第446話 邪神と強欲神 後編
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未来兵器群が生み出されてから邪神の姿が見えなくなった。
だが、現在も邪神の白い世界を俺の黒が染め上げている最中であるため、邪神が今も変わらず同じ空間にいるのは間違いない。
時折、未来兵器群の陰から放たれてくる神の雷霆も邪神が健在であることを示していた。
七つある眼の内、額にある単眼で空間の支配権奪取の進捗率を確認し、上段の一対の神眼で邪神の姿を探しながら、空飛ぶ戦艦が撃ち放ってきたエネルギー砲を無力化する。
【叡智蒐神星髄】による分析によれば、あの飛行戦艦は惑星間を往来できる性能を持つ宇宙戦艦らしい。
エネルギー砲も前世の有名な核兵器何万発分もの熱エネルギーを有しており、〈強欲神〉状態の今の俺が喰らったらどれほどのダメージを負うか少し気になるところだ。
「まぁ、エネルギー補給には良い攻撃だな。神力ほどではないが、少しは足しになる」
現在の〈強欲神〉状態を維持するには、神性存在や神器固有のエネルギーである神力が必要だ。
その専用権能たる【星戯の始まり】の各種能力を使用するのにも神力を使用する。
魔力でも代用可能だが、エネルギー比率が一万対一なので魔力の代用は非効率だ。
神器には使用者の魔力を神力に変換する基本機能があり、一見して魔力を消費して能力を行使しているように見える神器は、この機能で神力を生み出した上で能力を発動している。
この変換効率は直接的に魔力を代用するのに比べればマシであり、変換効率は帰属している神器の数が増えれば増えるほど向上するという特徴を持つ。
俺は数多の神器と帰属しているため、神器一つの場合よりも変換効率は格段に良いが、それでも〈強欲神〉の力を十全に振るうには全く足りていない。
そのため、対象物を分解してエネルギー化して吸収し、直接的に神力へと変換できる〈蒐奪神手〉は積極的に使っていく必要があった。
「神力の備えはあるが、出来れば使いたくないな」
円盤型戦闘機が搭載している空間圧壊兵器で俺がいる座標の空間を丸ごと破壊しようとしてきた。
その空間干渉エネルギーを奪うことで無効化すると、【強欲神ノ虚空神星権圏】で円盤型戦闘機がいる空間を同じように圧壊させた。
「空間ごと破壊しても無事とは、やはり別時間軸の壁で確定か」
空間が圧壊しても円盤型戦闘機は健在で、その表面装甲は虹色に輝いていた。
相対している未来兵器群は、その印象通り〈未来〉の時間軸から読み込み〈創造〉された兵器だ。
〈未来〉の情報を元に〈現在〉に兵器を〈創造〉しただけならば、それは未来の技術を先取りした現代兵器でしかないため、普通に破壊することができる。
だが、邪神は〈未来〉の兵器を〈未来兵器〉というデータのままに時間軸ごと〈創造〉しているので、〈現在〉の時間軸に在るようで実際には〈未来〉に在るという状態の兵器が出来上がった。
普通は不可能だが、そこは元〈創造神〉故の〈権能〉のおかげなのだろう。
〈現在〉から〈過去〉へ干渉できないように、〈現在〉から〈未来〉へ干渉することもできない。
その〈未来〉という俺が認識出来ない時間軸の壁に守られているため、現在の攻撃は通じないようだ。
あちらの攻撃が遠距離攻撃のみである理由も、時間軸の壁の影響で近接攻撃は自他問わず接触できないからだと考えれば説明はつく。
偽エクスカリバーを手放し、凡ゆる物質を対消滅させる反物質弾を連射していた機械天使へ千手で殴りかかるが、虹色の輝きを放つ装甲面の手前で拳が強制的に停止してしまう。
至近距離から放たれた反物質弾を躱わしながら再び距離を取る。
「〈創造〉だけでなく、〈権能〉レベルの時空間能力もあるよな」
前の異世界ではここまでの時空間能力は持ってなかった。
新たに得た能力か取り戻した本来の能力か知らないが、その〈権能〉による時間軸の壁を破るほどの出力が、今の俺にはない。
そう、今の俺には、だ。
「権相偏移── 〈界守十二天手〉」
これまでに蓄積した神力を一気に大量消費して、背後の〈萬奪羅千手〉の千手を百ずつ束ねて圧縮していく。
翼を模していた触手のような千手は、強靭な力強い十の手と化する。
