第404話 勇者達 前編
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「──だから、〈生廃の魔王〉の討伐には私が適役だと言っているだろう!」
室内にとある〈勇者〉の高い声が響き渡る。
少し前から続いている押し問答に声に怒気の混じり出した真竜人族の妙齢の美女〈溶炎の勇者〉フラメア・メルトティアスは、自分の意見に反対する勇者を睨み付ける。
「属性の相性だけで決められても困りますわ。ワタクシ達〈勇者〉が〈魔王〉との戦いで得られる物は名誉や経験値だけではありませんの。〈星戦〉に勝利することで出現する魔王の宝鍵でしか手に入らない宝物の価値は計り知れません。それを欲する物は大勢いるのに勝手に決められるのは不愉快ですの」
フラメアの対面に座る天人族の美女〈富穣の勇者〉キャロライン・ゴルドリッチは、その豊かな胸を見せ付けるように胸の下で腕を組みながら澱みなくスラスラと言い放つ。
「理解できましたか? いえ、これでも理解できないのでしょうね。先ほどから同じことの繰り返しですもの」
「同じことを繰り返しているのはそっちの方だろう! この脂肪の塊が!」
「ワタクシのこれは豊かさの象徴ですのよ。まぁ、山も谷も無い貧相な貴女には分からないでしょうけど」
「何だとッ!?」
金髪碧眼の抜群なスタイルを誇るキャロラインから煽られ、スレンダーな身体付きのフラメアが烈火の如く怒る。
気に入らない物は生物や非生物、人や魔物に関係なく燃やす苛烈な性格をしているフラメアを煽っても平然としているのは、流石は彼女と同じ冠位勇者と言うべきか。
〈生廃の魔王〉と戦う勇者を決める会議も今日で三日目。
勇聖祭自体は既に四日目で日程の半分を過ぎており、そろそろ具体的な中身を決める必要がある。
会議二日目の昨日で、超越者〈機怪王〉にして〈不朽の勇者〉であるカイは封印下にある〈怒轟の魔王〉の相手をすることに決まった。
その魔王討伐の準備のためにカイはレギラス王国へ一旦帰国しており、この場にはいない。
勇聖祭最終日の閉幕式には戻ってくるそうだが、それまでは国の方にいると思われる。
昨日の会議の進行をある意味で妨げていたカイも含めると、会議の場に集められた勇者は全部で十三人。
その内、俺とカイを除いた十一人から〈生廃の魔王〉と戦う勇者を決め、閉幕式で発表することになっている。
「ま、まぁまぁ。二人とも落ち着いてください。お二人の主張は分かりますけど、一先ず冷静になってから話し合いましょうよ」
女性勇者二人の諍いを仲裁しようとしている黒髪の青年は、〈偽権の勇者〉キョウヤ・スーズキだ。
黒髪黒目という凡庸でありながら特徴的な容姿を持つ二十歳ほどの人族の青年であり、別の世界から迷い込んだ異界人だ。
ちなみに、キャロラインもキョウヤと同様に〈転移者〉と〈異界人〉の隠し称号を持っている。
一見すると同じ冠位勇者なのもあって関係がありそうだと思ってしまうが、この世界に来た時期も異なるので特に何の関係もないらしい。
「横から口を出さないでくださいませんか? あと、ワタクシの胸ばかり見ないでください」
「そうだ! 横から口を出すな! その不快な目を潰すぞ!」
「ス、スイマセンッ!?」
二人の女性勇者から軽蔑の目を向けられ、机に頭をぶつけそうなほどの勢いで反射的に頭を下げるキョウヤ。
まぁ、キャロラインの胸の谷間を見て鼻の下を伸ばしてたのは事実なので擁護はできないな。
フラメアの言う不快な目というのはイヤらしい目付きのことなのか、それともキョウヤの特殊な魔眼【偽権の魔眼】のことを言ってるのか、どっちなんだろう?
