第422話 城塞都市サウロア
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「──圧巻だな」
ロンダルヴィア帝国の最南端にある城塞都市〈サウロア〉。
その都市近郊には第七皇女アナスタシアの派閥に属する者達が派兵した軍団が集結していた。
輜重部隊などの後方支援組も合わせれば十万を超える兵数になり、一つの派閥が動員できる戦力としては屈指の規模だ。
実際に戦闘を行う数は七割ほどとはいえ、戦力の質は他の皇子皇女の派閥よりも大きく上回っていた。
サウロアでは全ての兵力を収容できないため、城壁の外に兵士達の仮設の宿舎などの建造物が建てられており、その様はまるで軍事基地のようだ。
前哨基地というには規模が大きく、敷地面積だけで言えば隣接するサウロアを上回っている。
サウロアは〈太母の魔王〉がいる南部の大森林を監視するために作られた城塞都市なので、都市規模はそこまで大きくはない。
だが、仮にも城塞都市なので数千人が居住できるだけの広さがあり、そんな都市を上回る規模の仮設基地が短期間で建てられたのは、ひとえに俺が動員した賢塔国セジウムの魔塔員達のおかげだ。
「これで我が魔塔の懐も潤うな」
「そうね。かなり高い出費だったけど」
「俺の試作兵器の貸与込みだから安いものだろ?」
「分かってるわよ」
サウロアの領主館にある皇族用貴賓室の窓から郊外の仮設基地を眺めていると、背後からナイトガウン姿のアナスタシアに声を掛けられた。
「おはよう。起こしたみたいだな」
「そろそろ起きる時間だったから構わないわ。カーチャは?」
「まだ寝てるぞ」
「無理させたんじゃないでしょうね?」
「そんなことはないぞ」
昨夜はどちらかいうとエカテリーナの方から襲われた感がある一夜だったし。
今も分身体は寝ているエカテリーナに抱き枕のようにされていて、身動き一つできない状態だ。
一応アナスタシアの侍女兼護衛のはずなのに熟睡しているのは、俺や仲間達への信頼と捉えていいんだろうか?
「まぁ、いいけどね。それで、こんな朝早くから私の部屋に来るなんてどうしたの? しかも本来の姿で」
「貸与した〈ゴエティア〉の各搭乗者に合わせた最終調整が先ほど終わったから、その報告に来た」
「あら、早かったわね」
「そこは俺が一から作った兵器だからこそだな。俺基準で作ってるから、各搭乗者に合わせてリミッターを掛けるだけで済む」
視線を再び仮設基地に向ける。
その一画には外からは中身が一切見えない漆黒の巨大な直方体が三つ並んでおり、その自走式格納庫に入っているのがゴエティアこと人型魔導兵器〈魔神装騎〉だ。
「〈栄光魔神〉〈滅弓魔神〉〈炎間魔神〉だったわね」
「ああ。俺が魔塔経由で貸与したのはその三機で合ってるよ」
ユニークスキル【神魔権蒐星操典】の内包スキル【魔権顕現之書】の派生スキル【魔権複写】で生成した魔権系ユニークスキルの写本を使用した人型魔導兵器〈魔神装騎〉。
今は見えないが、有機的なフォルムと機械的な兵装を兼ね合わせた構造をしており、機体ごとにデザインは違うが全体的な雰囲気は良く似ていた。
共通点としてコックピットがある胸部には各魔権の写本の表紙に記された印章が刻まれている。
〈生廃の魔王〉との〈星戦〉で得た勝利報酬〈理外なる万能生命細胞〉で作った生体金属製強化筋肉や、様々な面で活用できる高度な演算技能が備わった西方大陸の魔導機具技術を応用して作られたコックピット型魔導機核、鋭敏かつ精密な操作性を齎してくれる精霊力で構築された精霊回路など秘匿技術を惜しみなく使った傑作機だ。
使用する魔権系ユニークスキルは帝王権能級でなければ他の機能との調和が取れないのと、必須素材の一つである神域級素材〈星鉄〉の余裕が無いため、現時点でゴエティアは九機しか建造できていない。
同じく必須素材の〈理外なる万能生命細胞〉のように培養して増やせるなら楽なのだが、〈星鉄〉ばかりは〈星戦〉の勝利報酬である宝鍵に頼るしかないだろう。
今回の〈太母の魔王〉戦で良いアイテムが無かったら迷わず〈星鉄〉を選ぶつもりだ。
