どうしようもなく
「セオ」
「はい」
その頃、セシルの書室にはセオドアが居た。
久しぶりに二人きりで話したいと言われたのだ。俺も、お披露目会の前に話したいと思っていたから喜んで来た。
けれど、様子がおかしい。
父上の顔が強ばっているのだ。
「………………セオ」
「………………はい」
そして、ひたすら名前を呼ばれる。モジモジしてるから何か言いたいことがあるのだろう。父上の性格は分かっているから気軽に待てた。
そのセシルは、しばらくそのやり取りをして、やっと意を決したように問うた。
「______アミィール様のことは、好きか?」
「え?」
予想外の問いに変な声が出た。質問の意図が分からないままでいるセオドアにセシルは続けた。
「何があっても、どんな事があっても____お前は、アミィール様を愛し続けられるか?」
なんだか含みのある言い方だ。
何が言いたいのだろう?どうしてそんなことを聞くのだろう?
疑問は多々ある。けれど、答えは決まっている。
セオドアは口を開いた。
「______はい」
「………………本当に、愛し続けられるのか?途中で投げ出すなんて出来ないぞ。お前の力だってある。アミィール様の負担になるかもしれない。
それでも、…………傍にいたいのか?」
負担、という言葉が心にのしかかる。
それは嫌だ。……………確かに今の俺は負担になるかもしれない。いや、なっているだろう実際。
でも。
「私は、アミィール様を心より愛しています。……………もう、ダメなんです。アミィール様以外の女性が目に入らないくらい………………私はアミィール様の虜になってしまった。
負担であれば強くなります。
何かあっても私が支えます。
_______どうしようもないんです」
セオドアは、顔を赤くしながら照れるように笑った。
セシルは胸を痛めた。
セオドアがアミィール様と結婚して何かがある訳じゃない。寧ろ国の為になるし、一年離れただけでここまでセオドアが成長するのだから、共にいれば更に立派になることだろう。なにより、セオドアがアミィール様を心の底から愛しているのが、今の言葉で伝わってきた。
何も問題は無い。けれど……………アミィール様を初めとするサクリファイス皇族の抱えている不安要素は、沢山の決意は『愛している』だけでは支えきれないほど大きく強いもので。
____この様子なら何も知らないのだろう。
____それをアミィール様は選んだのだろう。
その上で、セオドアを愛したのだ。
………神というのは、運命というのは、いつだって残酷だな。
セシルは立ち上がって、息子の頭を掌でぐりぐりと押し付けるように撫でて、泣きそうな顔を笑顔に変えて笑った。
「……ハハハッ、なら、いい。流石私の息子だ!
だが、お前のイチモツはでかいからな、しっかりと念入りに愛して差し上げなさい」
「?……!ち、父上!なんてこと言うんですか!?そ、そそそ、そのようなこと………!!」
それはもうタコのように真っ赤になる息子。……この子はいい子だ。自信を持って言える。
きっと、いつか気づく。その時____必ずや、愛する人を救えるだろう。
「ん?それとも、もう仕込んであるのか?それはいかんなあ」
「し、してないですってば!私は!アミィール様を大事にしたいのです!」
真っ赤になりながら慌てる息子を、愛らしい瞳で見つめながら頭を撫でたのだった。




