第九十話 血に染まった計画を阻止せよ!
武術大会に参加しているブラッド・レクイエム社の幹部、Zとスケルトンの目的が次第に読めてきたヴリトラ達。ビビットの遺体を手に入れる事が目的だと考えたヴリトラ達はブラッド・レクイエム社の行動を阻止する為に行動を起こすのだった。
控室から試合場へ続く通路を鋭い表情をして歩くニーズヘッグ。その後ろにはリンドブルムとラランが並んで歩き、ニーズヘッグの後をついて歩いている。
「・・・本当に俺に付いて来るのか?ヴリトラとラピュスについて行った方がいいだろう」
「ヴリトラなら心配ないよ。僕とラランはニーズヘッグがスケルトンと戦うところを観察して今後の戦いの参考にするから」
「・・・私はアイツが負けるところを見たい」
「・・・ハァ、そうですか」
溜め息をつきながら歩くニーズヘッグは若干呆れる様な表情をしてた。実はあの後、ヴリトラ達は二手に分かれて行動をする事にしたのだ。ヴリトラとラピュスはブラッド・レクイエム社がビビットの遺体を盗む可能性があると考えて彼女の遺体が安置されている部屋へ向かい警備する事にし、ニーズヘッグは次の試合を行う為に試合場へ向かい、リンドブルムとラランは彼について行って試合を間近で観察る事にしたのだ。そしてガバディアはもしZ達が闘技場を抜け出して町の外へ出ないようにする為に白銀剣士隊を連れて町の出入口を固めに向かった。
「試合の観察は客席でオロチ達がやってくれてるから心配ないだろう?試合を見るくらいならヴリトラ達かジャバウォック達の手伝いに行った方が効率がいいだろうに・・・」
「そんな硬い事言わないでよ。それにもしニーズヘッグがスケルトンに押されて殺されそうになったら誰が助けるのさ?」
「・・・それはつまり、俺がスケルトンに負けるかもしれないと思ってるのか?」
ニーズヘッグはムッとした顔で低い声を出しながら尋ねる。どうやら少し機嫌を悪くしたようだ。リンドブルムは前を向いて歩きながら話し掛けてくるニーズヘッグの背中を見ながら真面目な顔で答えた。
「初めて戦う相手に絶対に勝てるって自信があるの?それに奴等が卑怯な手を使って来るかもしれないし、保険は必要でしょう?」
「チッ、ヴリトラの同じような事言いやがって・・・」
「勿論、ニーズヘッグが簡単に負けたり殺されるなんて考えていないよ。でも、仲間を心配する事は悪い事じゃないでしょう?」
「・・・勝利や誇りよりも命の方が大事」
真面目な顔で自分を心配する少年と少女の声を背中で聞きながらニーズヘッグは歩き続ける。しばらく黙り込んでいたニーズヘッグはゆっくりと小さなため息をつく。
「・・・ハァ、悪かったよ。その代わり、俺が本当にヤバい時まで手を出さないでくれよ?あくまでも俺とスケルトンの試合なんだからな?」
「分かってる」
「・・・頑張って」
「ああ」
話をしながら三人は出入口を通り、試合場へ出た。試合場の真ん中には審判が立っており、試合場へ上がる為の階段の前ではスケルトンが腕を組んで立ってる。どうやらニーズヘッグを待っていたようだ。観客達はさっきまでのビビットとZの試合の影響か殆ど歓声を上げずに試合場を見ている。ニーズヘッグ達は周りを見ながら試合場の方へとゆっくり歩いて行く。
「皆、静かだねぇ・・・」
「サラに続いて近衛騎士のビビットまで負けた上に殺されたんだ。試合を楽しもうなんて気にはなれないさ」
「・・・陛下が折角皆を楽しませようと開催した大会なのに」
完全に楽しさが無くなってしまった闘技場を見回しながら話しているリンドブルム達。三人は試合場まで歩いて行くとスケルトンの前で足を止め、自分達をジッと見ているスケルトンを見つめ返した。
「ほぉ?Zの試合を見て逃げ出したかと思ったが、流石は七竜将。・・・まぁ、逃げられても興が冷めるだけだがな」
「相変わらず腐った連中だな、お前達ブラッド・レクイエムは・・・!」
「お客さん達はこの武術大会を楽しむ為に来てくれたんですよ?それなのに、貴方達のせいでその全てが台無しです!」
「・・・許せない」