なお、残る六機のゴエティア〈法環魔神〉〈滅翼魔神〉〈地毒魔神〉〈聖炎魔神〉〈海洋魔神〉〈錬金魔神〉は、異界にある俺の固有領域〈強欲の神座〉に格納したままなので地上にはない。
「使用する武器次第では、〈勇者〉でなくても魔王相手に戦える試金石になるだろう」
「でも一機はリオンが乗るんでしょう? 正しくは分身体の一つが、だけど」
「その分身体もランスロットも魔王に有効な勇者の聖気は使わないから、非勇者基準でも間違ってないさ」
グシオンにはアナスタシアが、レラジェにはエカテリーナが、バティンには分身体がそれぞれ搭乗する。
俺自身も忘れそうになる親族設定を活かして、魔王に挑む親戚に黄金の魔女が助力する形だ。
フリッカは俺の妹設定だし、俺の黒の魔塔がアナスタシアの派閥の魔王討伐に協力する繋がりで参戦している。
フリッカでも魔塔主の妹としての立場で黒の魔塔には出入りしていたので、魔塔員達が働いている現場にいてもおかしくはないだろう。
「魔力特効の聖気を使わなければ勇者ではないというのは詐欺な気もするけど……ところで、そこに転がってるのは?」
アナスタシアが向けた視線の先には黒装束達が転がっている。
部屋の隅に転がる四人の黒装束達は白目を剥いた状態で倒れており、死んではいないが全員気絶していた。
「第七皇女派閥が魔王殺しを果たすのを良しとしない勢力が放った暗殺者だ。彼らを無力化した時の物音で起こしてしまったようだな」
「なるほど……どっちの派閥の手の者かしら?」
「厳戒態勢のサウロアに侵入した上に、此処まで忍び込めるほどの腕前の暗殺者だ。良くも悪くも単純な第二皇子派の貴族が飼ってるならもっと早く使ってるだろう」
仮に俺が無力化しなくてもアナスタシアの寝室前を守る影の護衛達が命懸けで阻んだだろうけど。
影の護衛達は俺とアナスタシアの関係や秘密を知っており、彼女に絶対の忠誠を捧げているので俺が此処にいるのを吹聴することはない。
ちなみに、気絶させた暗殺者達に俺の姿は見られていないので、こちらからも俺のことがバレる心配はない。
「つまり、上の兄上か。まぁ、そうでしょうね。長子相続派の貴族達からすれば、女である私が自分達の上に立つのは面白くないか」
「どちらかといえば、今の既得権益を他種族に奪われる可能性があるのが一番の理由だろうな」
「ふむ。慎重な性格の兄上らしくないから、派閥の貴族の独断かしらね」
「たぶんな。気絶させただけだから尋問とか後のことは任せるよ」
「分かったわ」
アナスタシアが手を軽く振ると、彼女の寝室前の物陰からメイドの姿をした複数人の女性が現れ、気絶した黒装束達を担ぎ上げて部屋から去っていった。
「ゴエティアの最終調整が終わったのは良いけど、他の機甲錬騎の調整は?」
「二種共に部下達が全力で取り組んでいるよ。ティターンは今日中には終わるはずだ。ギガスは明日には終わると思う」
開発コード〈成長〉だった〈ティターン〉は、従来のロンダルヴィア帝国製機甲錬騎の発展型だからロンダルヴィアのメカニック達でも調整することができる。
だが、〈永遠〉という開発コードが付けられていた〈ギガス〉は完全新型の機甲錬騎なので、開発した黒の魔塔の開発チームでなければ完璧な調整は難しい。
いずれロンダルヴィアのみでも調整できるようになるだろうが、現段階では開発チーム達に任せた方が確実だ。
新型は発展型よりも調整可能な人数が少ないため、どうしても時間がかかる。
幸いにもギガスはティターンよりも数が少ないので、今日は無理でも明日には調整が終わるだろう。
「まぁ、どうしても終わりそうにないなら俺がやるから、明日には必ず完了させるよ」
「それなら大丈夫そうね。だったら、作戦開始は二日後とするわ」
「了解した」
この数年でティターンとギガスという新たな機甲錬騎が開発され、その実戦テストも行われた。
派閥の勢力も数年前と比較して格段に上がったし、アナスタシア個人もレベル八十に達し、今やSランク冒険者相当の力を持つに至った。
伝え聞く〈太母の魔王〉の情報に合わせて対策を練っている上に、念のためゴエティアも投入するので不安は一切ない。
魔力特効にして魔王特効と言える勇者の聖気無しで挑むという状況は中々新鮮なので、結構楽しめそうだな。