生身のモノと合わせて十二の手は、在るが儘に奪う神の手ではなく、世界を守る天の手へと至った。
世界を守るということは、世界自体へ干渉することに等しい。
その解釈は世界が内包する凡ゆる時間軸にも及ぶ。
〈強奪〉の出力を更に向上させた今の俺は、〈未来〉すらも奪い取る。
「〈蒐奪神手〉」
十二天手を未来兵器群へ向けて〈蒐奪神手〉を再発動させる。
未来兵器群を守る虹色の輝きが震えるように激しく明滅した後に消滅し、莫大なエネルギーの流出が起こる。
時間軸の壁を構成したエネルギーの剥奪に続けて、未来兵器群が粒子状に分解していき、十二天手へ吸収されていく。
大量消費した神力が再び満たされるのを感じつつ、〈強奪〉の力を周囲へと広げる。
その強奪範囲の中で最も抵抗の大きい空間へと十二天手の力を集中させた。
すると、不可視化を成していた隠身能力が剥ぎ取られ、隠れていた邪神が姿を現した。
「それが最終形態か?」
「Irakis。Owamasik Usoat Oniesuonak Adatagus」
未来兵器群を囮にして時間を稼いだ邪神は、俺に勝利する可能性が高い自らのカタチを〈創造〉していた。
見た目は純白の羽衣を纏った玉虫色に輝く無貌の人型の発光体で、純白の羽衣からは同色の触手が無数に伸びて翼を模している。
背後には虚無の如き黒い円環が渦巻いており、全体的に〈強欲神〉の俺を彷彿とさせるカタチをしていた。
「Enis」
「グッ!?」
白色の閃きが邪神から放たれた瞬間、俺の全身の至るところに白い穴が穿たれた。
黒地に白いインクを垂らされたように侵してくる傷を十二天手で剥ぎ取り治癒する。
今の〈蒐奪神手〉ならば、他者限定で傷を奪い癒やす〈負奪〉も自分自身に行使できる。
そうでなければ今の一撃で終わっていたかもしれない。
「……俺に勝つと騙るだけはある」
「Adutiziz。Onami Omedamasik Awotokusukutiabu Uniked」
俺の強奪出力を上回る量のエネルギーが創造され、その超過したエネルギーを以て放たれた白色の閃光が再び俺の神体を貫いていく。
甘く見ていたつもりはないが、俺に勝つために時間を掛けて準備をしていたのは伊達ではないらしい。
俺から奪ったスキルも、〈時間〉と〈創造〉の二段構えの未来兵器群も、その全てが囮。
一連の戦いを通して最新の俺のデータを収集し、それに勝利する理想のカタチを創造するのが、邪神の真の狙いだったようだ。
目の前のコレすらも囮だったら打つ手は無いが、コレ以上の力を用意できるならば、わざわざ俺の肉体を奪うことに拘らずとも自力で復活できるはずだ。
願望混じりの予想でしかないが、俺が第七神星特異点〈欲望/願望〉という謎の存在だからか、その願望が真実であるという確信が俺の中にはあった。
「災終戦相── 〈窮極戦勝救世手〉」
神力の備えとして保管していた、神力への代用が可能な星の力である〈星戦〉の勝利報酬〈星域干渉権限〉のエネルギーを消費し、十二天手を最終段階へと移行させた。
背後の十の手が生身の双腕へと統合され、〈強奪〉の力が極限にまで高まる。
凡ゆる勝利を掴み救世へと至る手は、溢れんばかりの黄金の光と共に俺の制御力を越える出力の〈強奪〉の力を解き放つ。
その影響で俺がいる一帯の白い空間があっという間に黒く染まっていく。
背後の黄金円環〈星簒奪界光背〉は、無数の星の煌きを瞬かせる宇宙の如き色彩へと変化しており、その色は金属鎧のような神体の黒と同じ、貪欲に凡ゆる呑み込む虚空の色を体現していた。
加速度的に漆黒へと染まっていく世界に対して、邪神の全身から更に膨大な量のエネルギーが解放され、黒く染まる世界を再び白く塗り直していく。
邪神の玉虫色の神体に大小の黒い亀裂が入ったのを見るに、あの状態を維持するのは邪神にとっても負荷が大きいらしい。
絶え間なく白と黒に塗り直され続ける世界から意識を外すと、邪神へと救世手を構えた。
「お互いに時間が無い。すぐに終わらせてやろう」
「Ahonurawo Aduohonamasik」
神体の限界までエネルギーを増幅・創造させた邪神が極大の純白の閃光を放つのに合わせて、俺も強奪・破壊の力を秘めた漆黒の救世手を繰り出して閃光を打ち消しながら邪神へと突き進んでいった。




