表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
過去作品(更新停止)   作者: 遊観吟詠
第三章 泊地パラス・アテネ
92/105

4-(22) 天括球2

 第七戦線は、天括球(てんかつきゅう)と名付けられた小惑星を中心とした戦場である。


 主戦場は、他の戦線と違い四百年周期で公転する惑星周辺。そう。ここはいわゆる重力圏での戦いが展開されていた。


 小なりといでも天括球は、恒星の周りを回り、ほぼ球状で、その軌道上に他の天体を持たない、という惑星の三原則を満たしていた。天括球のサイズは、いまは、オリジナルムーンとかアポロムーンとか呼ばれる人類発祥の地である地球の衛星ほどの大きさの小さな惑星だ。

 

 より正確にいうと、フライヤ・ベルクと名付けられた大量の岩石やガスの滞留宙域は、この天括球の存在で成り立っている。天括球の大きさに見合わない強い重力と、四百年という長期的な公転周期が、フライヤ・ベルク宙域に安定した環境をもたらし、人類が安全に採掘可能な巨大資源地帯を出現させていた。

 

 そんな第七戦線天括に参月義成は到着。

 第七戦旗艦のリットリオ級戦艦リットリオに乗り込んだのだが……。


「まさか本当に、男の天国(ハーレム)が待っているとは……」


 いま、俺がいる部屋は、薄暗い部屋に反比例した派手な電飾。

 革張りのソファーに座る俺の左右には、バニーと、なんだこれは巫女なのか? 襟元がずいぶんはだけているが、そうだろう。とにかく、いま、俺の左右にはメロンヶ丘とスイカ連峰。腰はくびれて鎖骨はガラス細工のように華奢きゃしゃなのに、胸部にはいますぐ顔をうずめてしまいたくなるような巨大な母性の塊が二つも。いや、左右にあるから合計四つ。


「か、完全にキャバクラじゃないか……。しかも度が過ぎる」

 

 俺が自制心を保つためにうめくと、左右からはギュウギュウと柔らかい圧がきて……。


「え、なにいってるの義成特命の歓迎の飲み会よ?」

「そうよもっと楽しんで」

「ほ~ら飲んで飲んで。わたしぃ。お酒の強い男の人好きだなぁ」


 なるほど。これは総司令部から送り込んだ使者が全員アキノック将軍側に寝返るわけだ。総司令部が送り込んだのは、真面目というのが個性の平均的な男性だろう。

 星系軍人は、高い倫理観を叩き込まれるだけに、許されるとタガが外れたように堕落ケースがあると軍図書館の心理学系論文で読んだことがある。医療部の精神内科の軍医達のあいだでも指摘されていることだ。真面目なやつほど反転しやすいと。


「アルコールはダメです。脳細胞にいい影響はないし、健康にも良くない」

「えー! 飲めないのー! 義成くんの歓迎会なのよー」

「かったーい。私そういうオフでも軍人ですって感じの人って嫌だなぁ。あ、でも下半身が固いのは好きよ」

「あ、私もそれなら好きー」


 な、なんて下品なやり取りなんだ。幸か不幸か真面目な俺はこういった場所には、慣れていないので逆に冷静だ。そして、ギュウギュウと両側から押し付けられる胸。首に絡みついてくる腕はしっとりとして、美人の体温とはこうも心地よいのか。

 ……なるほど世の男性が、こういった店に通い詰めてしまう理由がいま理解できた。いままでバカにしていたが、これはハマるやつはハマるだろう。


「酒は飲みたくないだと? お前は天儀みたいなこといいやがるな」

 といったのは、俺の正面に堂々と座る大男。スラリとした痩せ型の印象男だが、身長は190センチ以上。容顔雄偉しがんゆういのこの男の貫禄は抜群だ。この人こそ前の戦争の大英雄の宇宙最速の異名をとるクイック・アキノック将軍だ。

 アキノック将軍は、素晴らしい体格に派手な軍服。威風堂々とした見た目で、外見だけなら天儀総司令よりよほど総司令官に見える。


「アキノック将軍これは……」

「天儀は飲めるくせに、酒は飲みたくないってやつなんだよ。弱くなるとかいってな。結局飲むけどよ」

「アキノック将軍!」

「チッ。なんだよ」

「この遊興は度が過ぎていると考えます。いますぐ解散してください。自分は迷惑です」


 ここでハッキリいっておかないと、俺はこの過度でエッチな接待を楽しんだという既成事実ができてしまう。それに俺の今回の任務ミッションは、こういったアキノック将軍の行為をやめさせることだ。最初にガツンといっておいたほうがいい。が、アキノック将軍には、俺の言葉はまったく効果なし。