ストラスタ公国との戦争で重くなっていたレヴァート王国の空気を少しでも和ませようと王国が開催した武術大会。それをブラッド・レクイエム社の行動でぶち壊しになった事が許せないニーズヘッグ達はスケルトンに怒りをぶつける。するとスケルトンはドクロマスクの赤い目を光らせながら笑い出す。
「フフフフフ、何を言う?この試合では死者が出ても罪にはならないというルールがある。それは即ち、死者が出る可能性があると遠回しに参加者や観客達に伝えた事になる。それを理解しなかった観客達が悪いのだ、俺達を憎むのは筋違いではないか?」
「何が筋違いだ!確かにルール説明の時にはそう言っていたが、死者を出さない事こそが一番重要だろうが!お前達はそれを知っていながらわざと二人の姫騎士を殺した、少なくともアイツ等の戦友や家族がお前等を憎んでも文句は言えない!」
「フッ、何を言い出すかと思ったら、アニメの見すぎじゃないのか?お前」
「くうううぅ!」
罪悪感を全く感じていないスケルトンにニーズヘッグの苛立ちを次第に高まっていく。それを見たリンドブルムは咄嗟にニーズヘッグを宥める。
「落ち着いて、ニーズヘッグ!戦闘では平常心を失った者が負ける、参謀である君なら分かるはずだよ?」
「くうぅ!・・・スマン」
リンドブルムの言葉で何とか冷静さを取り戻すニーズヘッグ。試合を始める前から言葉でぶつかり合うニーズヘッグとスケルトンを見ていたラランの体に緊張が走る。そんな中、レヴァート兵が駆け寄ってきて引く様な表情で二人に声を掛けてきた。
「あ、あの・・・そろそろ試合が始まるお時間ですので、試合場に上がってください・・・」
「ん?ああ・・・」
レヴァート兵に言われて渋々試合場へ上がるニーズヘッグ。スケルトンも無言で試合場へ上がり、二人は試合場の上で互いを見つめ合う。それを見た審判は客席を見ながら試合が始まる事を観客達に伝える。
「えぇ~、そ、それでは、準決勝を開始いたします。最初の試合はリンドブルム選手とヴリトラ選手の試合の予定でしたが、リンドブルム選手が他の選手の試合に乱入した事で出場停止となり、ヴリトラ選手の不戦勝となりました。よって、準決勝第二試合、ニーズヘッグ選手とS選手の試合を始めたいと思います!」
審判の説明を聞いた観客達が少しだけ騒ぎ出し試合場に注目する。死者が出たとはいえ、やはり試合が始まる事に少しは楽しみを感じているようだ。そんな観客達が騒ぎ出す中でニーズヘッグはアスカロンを抜き、スケルトンはワイヤー付きクナイを取り出して構えた。
「お前達が殺したサラとビビットとは出会ったばかりでろくな会話もしていない顔見知りみたいなもんだが、言わせてもらおう。・・・あの二人の仇は取らせてもらうぜ?」
「金さえ出されればどんな仕事もし、どんな奴等にでも従う傭兵が正義の味方のような事を言うんだな」
「何とでも言え!それに金で動くだけの存在でも、お前等よりはマシさ!」
試合が始まる直前まで言葉をぶつけ合うニーズヘッグとスケルトン。そんな二人を見て怯える様な顔を見せる審判はゆっくりとその場から離れ、試合場の隅まで来ると両手を挙げた。
「そ、それでは・・・始めっ!」
震えた声で試合開始を宣言する審判。それと同時にニーズヘッグとスケルトンはリンドブルム達が見ている中で試合を始めた。
ニーズヘッグとスケルトンが試合を始めている頃、ヴリトラとラピュスは闘技場の通路を走っていた。二人はブラッド・レクイエム社の動きを先読みし、ビビットの遺体を盗ませないようにする為、ビビットの遺体を安置してある部屋へ向かっていたのだ。
「ラピュス、本当にこっちなのか?」
「ああ、この闘技場には負傷した戦士が体を休める治療部屋があるんだ。そして、誤って亡くなってしまった人の遺体を安置しておく為の部屋もある」
「そんな部屋があるのかよ?」
「この闘技場はレヴァート王国が建国された時からある所だ。昔はこの闘技場で命を賭けた決闘をしていたらしく、決闘に負けた者の遺体を保管しておく部屋がある。今は使われていないが、団長がそこに安置してあると言っていた」
「それで、ビビットの遺体もその部屋にあるって事だな?」
「ああ」
