第421話 開拓に向けた動き
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神迷宮都市アルヴァアインが俺の領地となってから数年が経つ。
アルヴァアインは巨塔こと神造迷宮がある以外は特筆するようなことがない土地だったが、俺が〈星域干渉権限〉を用いて霊地化を行なった結果、国内有数の肥沃な土地へと生まれ変わった。
魔王達との〈星戦〉で勝利して得られる報酬である〈星域干渉権限〉は、一言で例えるならば星の環境を改変する力だ。
この力を扱う者によって干渉範囲は異なり、通常は魔物の生息域を変化させるなどが限界だが、俺は指定した土地から星の力である星気が放出されるようになる霊地化まで行うことができる。
現時点でここまでできるならば、超越者になれば更に別の使い道が生まれる予感がする。
そういった理由もあり、直近で倒した複数の魔王との〈星戦〉で獲得した星域干渉権限は使わずにキープしている。
このキープ分を消費せずとも、アルヴァアインの土地は霊地化で豊かになっており、その範囲は俺の領地となる以前に築かれた城壁の外側にまで広がっていた。
それらの土地も有効活用すべく、数年前に新たな城壁も建造した。
アルヴァアインの非常に高い人口密度を解決するための対策でもあったが、霊地化した土地を管理して莫大な利益を得るのが一番の目的だったと言っても過言ではないだろう。
新たに築いた城壁内の土地には今や多くの人々が住んでおり、そこから入る税は莫大だ。
行政府からの報告によると、現在の税収は俺が領主になる前の倍以上になっているらしい。
それだけ拡張した土地の価値が高かったことの証明だと言える。
まぁ、家族単位で入植する者達には多額の補助金を出したりもしたので、その政策の効果も大きかったんだろうけど、それも拡張した豊かな土地があってこその成果だ。
人口も食料自給率も格段に上がり、領主としても鼻高々だが、それでも全く問題が無いわけではなかった。
「南部の土地の開拓ですか?」
「ああ。アヴァロンのオークションで稼いだ金は南部の開拓資金に充てるつもりだ」
皇帝直轄領時代から引き続きアルヴァアインの代官を任せているクロウルス伯爵に開拓計画を説明する。
神迷宮都市アルヴァアインの南には鬱蒼とした森林が広がっている。
以前からアルヴァアイン一帯の大地の力を奪っていた場所であり、今は霊地化の影響を間接的に受けて、今や樹海と言えるほどに繁茂していた。
星域干渉権限に含まれている環境固定効果によってアルヴァアインが樹海に呑み込まれることはないが、だからといってそのまま放置していると、いずれ強力な魔物が誕生する可能性があった。
既にそれなりに強い魔物の姿も確認されているので、樹海を切り拓くならば早い方がいい。
樹海がある土地もアルヴァアイン地方エクスヴェル領の一部なので、開拓して有効活用すべきだろう。
「これは……本当に稼ぎましたな。税収分だけでも開拓は可能だったでしょうが、これだけの追加資金があれば余裕を以て行うことができるかと」
クロウルス伯爵に手渡した資料には投入する資金の内訳が記載されており、そこには先日のオークションの分も記されている。
最後のトリを飾った〈侵し喰む竜王の覇剣〉は、〈竜王〉の素材を使った伝説級の魔剣とあって百二十億オウロでの落札となった。
最終的に全部で約三百億オウロの落札額となり、そこから諸経費を差し引いた約二百億を開拓資金に投じる決断を下した。
「今は冬だから、動き出せるのは春か夏頃からか?」
「資材や告知などの準備と人員の招集に掛かる時間を踏まえますと、早くて今年の初夏頃になると思われます」
「夏か。それまでには戻ってこれそうだな」
「巨塔の深層部への大遠征でしたか」
「ああ。クランの活動実績と俺のレベル上げを兼ねて下層の先にある深層部まで行くつもりだ。中継拠点都市からも遠いから時間は掛かるだろうな」
大迷宮界域と呼ばれるほどに広大な巨塔の第一大階層は、エリア帯の難易度を五つに分類している。
出入り口の巨大門がある第一エリア帯とその周辺の一桁番号のエリア帯が〈表層〉と呼ばれており、冒険者の数は最も多い。
第十エリア帯から第二十エリア帯を〈上層〉、第二十一エリア帯から第五十エリア帯を〈中層〉、第五十一エリア帯から第七十エリア帯を〈下層〉、第七十一エリア帯から第二大階層へと通じるエリアまでを〈深層〉と呼んでいる。
そのうち、第一中継拠点都市アインブルクは第三十一エリア帯にあり、三年前ほどに建造したばかりの第二中継拠点都市ツヴァイブルクは第五十六エリア帯に存在する。