「はぁ? 天儀の側近って聞いたから、どんな美人がくるかと楽しみしてみれば、お前みたいなガキ。ま、天儀の女なら俺だってさすがに手が出せないから、指くわえて見てるだけってわけで、男でもむしろいいんじゃないかと思ったが、やっぱりウィンドウショッピングたって美人がいいわな」

「天儀総司令は、あなたのような司令部を美人で固めて、ハーレムを作るような男じゃありません!」

 

 俺が戦線旗艦リットリオに入ると、アキノック将軍は戦線総監部の高官達を引き連れてわざわざ出迎えてくれたのだが、それがもう目をみはるばかりの美人ばかり。ヌナニア軍は一千万軍隊といえども軍にこんなに沢山美人がいたのかと驚くばかりだった。そして、同時に俺はこの人に幻滅した。

 だって最低じゃないか。戦線総監は、総監部(司令部のこと)のメンバーを自由に指名できる権限があるが、どう考えたってアキノック将軍の指名基準は、女性であることと容姿だ。


 俺の抗議に、ムッと黙り込んだアキノック将軍だったが、聞き分けの良い上司のような顔をしてから口を開いた。

 

「男女平等だよ。というかいまでも軍隊となると一般企業に比べて女性の管理職は少ない。俺は、軍内の男女比率の帳尻合わせるために、大量に女性の高官を登用してんだよ。むしろ他の総監や総監部のお手本にされなきゃならんぐらいだ」


「どう考えても、そんな解釈は無理です!」

 と俺が声を荒げていうと、バニーのメロンヶ丘かのほうが、義成特命かたーい、といって俺の頬にチュッとキス。俺は耳まで真っ赤だ。


「ちょっとやめてください!」

「キャー。うぶな反応。義成特命ったら可愛い~」

 

 面白がる美人二人。次は巫女のスイカ連峰が、俺に絡みついてて頬にチュっと一発。なお、俺は気づかなかったが、これで俺の両頬には、真っ赤で形の良い唇の跡。めちゃくちゃはしゃいで遊んでるようにしか見えない情けない顔になっていた。

 

「……わかった。そうだな義成。天儀の女の好みを教えてやる。定期的に、あいつの好みの女性を紹介し、気の利く部下になれ。これで出世間違いなしだ」

「好みですか?」

「ああ、あいつだって男だ。男なら女が好きだ。まあ、俺だって同性愛は理解するし、不能になっちまう病気もあるって知ってるから、そうなっちまったらプラトニックな愛だってありだと思う。だが、俺達は健康な男児だ」

「つまり?」

「天儀は、胸のでかい女が好きだ」


 ドーンとばかりにいうアキノック将軍は、ジェスチャー混じりに教えてくれたが、俺は驚くやら、悲しいやら、腹立たしいやらで、とにかく頬を引きつらせた。あまりにくだらない。


「お前疑ってるな? だが、天儀の彼女。なんつったけ。あのすこぶる目付きの悪い髪の毛の綺麗なネーチャン」

「電子戦司令局。司令局長の千宮氷華せんぐうひょかです」

「それだ。デッカイだろ? あの目つき悪いネーチャンは、前の戦争で天儀の一番の側近だぞ。そして鹿島容子かしまようこ。あいつも天儀が見込んだ側近だったが、胸がでかい」

「二人だけじゃないですか。自分はこの艦にきて驚きました。通路を歩いていてすれ違うのは美人ばかりじゃないですか」

 

 ――最高だろ?

 というようにアキノック将軍が笑った。

 たしかに最高だが、軍隊としては最低だ。


「いやいや、俺が見るに天儀も相当だぞ。義成お前よく総司令部内の風景を思い出してみろ。男女の比率。そして女性の容姿。特に胸!」

「……た、たしかに男女の比率は女性が多いかもしれない。胸は……」

「大きいやつが多いだろ?」

「いや、星守副官房は可愛いですが、そんなに大きくありません。いや、小さい」

「違う。あれは着痩せするだけだった。平均よりあったぞ」

「え?」

「ふ、羨ましいだろ。俺は誰にでも声をかけて楽しむ。というかあのレベルなら俺が声をかけないわけないだろ。人生を楽しめよ義成。これは軍人としてじゃなく、男として人生の先輩としてのアドバイスだ」