走りながらビビットの遺体が安置されている部屋の事を話すヴリトラとラピュス。二人が通路を走っていると、その途中にある階段を下りて地下へと向かう。地下は壁灯で薄らと通路が見える程度の明るさだった。その今にも何かが出てきそうな気味の悪い通路を見てヴリトラとラピュスは表情を曇らせる。
「こ、此処なのか?」
「あ、ああ、そのはずだ・・・」
「治療部屋があるのに随分と気味が悪いな」
「今では地下は殆ど使われないからな、清掃などは殆どされていないのだ」
「だからこんなに薄暗くてかび臭いんだな・・・」
ラピュスの話を聞いて通路の臭いと薄暗さに納得するヴリトラ。だが、今はそんな事は言ってられない。二人は気を引き締め直して通路をジッと見る。
「・・・だからって行かないわけにはいかないな」
「ああ、行こう・・・」
二人は薄暗い通路をゆっくりと進んで行く。天井から水滴が落ち、ポタッ、ポタッと落ちてヴリトラとラピュスに地下の不気味さを伝える。二人は殆ど先の見えない地下の通路を静かに進んて行った。
「しかし本当に不気味な所だなぁ・・・」
「何だ、ヴリトラ?もしかして、こういう雰囲気は苦手なのか?」
「いや、そんなんじゃねぇよ」
「本当か?」
「ああ。・・・そう言うお前はどうなんだよ?」
「えっ?・・・わ、私も平気だぞ?」
苦笑いをしながら前を向いて言うラピュス。そんな彼女の横顔を見てヴリトラはジト目を見せる。
(・・・苦手なんだな)
そう言おうとしたが、口に出せばまたややこしくなると思いあえて口に出さずに心の中で呟くヴリトラ。二人は横一列に並びながら薄暗い通路をゆっくりと進んで行く。ヴリトラはチラチラと周りを見ながら進んでいるが、ラピュスはヴリトラの隣で表情を曇らせながら一歩ずつ歩いていた。
「・・・な、何だか奥の方から冷たい風が吹いて来るな?」
「そうか?」
若干震えた声を出すラピュスを見ながらヴリトラは小首を傾げる。しかもよく見ると微量の冷や汗が流れていた。
「・・・なぁ、本当に大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「だ、大丈夫だと言っているだろうう!こんな事で怯えていては騎士は務まらん」
前を向きながら声に力を入れるラピュス。そんなラピュスを「やれやれ」と言いたそうに顔を振るヴリトラ。その時、天井から水滴が垂れて来てラピュスの首筋に落ちる。その瞬間にラピュスはビクッと反応して顔が一気に青ざめた。
「キャアアァ!」
悲鳴を上げながら隣にいるヴリトラに飛びつくラピュス。
「うわっとととと!」
突然飛びつかれてバランスを崩したヴリトラはそのまま仰向けに倒れた。結果、ラピュスがヴリトラに飛びついて彼を押し倒した体勢となった。いきなり自分を押し倒して、しがみつきながら震えるラピュスを意外そうな顔で見るヴリトラ。
「う、うう・・・」
「お、おい、ラピュス・・・」
ヴリトラは頬を少しだけ赤く染めてラピュスを見つめながら声を掛ける。しばらくしてラピュスはゆっくりと目を開けた。
「大丈夫か?・・・天井から水が垂れただけだよ」
「そ、そうか・・・すまなかった・・・」
「いや、俺は平気だから・・・」
ヴリトラはゆっくりと起き上がって後頭部を軽く擦る。ラピュスはヴリトラの首に腕を回しながら未だにヴリトラに抱きついていた。
「・・・どうだ?落ち着いたか?」
「・・・あ、ああ。もう平気だ」
「そうか・・・それじゃあ、そろそろ離れてくんない?」
「え?」
「抱きつかれちゃあ、立ち難いんだよ・・・」
「・・・・・・」
ヴリトラの言葉の意味が分からず、ラピュスは視線を下した。そしてようやく自分がヴリトラに抱きついている事に気付いたのだ。するとラピュスの顔は恥ずかしさのあまり一気に赤くなる。
「~~~ッ!うあああああぁ!」
「ぶぉおおっ!?」
叫び声を上げながらヴリトラの頬を勢いよく引っぱたくラピュス。ヴリトラも突然のビンタをまともにくらってしまいまた仰向けに倒れた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
「ててててっ!い、いきなり何すんだよぉ?」
「そ、それはこっちの台詞よ!何抱きついてるのよぉ!?」
