第九十一話 地下で起きる静かな惨劇
ブラッド・レクイエム社の目的を阻止する為に二手に分かれたヴリトラ達。ニーズヘッグは試合場でスケルトンと剣を交え、リンドブルムとラランはそれを見守る。そしてヴリトラとラピュスはビビットの遺体が安置されている地下へと向かい、そこで爆発音を聞き緊張を走らせるのだった。
爆発音が遠くから聞こえ、通路を走り急いで爆発音のした方へ向かうヴリトラとラピュス。通路を走って行くと、奥の方から何やら異臭が漂ってきた。
「・・・何だ、この臭いは?何だか焦げ臭いような・・・」
「・・・これは火薬の臭いだな」
「火薬?」
異臭の正体に気付いてヴリトラの方を向いてラピュスは聞き返す。その臭いを嗅いだ途端、ヴリトラの表情は鋭さが増した。
「それだけじゃねぇ、微かだが火薬の臭いに血の匂いが混じってる」
「何だって!?」
「急ぐぞ!」
「ああ!」
血の匂いを嗅ぎ嫌な予感がした二人は更に速く走り出した。うす辛い通路を進んで行くヴリトラとラピュスは真っ直ぐの道と右に曲がる道のT字路に差し掛かり足を止める。そして右の道の奥にある扉から煙が出ているのが見えた。
「煙?」
「あそこだ!」
ヴリトラが煙の出ている扉へ向かって走り出し、ラピュスもその後を追う。扉の隙間から煙が出ており、その煙と一緒に扉の向こう側から焦げた匂いと血の匂いが漂って来る。それを嗅いだラピュスは咄嗟に片手で花を抑えた。
「な、何だ、この強烈な匂いは・・・」
「・・・気を付けろ、中から気配を感じる」
ヴリトラは左手を腰に回してオートマグを取ると右手に持ち替えて扉にそっと体を寄せる。耳を扉に付けて中の音と聞き様子を探り、ヴリトラの後ろではラピュスが騎士剣に手を掛けていつでも抜ける様にした。
意識を集中させ、黙りながら中の様子を調べるヴリトラ。ラピュスは体に緊張を走らせながらジッと見ている。
「・・・どうだ?ヴリトラ」
「シッ・・・・・・やっぱり誰かいるな。数は一人だ」
「どうするんだ?」
「・・・俺が先に突入する。お前は俺が入ってから十秒後に入れ」
「わ、分かった・・・」
真剣な顔で的確な指示を出すヴリトラの姿にラピュスは意外そうな顔を見せて頷く。ヴリトラは右手にオートマグを握ったまま左手で扉のノブに手を掛けてゆっくりと回して扉を押した。5cm程の隙間が開くと左手を離し、左手で扉を勢いよく押し開けて部屋に突入する。そして両手でオートマグを構えた瞬間、ヴリトラの表情は急変した。
「ッ!?・・・これは・・・」
ヴリトラは部屋の状態に目を見張って驚く。学校の教室程の広さに部屋のあちこちに焦げた跡や燃えている樽や革袋があり、壁や床に大量の血液が付着している。それも致死量と言っていい程の大量の血液だ。何よりも数人の騎士が血を流して倒れていたのだ。
部屋は廊下程暗くはなく、中の状況がハッキリと分かる明るさだ。そしてその騎士の全員が金色の鎧を纏い、白いマントを羽織っている。そう、倒れているのは全員黄金近衛隊の騎士達だったのだ。
「酷いな・・・」
あまりにも悲惨な光景にヴリトラは冷や汗を掻きオートマグを下ろす。
「どうしたんだ?」
「・・・ッ!来るな!」
部屋に入って来るラピュスを止めようと声を上げるヴリトラ。だが、一足遅く部屋に入って来てしまったラピュスは目の前の光景に驚き固まってしまう。
「こ・・・これは・・・」
目の前で倒れている騎士達の姿を目にしたラピュスは思わず一歩下がってしまう。ヴリトラはゆっくりと近くで倒れている騎士に近づき、膝をついて騎士の様子をうかがう。
「・・・チッ、ダメか」
「どうだ・・・?」
