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33. 新春の初登校は憂鬱らしく

どうして、始業式を金曜日にするのか?

いっそ、月曜日でいいじゃないか。

世の中の学生は皆そう思っていることだろう。

俺もその例に漏れず、今日から学校が始まることに朝から憂鬱だった。


透子は3学期以前と変わらず、仲の良い女子達のグループで登校するようだ。女子同士の繋がりをおろそかにするつもりはないらしい。それはそれでよいと思う。


一方、俺はまだ誰にも俺達のことを打ち明けてない。別に隠すつもりはないが、わざわざ喧伝する必要もないだろう。真っ当な男子は他人の色恋にわざわざ首を突っ込んだりしないものだ。


というわけで、俺も途中で合流した級友達と近況を聞きながら登校した。俺の場合、剣道くらいしか話題がないのは周知されてるので、特に自分から話題を振ることもない。恋人ができたなんて、誰も想像だにしないだろう。


何事もなく教室に着き、自分の席に座る。すると、田口が話しかけてきた。


「よお、クリスマスのピアノ演奏はどうだった?」


何となく、口調にイヤラシさを感じる。


「ああ、よかったぜ。生の演奏っていいもんだな。」


俺はテキトーにあしらうことにした。


「いや、そっちじゃなくて、女子とデートだったんだろ?どこまで行ったんだよ?」


真っ当じゃない男子がいたようだ。何となくクラスの連中も聞き耳立てているような気がする。まだ透子は来てないし、わざわざ本当のことを教える必要もないだろう。


「デートじゃねえよ。共通の知り合いが演奏するから、一緒に行っただけだっつうの。それに演奏会が終わったら、さっさと帰ったよ。」


うん、嘘は言ってない。楽祭の時点ではまだ付き合ってはいなかったから、あれはデートではない。限りなくそれに近かったような気もするが。


「ちぇっ、冬休みの間、そのことばかり気になってたのに。つまらねえなあ。」


コイツ、どんだけヒマなんだよ。


田口が自分の席に戻ると同時くらいに、透子達が来た。とりあえず、教室内では自然に振る舞おうと事前に話を合わせてある。透子の席は俺の斜め前だ。近づいて来て目が合う。


「おはよう、涼太。」


スクールバッグには俺がプレゼントしたアクセサリーがいい感じでぶら下がっている。


「おう、おはよう、透子。」


よし、ごく自然に挨拶したぞ。

少し緊張したが、ふふん、このくらい余裕だ。

と思ったが、何故か教室中の人間が俺達に注目している。

しかも、微妙な緊張感を持って。


あれ、俺なんかやっちまった?

透子を見ても、分からないって顔してる。


すると、隣の席のヤツが恐る恐る聞いてきた。


「あの、涼太···三木谷を名前の方で呼んで、いいのか?」


あ···


クラス中が聞き耳を立てながら沈黙をしてる。

透子は顔を真っ赤にしてる。


俺は観念した。



「いいんだよ。俺の女だ。」



クラス中に歓声と悲鳴が響いた。


「マジかー、涼太!いつからだよ?クリスマスか?やっぱり、クリスマスなのか!」


「三木谷さん、本当なの!?え、マジ?ウソでしょ!」


俺のとこには男子達が、透子には女子達が殺到した。

そして、興奮した様子の田口が詰め寄ってきた。


「ちょっ、待てよ涼太!さっき、何もなかったって言ってたじゃねえか!しかも、透子とだと!?」


俺は腕を伸ばして田口の胸ぐらを掴み、教室の壁に押し付けた。突然のことに、皆が驚いて静まり返る。


「いいか、田口。透子を名前で呼んでいいのは俺だけだ。俺の女だからな。分かったか?」


田口は慌てて頭を縦に振った。

掴んでいた手を離すと、その場にへたり込んだ。


再び教室に歓声が湧き上がった。

もう、どうにでもなれ。




「お騒がせしてすみませんでした。」


教室の騒動に驚いて駆け付けてきた担任教師に職員室へ連れて行かれ、事情を説明させられた。


「まあ、周りが勝手に騒いだというのは分かった。しかし、原因は君にあるのは間違いないようだから、注意するようにね。あと、個人間の付き合いに口を挟むつもりはないが、今回のようなことにならないように、学校内では自重すること。いいね。」


「はい、分かりました。」


「しかし···君も大変だな。」


最後は呆れたように苦笑いされながら言われた。


教室に戻ると、まだ少しざわついてるが、もう俺のとこに人が詰め寄ってくることはなかった。田口と目が合ったが、向こうがすぐに逸した。


透子のいる席に行った。

周りにいた女子達がそそくさと場所を空けた。


「すまんな、透子。やっちまった。」


「バカ···でも、ありがと。」


透子はかつての芝居がかった口調ではなく、ごく自然に笑顔で言った。






小学3年の時、私はクラスの数人から虐めを受けた。


嫌なあだ名をつけられそうになって、私にこんな名前を付けた祖父を恨んだ。


自分の名前が嫌いだった。


しかし、同じクラスのある男の子が助けてくれた。


それ以来、私はみんなから名前ではなく、苗字で呼ばれるようになった。


でも、私はその助けてくれて男の子に、あえてお願いした。


二人きりの時は名前で呼んでほしいと。


大好きになったその子から呼んでもらったら、自分の名前を好きになれるような気がしたから。


その男の子は何年も経った後も忘れずに約束を守ってくれた。


でも、その約束という名の呪縛が今日解かれた。


その男の子が、その男の子だけが、いつでも私を名前で呼んでくれることになったから。


もし、私がこの名前じゃなかったら、私達の接点はずっとなかったかもしれない。


そう考えたらこの名前も、案外、悪くなかったのかもね。


ありがとう、おじいちゃん。




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