〈偽権の勇者〉という冠位称号によりキョウヤが獲得した【偽権の魔眼】の効果は、簡単に言えばコピー能力だ。
目視するだけで能力をコピーすることができるが、理解出来ない能力はコピーできず、様々な条件によって成功確率は変動する。
また、完全にコピーできるのは同格の相手までであり、格上であれば格上であるほどコピーできる能力は劣化し成功確率は下がっていくそうだ。
「ワハハハハッ! 確かに男として見ないわけにはいかないだろうな! なぁ、セイラス!」
以前、神前試合でも戦ったことのある〈八公聖〉の一人〈剣星公〉にして〈剛剣の勇者〉エーギル・ザンバットが、三人のやり取りを見て豪快な笑い声を上げる。
同意を求められた〈八公聖〉の一人〈聖槍公〉にして〈護槍の勇者〉セイラス・ロンド・ミーレムは、その涼しげな顔に困ったような笑みを浮かべてから肩を竦めた。
「キャロライン女史が魅力的なのは事実だが、彼女に限らず他の方々も全員魅力的な女性だぞ」
「ワハハハハッ! 流石は女好きらしい見境のない答えだな!」
「はぁ。生粋の女好きである君と一緒にしないでくれ。私は紳士なだけだ。あと、横に座っている奥方に睨まれてるぞ」
「ワハハハハッ! コイツの可愛い嫉妬は今に始まったことじゃないから気にするな!」
エーギルの横に座っている彼の〈聖者〉が怖い顔で見ているが、彼は一切動じていない。
自分で言った通り、本当に今に始まったことではないのだろう。
強力な剣の収集と女を抱くことが趣味である巨漢の戦人族は、〈生廃の魔王〉の討伐に興味はないらしい。
穂先に布を巻いた聖槍ロムルタを携えたまま座っているハイエルフ族も、読み取った感情から魔王討伐に対する関心が薄いのが感じられた。
エーギル同様にセイラスと会ったのも神前試合以来だが、後日彼と俺には意外な繋がりがあることが判明した。
どうやら、セイラスは何処ぞのエルフの国の王族の血を引いているらしく、その国というのがリーゼロッテの祖国という噂だ。
年齢的にはリーゼロッテの親世代だと思うが、根っからの長命種であるエルフ種は年齢からの推測はあまりあてにならない。
国を出てかなりの年月が経っているそうなので、エルフの国との繋がりは薄そうだ。
「全く。喧しい場所だよ、此処は。うん。誰も彼もが自由奔放だ。まさに勇者。マナーに限らず法則や公式に捉われないとは素晴らしいな。だからこそ私は数字を見て、理解し、更なる高みへと飛躍してみせるのだ!」
「……何言ってんだ、アイツ」
「彼のアレは普段通りの姿だろ」
「ああ、そういや変態だったな。久しぶり過ぎて忘れてたぜ」
眼鏡をかけた理知的な見た目をした賢人族の男性が謎の独り言を叫ぶ。
〈改算の勇者〉アルト・クラ・ランバートの痴態にエーギルとセイラスが呆れた視線を向ける。
数字を愛する数学者であり大魔法使いでもあるアルトは、その冠位称号の効果によって、自らが理解している現象の数字に干渉し改変することができる。
改変できる範囲に限界はある上、生物自体には通じないなどの制限はあるが、自らの行使した魔法への干渉ならば負担が少ないので、規格外の威力の魔法を低コストで行使可能だ。
中々にチートな称号効果だが、本人が引き篭もり気味の生活をしているので、その力が公の場で発揮される機会は殆どないらしい。
「……相変わらず個性的な方々ですね」
「ご主人様。お茶のおかわりはいかがですか?」
「もらおうかな」
シャルロットとエリンの言葉に二つの意味で頷く。
エリンが淹れてくれた紅茶に口をつけながら他の者達の様子を窺う。
アルカ教皇は一応この会議の議長のはずだが、女性勇者二人の諍いを諌めずに俺と同じようにお茶を楽しんでいた。
もしかして横に立つ護衛のジークベルトが給仕をしたのか……なんか似合うな。
傍観者のアルカ教皇とジークベルトから通常の勇者達の方に視線を動かす。
通常の勇者とは、冠位称号を持たない〈勇者〉のことを指す。
ここにいないカイも含めた十三人の勇者のうち、通常の勇者は五人いる。
他にも通常の勇者はいるそうだが、此度の勇聖祭に参加している中では五人だけだ。
その内の一人は隣にいるエリンであり、勇者達の中で最も新しい〈勇者〉でもある。
「十三人以上もいると、あまり希少性を感じないな」
寧ろ、この場にいる〈聖者〉達の方が数が少ないので、こちらの方が希少性が高いと錯覚してしまいそうだ。
場所も考えずに武力行使を行おうとする女性勇者達に視線を戻す。
さて、このまま様子見を続けても話が進みそうにないし、そろそろ動くとしようか。




