりも速く迫る竜巻に巻き込まれるしかなかった。
巻き上げられたゴブリンは同じように巻き上げられた小石にぶつかったり、強風によって体を捩じ切られたりして竜巻の中で死んでいく。
まだ竜巻の側面に居たゴブリンも強風によって引き寄せられ、強制的に竜巻に巻き込まれていく。
大型のモンスター。オークのような重いモンスターには動きを止められる程度だが、小型のゴブリンは面白いように引き寄せられ、まるで磁石に引き寄せられる砂鉄のような存在。
そして、竜巻が一定距離進んだ後、【ハリケーンラン】の持続時間が切れ、辺りには戦闘の爪痕を残す小川と、トゥルーが攻撃を加えた為に配分されたゴブリンのドロップアイテムである金貨と回復量が少ないポーションの小瓶が落ちていた。




