第405話 勇者達 後編
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「──皆さん、少しよろしいですか?」
声に魔力を込めて発言すると、言い争っていた女性勇者達も、視線の怪しい異界人も、どこか他人事だった八聖公達も、数字の変態も、冠位を持たない勇者達も、そして傍観していた教皇達の全員が俺の方へ意識を向けた。
有効範囲は限られるが、声を張り上げずとも自分の声を離れた場所に届けることができる魔力制御の小技を使って、全員の耳に俺の声を行き渡らせる。
「先ほどから思っていたのですが、件の魔王との戦いを勇者一人のみで挑む前提で話されていませんか?」
「それってどういう意味?」
俺の言葉に真っ先に反応したのは、属性的に相性が良いのを理由に〈生廃の魔王〉との一戦に意欲的な〈溶炎の勇者〉フラメアだった。
〈富穣の勇者〉キャロラインとの言い争いによって燃え上がった炎は鎮火しておらず、その熱量を保ったまま此方を睨み付けてくる。
「かの魔王は生まれたばかりですが、その力は非常に厄介なものだと推測されています。いくら冠位持ちとはいえ、勇者一人では対抗策が限られていますので、勝率は低いでしょう。無駄に勇者を減らすことになってしまいますので、万全を期すためにも複数人の勇者で挑むのが最善だと進言しますよ」
「……私が負けるってこと?」
「まぁ、端的に言えばそうなりますね」
「ッ!!」
俺の正直な発言を受けて、フラメアが全身から炎を発してきた。
フラメアが発する炎は、〈溶炎の勇者〉の称号効果によって固体にも液体にも似た性質を持つ炎である〈溶炎〉と化すことができる。
たった今フラメアが発している炎も溶炎化しており、その炎は揺らめくことなく、しっかりとした形を持った形状へと転じていた。
炎の刃を全身から生やした炎色の鎧を纏ったフラメアの視線を受けながら、彼女の周囲へと視線を向ける。
見るからに高熱量の炎だが、フラメアの傍の椅子や机、近くに座る者達への被害は一切ない。
その称号効果によって炎が発する熱すらも完璧に制御されているらしく、激昂しているように見えても心は冷静さを保っているようだ。
此方を威嚇するような姿に苦笑しつつ、世界へ新たな秩序を紡ぐ。
「室内は〈火気厳禁〉ですよ」
「えっ?」
【無限源喰の世界龍】の【循環ノ秩序】で会議室内に限定秩序を展開し、フラメアの炎を強制鎮火させた。
勝手に溶炎が消えたことに戸惑いの色を隠せないフラメアが再び炎を発しようとするが、〈火気厳禁〉の秩序が解かれない限りは火炎系事象は発生することはない。
この場にはいない超越者のヴィクトリアが持つ神域の炎ならば、秩序を破壊して炎を行使することもできるかもしれないが、ただの冠位勇者でしかないフラメアの炎では不可能だ。
「このように例え相性が良くても、それが封じられたりした途端に打つ手が無くなります。特化した能力とは諸刃の剣なのですよ」
「くっ……」
悔しそうにしながらも返す言葉はないようで、フラメアが再び椅子に腰を下ろした。
代わりに彼女と言い争っていたキャロラインが俺へと話しかけてきた。
「エクスヴェル公爵の言うことは尤もですが、複数の勇者で魔王に挑んだ場合は報酬はどうなるのでしょうか?」
「魔王の宝鍵ですか?」
「宝鍵もですが、その使用後に出現するという宝箱についてもです」
「私の口から答えてもいいですが、せっかくこの場には聖下もいらっしゃるので、聖下から教えていただいたほうが信用性は高いかと思われますが、いかがでしょうか?」
「構いませんよ。複数の勇者による魔王討伐の前例はあります。その時は、戦闘に参加した全ての勇者の元に宝鍵が現れたという記録があります。宝鍵やその後の宝箱の中身についてですが、各々の戦果の良し悪しで異なっていたそうです。もっとも、一人で挑んだ場合よりは宝物の量は少なかったようですけどね」
私からお教えできることはこのぐらいですね、と最後に言ってからアルカ教皇は言葉を切った。
アルカ教皇直々の説明とあって説得力はあったらしく、フラメアとキャロライン以外の勇者達からも魔王討伐に対する前向きな空気が漂ってきた。
「お答えいただきありがとうございました、聖下。というわけですが、納得していただけましたか、キャロライン殿?」