女口調となったラピュスは顔を赤くしながらヴリトラを睨む。ヴリトラもゆっくりと起き上がって叩かれた方の頬を擦った。
「抱きつくって、お前が俺に抱きついて押し倒したんじゃねぇかぁ・・・」
「な、何で私はアンタに抱きつかないといけないのよ?」
「・・・ハァ」
溜め息をついたヴリトラはゆっくりと立ち上がりラピュスに手を差し出した。ラピュスは差し出された手を掴んでヴリトラと同じようにゆっくりと立ち上がる。それからラピュスはゆっくりと深呼吸をして落ち着きを取り戻し、ヴリトラも特殊スーツに付いているホコリなどを払い落とした。
「・・・落ち着いた?」
「あ、ああ・・・そのぉ・・・悪かったな?」
ヴリトラはホコリを払い終わるとラピュスの方を向いて状態を尋ねる。ラピュスも目を背け、頬を赤くしながら元の口調で謝った。
「それにしても、お前やっぱりこういうの苦手なんだな?」
「な、何だ?騎士として見っともないとでも言いたいのか?」
「いんや、お前もやっぱり乙女なんだなぁ~って思ったんだよ」
「なっ!?お、お前なぁ~!」
ヴリトラの方を向いて頬をより赤くしながら怒るラピュス。ヴリトラもそんなラピュスの顔を見て悪戯っぽく笑う。
二人がそんなやり取りをしていると、通路の奥の方から小さな爆発音の様な音が聞こえてきた。それを聞いて驚いた二人は表情を鋭くして音のした方を向く。
「な、何だ今の音は!?」
「どうやら、ニーズヘッグの読みは正しかったみたいだ」
「急ごう!」
「ああ!」
二人は爆発音のした方へ向かって走り出す。そしてこの後、ヴリトラとラピュスは武術大会の試合以上に激しい戦いを繰り広げる事になる事に気付いていなかった。
ヴリトラとラピュスは地下通路を走っている頃、試合場ではニーズヘッグとスケルトンと試合が行われていた。ニーズヘッグのアスカロンの斬撃をかわしたスケルトンは距離を取り、ワイヤー付きクナイをニーズヘッグに向かって投げる。ニーズヘッグもクナイをアスカロンで弾き飛ばすと大きく後ろに跳んでスケルトンから離れた。試合場の外ではリンドブルムとラランがその試合を真剣な表情で見ており、観客達も少しずつ興奮してきている。
「流石は幹部レベルの機械鎧兵士、今までの雑魚とは一味違うな?」
「フフフ、口だけは達者だな?口よりも体を動かさないと大怪我するぞ?」
笑いながらそう言い放つスケルトンは再びワイヤー付きクナイをニーズヘッグ目掛けて投げた。ニーズヘッグは飛んで来たクナイを軽々とかわし、アスカロンでワイヤーを切る捨てる。ワイヤーを切られたクナイはそのまま飛んで行き、試合場の外にある水路に落ちた。クナイを失ったワイヤーを見て舌打ちをするスケルトンはワイヤーをしまい、腰に納めてある超振動マチェットを抜いて左手に持つ。そして機械鎧の右腕を変形させてラランとの試合で使った丸ノコへ出し高速回転させる。
「フッ、ワイヤーを切ってクナイを使えなくした事で更に自分を追い詰める事になってしまったな?」
「悪いが俺は追い詰められたとは思ってないんだ」
「フフフ、それは悪かったな?・・・・・・ところで、ヴリトラのもう一人の女騎士が来てないようだが、何処へ行った?」
「・・・そんな事を聞いてどうするんだ?それに、俺が素直に話すと思うか?」
「いや、思っていない・・・ただ、あのビビットとか言う女騎士の死体の所へ行ってるんじゃないかと思ってな?」
スケルトンの言葉にニーズヘッグは眉をピクッと動かす。スケルトンに悟られない様に表情は一切動かさずにスケルトンを睨み付ける。
「・・・ヴリトラ達がビビットの遺体を身に行ってるとお前等に何か都合が悪いのか?」
「いや?・・・寧ろお前達の方が『危ない』と思うがな」
「何だって・・・?」
スケルトンの意味深な言葉にニーズヘッグは再び眉を動かし来て聞き返した。そんなニーズヘッグを気にする事無くスケルトンはドクロ型フルフェイスマスクの下から笑い声を出すのだった。
それぞれ動き出したヴリトラ達とニーズヘッグ達。少しずつブラッド・レクイエム社の目的に近づいて行くヴリトラ達であったが、彼等はまだブラッド・レクイエム社の目的を分かっていない。そんな中で真の戦いの火蓋が切られようとしていた。