 ……。なんだこの打ちひしがれた気分は……。これが寝取られというやつなのか。俺は別に星守先輩とそういう関係じゃないし、十代の少年じゃない。星守先輩は、大人の女性だ。別にアキノック将軍となにかあったとしてもいいじゃないか。俺は別に平気。そう。平気。そのはずなのになぜ……。しかし、そうか。あの星守先輩の私も口説かれたという話と、女の敵という言葉は、そういう意味だったのか……。


「総司令部の男女の比率は半々です。女性達もとくに容姿がいいとか、胸が大きいとかはありません。というかこれは完全なセクハラですよ」

「そうかー? 昔、天儀が付き合ってたセシリア嬢も抜群の美人じゃないか。しかもデッカイ。ボインだ」

「え、総大官アーチメサッドと天儀総司令は、そういう関係だったんですか!?」

「お前なぁ。俺が天儀のなにか知らないのか?」

「無二の親友だと聞いています」

「そういうことだ。天儀の昔のことを一番良く知ってんのは俺なんだよ」

「しかし、総大官アーチメサッドと天儀総司令という組み合わせは信じられない」

「まあ、これは俺の想像だ。ただ、かなり昵懇だったし、いまでそうだろ。それに旧軍で無名の天儀を押し上げたのはセシリア嬢の工作だ。当時から情報部でいいポストにあったセシリア嬢が、なんでわざわざ超格下の男に貢ぐようにして出世させたのか。ようするに、付き合ってたからだ。そうとしか考えられん」

 

 なるほど。と俺は思った。これはアキノック将軍の完全な思い込みだな。無二の親友とかいうわりに、天儀総司令本人にも確認していないだろう。アキノック将軍の脳内は、常に男女。いや、雄と雌。恋愛脳ならぬセックス脳だ。男女の関係をそういう角度でしか見ない。


「とにかくアキノック将軍。あなたが作った基地にも近い内に視察させてください」

「なんだ義成お前は、あそこに行きたいのか。結局は、お前も好きなのかよ。俺はてっきり天儀が、俺に内偵を送り込んできたと驚いて、慌てて接待の準備したんだぞ。ビビらせやがって」

 

 ここまで自分に都合よく解釈できるものなのか、と思った俺は、ハッキリと目的を口にすることにした。天儀総司令の意向は、アキノック将軍の解任ではない。更生だ。


「総司令部は、あなたの作った基地についてきわめて強い問題意識を持っています。俺が、内容を視察し、改善の指導をするので、従ってください。これが天儀総司令の意向です。いいですか? 改善です。それをするんです」


 事務的に、だが、わかりやすくストレートに伝えたが、アキノック将軍は困ったように顎をさすってから室内に声を放った。

 

「おい。義成はな。なんとあの黄金の二期生だぞ。お前らいまから唾つけとけばいい思いできるぞ。見初められれば特上の玉の輿だ! こいつは将来ヌナニア星系軍の総司令官のポストにつくかもだぞ!」

 

 途端に室内がどっと沸いた。まずは俺の左右からピンク色の声だ。バニーとエッチな巫女が、俺を更に強くサンドイッチ。

 

「え、義成特命ってそんなに凄い人だったの。今夜はお姉さんの部屋に来なさいよ」

「あんたは相部屋でしょ。私は個室だから、なんでもゆーっくり楽しめるわよ」

「いいの。部屋は五人でもベッドまでは共有じゃない。あ、五人で一緒に楽しめばいいかも。ねえ、義成くんは、お姉さんのところにくるのよねー?」

 

 などといって俺の耳をツンツン。そして、えにもいわれぬ良い香り。女性の香り(フェロモン)だ。なんだこれは、ダメだとわかっていても、本能が鷲掴みにされ揺すぶられる感じだ。男の性というやつなのか。鼓動の加速が止まらない。た、楽しい――。

 

 俺の周囲には、さらに女性が三人も加わって、後ろから二人抱きつかれ、膝の上に一人。俺の座るソファーと机の間にはほとんど隙間がないのにスルリと座られた。すごい。

 俺は完全になされるがまま、というか流れに身を任せるがままだ。頭はダメだと拒否していても、本能は完全に喜んでいて体が動かない。


「義成楽しめ! 俺が許可する。第七戦線総監で、天儀の親友で、軍で二番目に偉く、ヌナニア軍で最も早い男の俺がな!」


 アキノック将軍は、この部屋の中で一番の女性を腕に抱いて、盃を掲げて笑っている。

 