「ダメだ、もう手遅れだ」
目の前で息絶えている騎士を見た後に立ち上がり部屋中の倒れている騎士達を見回すヴリトラ。ラピュスも落ち着いたのかゆっくりと部屋に入って床に倒れたり壁にもたれている騎士達を曇った表情で見つめる。
「皆、死んでいるのか?」
「分からない、もしかしたらまだ息がある人がいるかもしれない・・・」
二人はまだ生き残っている人がいるかを確かめる為に別れて倒れている騎士達に近寄った。倒れている騎士達の殆どが刃物の様な物で斬り捨てられたらしく、深い切傷があった。だが中には何か大きな力を加えられて体が潰された騎士もいる。そんな騎士達を見て、ヴリトラはともかくラピュスはあまりにもおぞましい光景に吐き気すら感じていた。
「うう・・・」
「大丈夫か?」
「あ、ああ、何とかな・・・。それで、そっちはどうだ?」
「・・・ダメだ、皆死んでる」
「そうか・・・こっちもだ」
誰も生き残っていない事を確認した二人はゆっくりと立ち上がる。そして合流すると気分の悪そうな顔で周りを見回した。
「・・・まったく、惨い事しやがるぜ」
「やはりこれもブラッド・レクイエムの仕業なのか?」
「多分な。それに此処にこんなに沢山の近衛隊の騎士が倒れているって事は、近衛騎士が此処に用があって来ていたって事だ」
「用?」
「ビビットの遺体だろうな」
ヴリトラは息絶えている騎士達を見ながら彼等が此処にやって来た理由を想像する。ラピュスも控室でザクセンがビビットの妹のレレットが彼女の側にいるという話を思い出し、ヴリトラと同じように倒れている騎士達に視線を向けた。
「・・・彼等もレレット殿と同じようにビビット殿に会いに?」
「多分そうだろうな。仲間が殺されたんだ、悲しまないほう寧ろおかしい」
「ああ、そうだな・・・」
自分が彼等の立場ならきっと同じことをしていただろう。そう考えたラピュスの表情は再び曇り出す。だがヴリトラはラピュスを見た後に真剣な顔でもう一度部屋を見回す。
「・・・此処にビビットの遺体があった事は間違いないだろう。だがその遺体が何処にもない、そして妹のレレットの姿も」
「確かに、さっき調べて騎士達の遺体の中にレレット殿の遺体は無かった。・・・だが、それなら何処に・・・」
ラピュスがヴリトラと同じように再び部屋を見回していると、何処からか音が聞こえてきた。音に気付いた二人がフッと振り向くと部屋の隅にある小さな木製の扉が二人の目に飛び込んできた。
「あの扉は・・・」
「多分、道具をしまっておく所だろう」
ヴリトラとラピュスは音のする扉を見ながら森羅と騎士剣を抜いてゆっくりと近づく。扉に近づいたヴリトラが静かに扉のノブに手を掛けてラピュスの方を向いて頷いた。それを見たラピュスも「準備は出来た」と視線で伝えながら頷く。そしてヴリトラは勢いよく扉を引いて後ろに下がる。すると小さな扉の中から傷だらけのレレットが転がる様に出て来たのだ。
「レ、レレット殿!?」
突然姿を見せたレレットに驚いてラピュスは騎士剣を落して倒れたレレットを抱き起した。ヴリトラもレレットに近づいて森羅を床に置き、彼女の前で片膝をつく。
「レレット殿、大丈夫ですか?・・・レレット殿!」
「う、うう・・・」
ラピュスの声に反応したレレットはゆっくりと目を開けて自分を抱き起しているラピュスの顔を見た。
「ア、アンタは・・・」
「王国遊撃隊のラピュス・フォーネです。それよりも、此処で何が遭ったんですか?」
「うう・・・あ、あの・・・Zとか言う奴が突然現れて・・・仲間を皆・・・」
「Zだと!?」