それよりも深部となると維持管理が大変なので、今のところは計画は立っていない。
深層に近付くほどに各層ごとの魔物の平均レベルが上がり、攻略難易度も上がる。
ツヴァイブルクがある第五十六エリア帯よりも深いエリア帯ともなると活動する冒険者がおらず需要がないのも理由の一つだが、中継拠点都市が建造できるだけの広さがある比較的安全な場所が無いのも理由だった。
ただ、中継拠点都市よりも小規模の場所ならば発見しているので、大遠征時はそこにクラン拠点を築いて活動することになるだろう。
「それじゃあ、南部の樹海の開拓準備は任せた」
「かしこまりました」
クロウルス伯爵に後の手配は任せて行政府を後にする。
貴族らしく馬車に乗って──馬車と言ってもホースゴーレムが引くゴーレム馬車だが──市内を移動して回り、関係各所へ顔を出していく。
領主になってからは馬車での移動時は、馬車の警護に騎士達が同行するようになった。
この騎士達よりも俺の方が強いのは言うまでもないことだが、領主としての権勢を領民達に分かりやすく示すには必要な存在だった。
騎士達一人一人の強さは最低でもBランク冒険者相当であり、身に付けている騎士装備一式も遺物級と叙事級で構成されている。
等級が下の遺物級の魔導具の相場が数百万オウロ──前世の円換算だと、アルヴァアイン基準で数千万~数億円ぐらいになる──ほどで、一つ上の叙事級の装備も合わせて全部で十点近くある。
それら装備一式が支給されている騎士達は相応に強く、戦いに身を置く者達が集まる神迷宮都市で装備の等級に気付かない者はいない。
いや、一定以上の強さを持っている者ならば装備の価値に気付くと言うべきか。
そんな騎士達を連れ回した影響もあるのか、騎士登用試験を受ける人数は回を重ねる度に増えていた。
「レティから言われて護衛を付けるようにしたが、想定以上に効果があったな」
「何のことですか?」
「騎士達の登用」
「そのことですか。受験者が増えたのはそれだけが理由ではないでしょうが、将来騎士として働く自分の姿が想像できるのは違うでしょうね」
馬車に同乗しているリーゼロッテの言葉に頷く。
公爵家の当主の馬車を警護するとあって、同行している騎士達は上級騎士の〈灰天騎士〉だ。
灰天騎士専用装備〈灰威ノ天覇魔鎧〉と〈灰威ノ天衝矛〉が叙事級で、装身具系魔導具などの細々とした装備が遺物級にあたる。
エクスヴェル公爵家の騎士になれたからといって上澄みにあたる上級騎士になれる者は滅多にいない。
領主になった初期の頃のように俺が集中して鍛え上げるなら話は別だろうが、今はそんな暇はないからな。
「騎士と言えば、あちらはどうなのですか?」
「あちら? もしかしてロンダルヴィアか?」
「はい」
「今は〈太母の魔王〉との戦場に向けて派閥の戦力を南下させている最中だ。数が数だから準備が整うまでもう暫く掛かりそうだ」
ロンダルヴィア帝国にて活動している分身体で見聞きした情報からそう判断する。
結果的に俺も参戦した去年の多数の〈勇者〉対〈生廃の魔王〉の一戦の際、勇者側が苦戦したという情報はロンダルヴィア帝国にも届いていた。
その情報を元に戦力の拡充が行われたため、年を跨いで今の時期まで〈太母の魔王〉討伐が延期することになった。
実際には〈勇者〉である俺も第七皇女の騎士として身元を偽って参戦するが、基本的には一般戦力のみで挑むことになっている。
アナスタシアが自らの派閥の力を以て魔王討伐を為し、その魔王の支配領域である熱帯雨林を開拓できれば、次代ロンダルヴィア皇帝の座に王手をかけられる。
だがそこに魔王討伐の実績が多く、他国の重鎮である俺が参戦してしまうと話が変わるため、俺が直接動くわけにはいかない。
まぁ、間接的に協力する分はアナスタシアが働きかけた結果であり成果なので構わないらしいので、その方向性で助力している。
そのため、アークディア帝国公爵であり〈勇者〉のリオンではなく、賢塔国セジウム黒の魔塔の魔塔主であり〈賢者〉のリオンとして戦力拡充の件に協力していた。
「巨塔の遠征前に魔王討伐でレベルは上がりそうですね」
「派閥の総力を挙げて戦うから得られる経験値はかなり減るはずだから大丈夫さ」
「リオン以外が魔王にダメージを与えられるとは思えませんが……」
「最近面白い物が作れてな。ちょうどいいからアナスタシア達へ貸し出した。アレらなら魔王が相手でも結構なダメージを与えられるはずだ」
「武器ですか?」
「武器と言えば武器だな」
武器というよりも能力拡張兵器というのが正しいかもしれないが。
遊びで作ったにしては強力なものができたので、〈太母の魔王〉戦でも役立ってくれることだろう。