 まずいダメだ。だが、楽しみたい。きっと楽しい。アキノック将軍だって楽しめって言ってるじゃないか。これは俺の歓迎会だし、少しぐらいならいいんじゃないか? 明日から厳しくすれば問題ないし、俺の任務ミッションは遊興施設の健全化だ。エッチな遊園地を、普通の遊園地にすることをアキノック将軍が承諾してさえくれればOK。任務が完遂されれば、いま、ここで楽しんだことだって帳消しというか、問題視はされないんじゃないか?


 が、俺はまだどこかで冷静だった。怒涛の勢いで、快楽に身を任せろと脳内がフル回転しているのに、心の中には孤影があった。明るく真っ白な空間。広いのか狭いのかわからないが、中心には男が一人立っている。俺の心の中だ。

 ――あれは俺だろうか?

 と思った瞬間。男が振り返った。


 ――兄さん!


 俺は我に返り、体が動いた。絡みつく女性達を跳ね除けるわけにはいかない。身をかがめ、くねらせ美人達の拘束からスルリと抜けて、あっという間に、それまで座っていたソファーの後ろに立った。


 だが、俺は相当な怒気をにじませていたはずなのに、アキノック将軍はそれ以上に強引だ。

「お、義成がなにかしてくれるみたいだぞ! そうだ。歌えよ義成。そうとなったらカラオケの準備だ」

 と会を継続させようとしたが、そこに――。

「大変です! 手入れです!」

 という怒鳴り声。

 

 途端に室内は騒然。誰もが慌てふためき立ちあがって逃げだし始めた。


「くそ! もうバレたかッ。おい、お前らずらかるぞ!」

「ずらかる?」

「とにかく逃げるんだよ義成。お前も捕まるとやばいぞ」

 

 アキノック将軍が、俺の腕を掴んで引っ張った。


「やばいって?」

 

 あまりに突然の、しかもアキノック将軍の慌てように、俺は艦内に敵が侵入したとか、テロリストが入り込んで暴れだしたような事態を想定した。


「攻撃か。なら脱出しなければ――」

 

 脱出となれば、俺が入ってきた扉だが、俺がそちらへ向かおうとするとアキノック将軍は、

「そっちじゃねえ、そっちは絶対に封鎖されている。そっから出ればやつらの思うつぼだ」

 といって俺を連れて、俺が入ってきた扉とは別の方向へ向かった。

 

 室内はと狭い。行く手には、ソファーや机。床には酒の瓶や缶、料理と皿が無残に散乱している。

 

「こんなときのためにパーティー会場には、秘密の脱出口を作ってあんだ。そっから抜け出て総監室に戻る」

「戻るって?」


 俺は意味がわからない。攻撃をうけているなら総監室に入るより、指揮ができるブリッジだろ。そもそもなにから逃げているんだ。それに、いわばアキノック将軍は、この戦線の王。事実好き放題やっているのに、いまは、なにかを恐れるように逃げている。

 

 アキノック将軍が、日本酒やウィスキーの並んだでかい酒棚を体格に物をいわせて打倒した。

 

 すごい。一発肩でタックルして、棚がすこし浮いたところを流れるような動作で蹴倒したぞ。体格が良いだけじゃこんな事はできない。だって棚は安全上の問題で、壁に固定されているからな。

 そして倒れた棚の後ろには扉があった。

 

「よっし。いけるな。義成外に出たら全力で走れよ! 後ろから追われても振り返るな。総監室に入ってしまえば勝ちだ」

 

 俺は、まったく意味がわからないが、アキノック将軍の勢いに飲まれて、はい! としか返事ができなかった。

 

 ――ゴー! ゴー! ゴーーーー!

 と叫びならアキノック将軍が飛びでた。小隊がテロリストの籠もる建物に入るときさながらの気合の入った軍人らしい掛け声だ。

 俺もそれに続いたが――。

 

「クイック・アキノックそれまでよ。神妙しんみょうになさい!」

 

 秘密の扉からでると、そこには小銃を構えたフル装備の兵士の列と、腕組みしメガネを光らせる金髪の美人が立っていた。それも胸の大きい……。

 

 アキノック将軍……。あなたは、天儀は胸がでかい女が好きとかなり連呼していたが、そういった女性が好みなのはあなたじゃないのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