レレットの口から出た名前にヴリトラは驚く。ラピュスも目を見張って驚きながらレレットを見つめていた。
「皆、必死に戦ったのだが・・・まるで勝ち目が無く・・・私は仲間が匿ってくれたおかげで・・・」
「それでこの中にいたって訳か・・・それよりも、アンタの姉さんの遺体が無いが、何処に?」
「・・・ゼ、Zがビビットを連れて行く姿が薄らと・・・見え・・・・・・」
Zが意識をビビットの遺体を持ち去ったという事を全てを言い終わる前にレレットは意識を失った。
「レレット殿!?」
「・・・大丈夫だ、気を失っただけだよ」
「そうか・・・」
「このままにはしておけないな。オロチ達に連絡を・・・」
ヴリトラが小型通信機を使い、客席にいるオロチ達に連絡を入れようとした時、部屋の外から別の物音が聞こえてきた。
「「!」」
物音に気付いたヴリトラとラピュスはレレットをその場に寝かせてゆっくりと森羅と騎士剣を手に取り、開きっぱなしの扉へ近づいた。
「何だ、今の音は?」
「さぁな・・・でも、どうやら俺達以外に誰かいるみたいだ」
「誰だ?」
「他にも生き残っていた騎士がいたか、あるいは・・・」
鋭い表情で扉を見つめながら姿勢を低くし、一歩ずつ近づいて行くヴリトラ。扉まで近づくとそっと顔を出して通路を覗き込んだ。するとヴリトラは目を見張って驚きの表情を見せる。T字路の真ん中で大きな布製の袋を担いだ黒いフード付きマントを着た大きな人影があったのだ。身長2m近くはあるその人影をヴリトラは知っており、森羅を持つ手に力を入れる。
「・・・Z!」
「何?」
ラピュスは驚いてヴリトラに近づき、姿勢を低くしているヴリトラの頭の上から顔をそっと出して通路を覗いた。そして肩に担いでいる布袋を直し、マントの中から手の平サイズの機械を取り出し、手で操作しているZの姿を見る。
「何をやっているんだ?」
「分からない。だが、アイツが担いでいるデカい袋・・・多分あの中身はビビットの遺体だ」
気付かれない様に小声でZが何をしているのか、担いでいる袋の中身がビビットの遺体なのだと話しているヴリトラとラピュス。そんな会話の中でZは手に持っている機械をマントの中へ戻し、ゆっくりと二人の方を向いた。見られた事で驚くヴリトラとラピュスだったが、Zは何もせずに地上へ上がる階段の方へと走り出した。
「しまった!逃げられた!」
「どうするんだ?」
「決まってるだろう?追いかけるんだよ!」
「だが、レレット殿が・・・」
「彼女はオロチ達に任せればいい。俺達はZを追いかけて止めるぞ!」
「し、しかし・・・」
「・・・家族の遺体が殺した奴に持ち去られるのを見過ごせるか?」
「!」
「・・・行くぞ!」
「あ、ああ・・・!」
二人は逃走したZを追いかける為に部屋を飛び出し全力で走る。走っている中、ヴリトラは小型通信機を使いオロチ達にレレットの事を、ジャバウォック達にZが逃走し、町からの出入口を固める様に伝えたのだった。
ヴリトラとラピュスがZの後を追って走っている時、ニーズヘッグはスケルトンと激しい攻防を繰り広げていた。ニーズヘッグはアスカロンでスケルトンに袈裟切りを放つもスケルトンはその斬撃を簡単に回避する。避けた後にスケルトンも丸ノコやマチェットで反撃し、ニーズヘッグもそれを回避したりアスカロンで防いだりしていた。リンドブルムとラランはその激戦を試合場の外で静かに見守っている。
「・・・チイィ!何て奴だ、攻撃も防御も隙がねぇ」
後ろに跳んで距離を取ったニーズヘッグは悔しそうな表情でスケルトンを睨み付ける。一方でスケルトンは赤い目を光らせて左手に持っているマチェットをクルクルと回しながら余裕の姿を見せていた。
