一章
『中庭の旧校舎には座敷童子がいる』
そんな噂を今どき中学生にもなって誰が信じるというのだろうか。きっと、誰も信じていない。だってそうじゃなければ誰も中庭掃除をさぼって旧校舎の玄関で寝ないし、ふざけて粗末に扱うなんてことしないだろう。
トイレの右から四番目のドアをノックして花子さんを呼ぶのも、階段を降りるときに「飛び降りさん!」なんて叫んで降りると死んでしまうなんて都市伝説を信じるのも、小学生で終わりだ。
それでも例外っていうのは世の中にいくらでもいるわけで、世間一般的にそのような人を変わり者というのだけど、困ったことに私もそんな変わり者の一人である。
というのも、私はおそらくこの学校で唯一、座敷童子の噂を信じているのだ。いや、信じているというのは少し違う。正確には‘知っている’のだ。私は昔から‘知っている’。
この世にはありえないものが存在していることを。そしてそれらと深く関わるとろくなことにならないことを。だから、今までもずっとなるべく関わらないようにしてきたというのに。
「おい、ハナコ。手が止まっておるぞ。はよう次のページをめくれ」
「だから私の名前はハナコじゃなくて華だって、座敷童子さん」
「わしだって座敷童子じゃなくてつくも神じゃと言っておろう」
こうもはっきりと意思疎通をして、しかも私の膝の上に座ってマンガを読むようなモノと関わらないほうが無理だった。
旧校舎の座敷童子は確かに存在していた。この校内を自由に闊歩し、生徒を見守り、教員を見張る、この旧校舎の‘つくも神’として。




