八章
「おはよう、座敷童子さん」
「昨晩ぶりだな。おはよう、ハナコ」
次の日に訪れた中庭はいつも通りで、昨日まで自分が死の危険を抱えていたとは思えないほど平和だった。
旧校舎の床に座った私の膝上にいつのように座敷童子さんが座る。
「……郁子さんは、私と一緒だったの?」
昨日、あの後頭の中を整理したが、あの親しげな様子は郁子さんも私と同じ力を持っていたのだろうと察した。
じゃないと座敷童子さんと面識があることがおかしいのだから。
「あぁ、そうだ。お前と同じ見える力を持ち、中学の時は今のお前のようにわしのところに通っては遊んでいた」
座敷童子さんはなんてこともなく答える。
なるほど、私はこの力が家系に関係しないものだと思っていたが、私の祖先の誰かに霊感持ちがいて隔世遺伝してるのかもしれない。
「高校に入ってから疎遠になったが、たまに様子を見に来てはいたのだ。それがいつからか、なくなった。わしが見えていた者にはよくあることだからな、郁子も大人になったのだろうと気にしておらんかったが、まさか、死んでいるとは思わなんだ」
「座敷童子さんにも、何も言ってなかったんだ」
「ああ。何も聞いておらんかった。何も、気付けなかった。昔から、思い悩んでは苦しむ子だったのだ。もう少し、しっかりと見守るべきだったかもしれん。過ぎたことを言っても仕方がないがな」
座敷童子さんは子供、というよりこの学校の生徒、教員を心から愛している人だ。
きっと本当に悔しいんだろう。
特に、自分が関わっていた子となるとその思いは強いはず。
慰めにならないけど、私は座敷童子さんの頭をゆっくりと撫でる。
「まあ、長く生きてればそういうこともあるよ。どんまい!」
「慰めが雑だ。だが、ハナコ、お前は何かある前にわしに言えよ」
「はいはい、頼りにしてます」
「……いつでも、別れというのは、悲しいものだな」
座敷童子さんは寂しさを含んだ目で遠くを見つめる。
彼女は人より遥かに長い命を持っている。
だから、今までもたくさんの別れを経験している。
それが悲しくて、だから、その時、私は心に決めたのだ。
「大丈夫、座敷童子さん。私、頑張るから」
「……ん? 何をだ?」
「何でも! まあ、待っててよ。私が卒業してからも、ずっと」
私の言葉に、座敷童子さんは目を瞬かせる。
今はその反応で十分だ。
私はこれからこの中学校を卒業し、高校に入り、大学に通い、就職をする。
座敷童子さんとは離れてしまうだろう。
人は出逢い、そして別れるものだから。
でも、信じてほしい。いつか再び会える時がくると。