「やれやれ、七人で陸上自衛隊二個中隊分の戦力と言われている七竜将の一人だから少しは出来ると思ったのだが、期待外れだったか」
「言いたい放題言ってくれるじゃねぇか?そうやって相手の力を見下していると後で痛い目を見るぞ?」
「フフフフ、今時そんな台詞は漫画やアニメの中でしか出てこないぞ?」
「俺は思った事を言っただけだ!」
スケルトンの挑発に乗る事無くニーズヘッグはアスカロンのスイッチを押して勢いよく横へ振った。するとアスカロンの刀身が伸びて蛇腹剣としての姿を見せる。遠くから突然伸びて左側から迫って来るアスカロンの刀身に一瞬驚くスケルトンは左手のマチェットを下向きに持ち、向かって来たアスカロンの刀身を止めた。だが、刀身の関節部分がマチェットで止めた所からグニャリと曲がってスケルトンの背中に向かって行く。それに気づいたスケルトンは咄嗟に右へ跳んで背後から迫って来る刀身をかわした。
「かわされたか・・・!」
背後からの奇襲に失敗したのを見て、ニーズヘッグはアスカロンを力一杯引いた。刀身は順番に連結していき、細剣の姿に戻る。奇襲を回避したスケルトンは丸ノコの腕とマチェットを構え直してニーズヘッグを見た。
「・・・驚いた。それが有名なお前の蛇腹剣か?」
「だから言っただろう?見下していると痛い目を見るって?」
「フッ、成る程な。確かに少しお前の力を見くびり過ぎていたようだ」
奇襲されたにもかかわらず動揺を見せるどころか逆に楽しんでいるような様子を見せるスケルトンにニーズヘッグや試合を見守っているリンドブルム、ラランはジッと見つめている。三人ともスケルトンに対して若干の不気味さを感じていたのだ。
「随分と楽しそうだな?」
「そりゃあそうさ、ブラッド・レクイエムの傭兵は皆、戦いをこよなく愛する者達だからな?」
「・・・ラランの試合の時もそんな事を言ってたな」
「何しろ俺達は暗殺などの殺し関係の依頼を主な仕事にしているからな」
低い声で話すニーズヘッグに対して楽しそうな声で話すスケルトン。ニーズヘッグはアスカロンを握る力を強くして手を震わせる。少しずつ苛立ちが表に出てきているようだ。
「さて、お前が雑魚でないと分かった以上、俺も全力で行かせてもらうぞ」
「今まで全力じゃなかったと?」
「ああ、全力を出さなくても倒せると思ったからな」
「テメェ・・・」
完全に自分の見くびっていたスケルトンにニーズヘッグは更に苛立ちを見せる。そんなニーズヘッグを見てリンドブルムとラランは宥めに入った。
「ニーズヘッグ!落ち着いて、冷静になって・・・!」
「・・・深呼吸」
「むぅ~っ!・・・分かってる・・・」
イライラしながらも二人に宥められて冷静さを保つニーズヘッグ。そんなニーズヘッグを見ていたスケルトンは左手に持っている超振動マチェットを捨てて左腕を横に伸ばした。すると左腕の機械鎧も右腕の様に変形を始め、先端の鋭い黒い槍のような形に変わる。右腕だけでなく、左腕までも変形した事にニーズヘッグ、リンドブルム、ラランは驚いた。
「さぁ、ここからが本当の戦いの始まりだ。全力で来ないと、死ぬぞ?」
「死ぬのは、お前を殺してからだ!」
互いに相手の目を見て構える二人の機械鎧兵士。蛇腹剣と二つの機械鎧兵器の先が光り、相手にその迫力を訴える。試合場の上に更なる緊張感が走るのだった。
地下でボロボロになったレレットを見つけたヴリトラとラピュスは逃走するZの追跡し、ニーズヘッグも試合場でスケルトンと刃を交える。二組の戦いはよりヒートアップし、更なる波乱をティムタームの町に広げようとしていた。




