第033話 〈狼煙〉
2075/4/17 p.m.4:20 仮想ルーム
悠真は広範囲技の練習を行っていた。
「空焼!!」
炎が周囲へ広がった瞬間、空気が濁る。
熱ではない。呼吸そのものが奪われていく。
悠真の受け継いだ魂炎は、本来酸素を消費せずに燃焼する。しかし、炎をコントロールから外すことで挙動が通常の炎へと戻る。それはすなわち、悠真の制御から外れた炎が渦巻くここは、酸素を食らい、毒である一酸化炭素を吐き出す死の領域となる。
「次は…炎塵!」
炎を細かく分け、連続する空間へ漂うように広げる。コントロールからは外さず、あくまで空気に乗って漂うように広げる。吸引によって少しでもこの炎の塵を吸い込めば、たちまちに呼吸器官をやられる。
「ふう、ふう、だめだな、両方とも俺のほうまでやられちまう。」
空焼は自分周辺の酸素すら奪い、炎塵は気を付けなければ自身も吸い込んでしまう。
ルーム内で訓練に付き合っている白斗が口を開く。
「おい悠真、もう四日だぞ?その技は諦めたほうがいいだろ、お前が無事じゃすまない。初日なんて炎塵を吸い込んで保健室へ再搬送だぞ、おばさんがマジでブチギレしたのを忘れたか?」
「いや、もう少しでいけそうなんだよ。しかもこれは単体で終わりじゃない。組み合わせればだいぶ凶悪になるぜ。」
「お前自身へのリスクも二倍どころじゃねぇだろ、マドレプリクトから兄さんを連れ帰るまで死なれちゃ困る。」
「ぐ、まぁ契約は交わしたし…んで、契約の上なら俺はAランク聖遺物を受け取れるはずなんだけど、契約からもう二週間以上過ぎてるぞ。まぁわかってる、学校内に持ち込むわけにもいかないのはな。三日前に学校のバリア復活していよいよ持ち込めなくなったし。」
白斗が少し目を泳がせる。
「ああ、そのことなんだが、実はその聖遺物が俺の実家にあってな。」
「実家の場所は?」
「…九州だ、一日でとって帰ってこれるが、まぁこんな時期に学校から遠出すると俺がなんか怪しまれるかもしれんし。というわけでごめん。渡せるとしても夏休みになるわ。」
「あと2カ月じゃねぇか…まぁそれでいいよ、お前が疑われるほうがまずい。」
悠真は白斗からすでにその聖遺物の詳細を聞いている。Aランク聖遺物「空骸核」、それが引き起こす奇跡の名は『空気操作』範囲内の空気中の成分を操り、使用者の精神力に応じて支配範囲は拡大する。Cランク相当の使用者であれば平均半径は約5m。だが侮ることなかれ、精神を極めたものは操作可能範囲がゆうに1kmを超える場合があり、A級の名にふさわしく都市を落とせる。
白斗が腕時計をみる。
「このあと校長に呼ばれてるだろ?時間まであと20分だ。行くぞ。」
「もうそんな時間か。」
悠真は軽く伸びをする。
「さすがに疲れてきたな。」
「そりゃお前2時間連続で能力使ってりゃな。」
二人は校庭のほうへむかう。
「ほかのアンダーガーデンのメンバーも呼ばれてるんだろ?結構重大そうだな。」
-2075/4/17 p.m.4:35 校庭-
さすがに校長室に20人近く入ると狭いのか、校長が指定した場所は校庭である。
(前回集合したときよりも人が多い。おそらく回復して戦線復帰した人たちだろう。)
悠真がそう思っていると、校長、八雲天貴が式台へ上がり、話始める。
「諸君、集まってもらった理由は簡単だ。」
校庭に響く声は大きくない。だが、不思議と全員の耳へ届く。
「先日の襲撃の主犯、マドレプリクト(madreplict) について、だ。」
周囲の空気が変わる。
「奴らの行動が活発化している。先日の襲撃だけではない。各地で能力犯罪、聖遺物強奪、失踪事件が確認されている。」
校長は淡々と続ける。
「彼らはもはや裏社会の犯罪組織ではく、一つの武装勢力だ。」
その言葉に、校庭がざわついた。
「諸君らも理解しているでしょう。連中は近いうちに、より大規模な行動へ出る。」
八雲天貴はゆっくりと生徒たちを見渡す。
「ゆえに、こちらも段階を上げる。アンダーガーデンはこれより、対マドレプリクト殲滅体制へ移行する。」
空気が凍った。ざわめきがより一層激しくなる。
「諸君らには今後、実戦任務への参加機会が増えるでしょう。もちろん死ぬ可能性もある。怖い者はいるかい?」
誰も答えない。
しかし、誰からも恐怖を感じなかった。ある者は笑い、ある者は無表情だ。
校長はふっと笑う。
「結構、ならば問おう。」
その瞬間だけ、彼の眼に異様な圧が宿る。
「諸君は、人の世の断りから外れ、世界に混乱をもたらす奴らを、ほおっておくかい?」
数人の表情が変わる。
「我々は正義の組織でも、英雄でもない。だからこそ容赦はしない。敵対する者は叩いて潰す。」
生徒たちを見渡す。
「諸君、勘違いしないでほしいが、私は平和主義者だ。」
小さなざわめきが起こる。
「死者は少ないほうがいい、街は壊れないほうがいい、子供は笑っているべきだ。それが当然であるべきだ。」
校長はそこで一拍置く。
「__だが。」
校長の目の色が変わる。
「能力というものは、闘争によって磨かれ、壁によって育つ。安全で矮小な檻の中で振るわれる力など、所詮はままごと。死を、敗北を、傷つくことを恐れ。その程度で到達できる高みなど存在しない。」
校庭が静まり返る。
「だからこそ戦え、己の限界と、敵と、運命と。」
校長の声に力がこもる。
「奪われたのなら奪い返せ。傷つけられたのなら叩き潰せ。諸君らは、そのための力を持っている。」
八雲天貴は静かに笑う。
「容赦は必要ない。」
天を指さす。
「__反撃開始だ。」
その瞬間、場にいる全員の目に戦意が宿る。
「「「――了解(Roger)!!」」」
校庭を震わせるような声が響いた。