「ええ、納得しましたわ。正直申しまして、ワタクシも一人で魔王に勝てる自信はありませんでした。頑張れば宝鍵も宝箱も手に入るならば、複数の勇者で挑むというエクスヴェル公爵の案にワタクシも賛成致しますわ!」
俺のドラウプニル商会のヘビーユーザーでもあるキャロラインの目が、商会に置いている品を見ている時のようにキラキラしている。
地理的にゴベール地方のアヴァロンの方にある支店によく来ているのだが、来店する度に大量に買い物をしていくお得意様だ。
主に前世の地球にある物を再現した品を購入しており、初来店時に店頭に並べていた風呂とトイレへの食い付きっぷりが凄かった。
最近だとインスタント食品にハマっている印象が強く、つい先週も爆買いしていた。
化粧品や美容系の品などは定期的に購入しているし、まさにヘビーユーザーだと言えるだろう。
余談だが、キャロラインと同じ異界人である〈偽権の勇者〉キョウヤも最近アヴァロン支店に買い物に来るようになった。
キャロライン同様、初来店時に地球式の風呂とトイレに反応していたのが印象的だったな。
「うーむ。複数の勇者による魔王討伐か。それならば宝を手に入れやすそうだな。どう思う、セイラス?」
「いいのではないかな。君は女、私は国のためにも安易に自分の命を懸けることはできないが、他にも魔王と戦う勇者がいるならばメリットがある。エクスヴェル公は参戦しないのか?」
「単独ではそのつもりでしたが、チームで挑む場合はどうするか考えていませんでしたね。聖下から〈生廃の魔王〉との一戦は、他の勇者の成長へと繋がる場とのことですが……」
アルカ教皇の様子を窺うと、彼女は少し考え込むかのような姿を見せてから口を開いた。
「魔王討伐の主力になられると場を設けた意味がありませんので、サポート程度なら構わないでしょう」
「承知しました。では私は他の勇者達のサポートにまわりましょう。そのサポートも最低限ですね?」
「その方針で構いませんよ。複数の勇者で魔王に挑む上に、魔王討伐の経験が豊富なエクスヴェル公のサポートがあるならば、勝利は約束されたものでしょうね」
アルカ教皇の言葉が最後の後押しになったのか、他の勇者達も次々と魔王討伐へ参加する意思を示していった。
最終的に殆どの勇者が〈生廃の魔王〉の討伐への参戦を表明した。
現時点で参加しないのは三人の冠位無しの勇者だけだった。
その三人の勇者も所属する国家に伺いを立てる必要がある故の不参加であり、今日の会議の後に確認を取るそうだ。
この場にいる全ての勇者が参戦するならば、〈聖者〉も合わせると二十人近い大人数での魔王討伐戦になるだろう。
勇聖祭の残りの期間は、実際に〈生廃の魔王〉と戦う際にどう動くかの話し合いになりそうだ。
〈護槍の勇者〉セイラス・ロンド・ミーレム。
代表スキルはユニークスキル【聖槍と聖杯の守護騎士】。
〈剛剣の勇者〉エーギル・ザンバット。
代表スキルはユニークスキル【豪放磊落の大英雄】。
〈改算の勇者〉アルト・クラ・ランバート。
代表スキルは【狂器の改算術】とユニークスキル【時間と洞察の魔権】。
〈溶炎の勇者〉フラメア・メルトティアス。
代表スキルはユニークスキル【赫熖なる守護竜】。
〈富穣の勇者〉キャロライン・ゴルドリッチ。
代表スキルはユニークスキル【豊穣と繁栄の守護王】。
〈偽権の勇者〉キョウヤ・スーズキ。
代表スキルは【偽権の魔眼】とコピーしたユニークスキルが複数。
〈勇者〉エリン・ヴァナル。
代表スキルはユニークスキル【戦勇猛進の戦乙女】。
〈勇者〉カナン・メンフラル。
代表スキルはユニークスキル【音楽と樹禍の魔権】。
現時点で参加する勇者達とその能力はこんなところか。
ここに聖剣などの武器や防具が加わるので、俺を抜きにしても戦力は十分だ。
残り三人の冠位無し勇者が加われば更に戦力が上がる。
魔王一体に最大で勇者十二人で挑むとか過剰戦力な気がするが、これならサポートは最低限でも問題ないだろう。
一人あたりの報酬はかなり減りそうだけど、その分だけ安全性が増すので、その辺はトレードオフの関係なので仕方ない。
俺も〈生廃の魔王〉から報酬が手に入りそうだし、どんな財宝が獲得できるのか今から楽しみだ。




