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斑鳩の柩 - イカルガのクルス -  作者: Code-Alice/コードアリス
第壱話: 亡霊 - Ghost -
8/8

シーン7

 音の消えし世界に相克するは、真紅(あか)青藍(あお)の亡霊。

「ねぇ、ヒルデリカ……」

 燦然とかがやく天狼星(シリウス)を頭上に。

「ファントムが口ずさんだ歌の、本当の歌詞を知ってル?」

 アインからの精神侵食を受けたクルスは、己を窮地に追いやった少女に問う。

「ワタシの祖国の歌詞では、“蝶々、蝶々、菜の葉にとまれ”なの。――この指とまれ、なんて……アハハ、まるで欲シがりな子供だね」

 魔人となりしクルスのまなこに映るは、

「そう、まるであのときのワタシのように……」

 ゴースト・ドライではなく、最愛の妹を奪おうとする怪物の姿。

「お父さんモ、お母さんも死ンじゃった……。ワタシのせいで、異母姉妹である澪の両足も失わせてシまった……」

 赤雷に包まれしアインは、エメラルド色の眼光を闇に放ち、

「あのときワタシが――星を見に行こうなんて言ワナケレバッ!」

 血の涙を流すクルスは、慚悔の叫びを上げる。

 そんな傷だらけの少女の姿に。

「雪坂クルス……」

 操縦桿を握り締めたヒルデリカは、雷剣の威力を増幅させ、

「それでも私たちは……羽ばたかなければならない」

 蒼き稲妻と化したドライと共に突撃を敢行。

 そして地球を(いだ)く黒龍が咆哮を上げる中、

「――ヒルデリカアァーーッ!」

 精霊の住まう月で繰り広げられるは、咎人たちの剣戟舞踏(ブレイドアーツ)

「雪坂クルス。共に思いを剣で語ろう。――そして運命に挑もう」

 テクノロジーにおぼれ……

 代償として地球(ほし)を失い……

 それでも、たとえ万死に値するほどに愚かであろうとも、

「断罪の炎に焼かれながらも、空を目指したイカロスのように」

 あるいは憎しみの剣を引っさげ、神に挑んだ堕天使(ルシファー)のように。

「それが蝋の翼を与えられた……」


 ――私たちの、宿業(さだめ)なのだから。


「あ――あああァァァッ!」

 極超音速の徒花たちは、運命にあらがうかのように切り結びあう。

 いつか柩で眠るそのときまで。

 はかなき蜉蝣(カゲロウ)のような生の瞬間を、墓碑銘として魂に刻むかのように。

「わたしは……」

 やがて大破した亡霊たちは停止し、自己修復をはじめ……我へと返ったクルスは、露出したコックピットに降り立った少女の姿を認める。

「ヒルデリカ……」

 月のトワイライトの中。力なく伸ばした右手を握り返してくれた銀髪の少女の微笑みを。

「雪坂クルス……。地球(こきょう)を取り戻すため、貴方の力を貸してほしい」

 その日、雪坂クルスは――ゴースト・アインのパイロットに選ばれた。


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